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Remained GaMe  作者: ぼんばん
2章 switch-hitterの選択
19/50

解決編② -前編-

1回目と同じように全員がその場に集まる。

さすがに千藤も解放されたのか肩を回したり背伸びしたりしている。




「……誰が、梅子を消したの?」


「何で君がそんなにも憤っているんだ? 君が犯人だろう?」

「違う! あたしは、梅子を【強制退場】させたりしない。」



琴乃は冷静さを欠いているらしく、琴乃を犯人に決めつけるような発言をした前川を鋭く睨みつけた。



「待って、前川くん。証拠はあるの?」



恵が尋ねると懐から資料室で見つけたらしい【遺書】を出した。

琴乃は怪訝な顔をした。



「読むぞ。

『乙川さん

この手紙は調査の前に見つかっているのでしょうか。私は、弱かったです。

舘野さんを守るために、若狭さんと同じように、自分を犠牲にする凶行に及ぶしか手立ては思いつきませんでした。

たくさん、優しい言葉にかけていただいたのにこのような結果になって申し訳ありませんでした。

つらい役回りを押しつけることになりますが、よろしくお願いします。

涼宮梅子』だそうだ。」


「……なんで恵への手紙を宗佑が持ってるの?」



琴乃は前川の手から手紙を奪い取ると睨みつけた。すると前川は呆れたように鼻で笑った。




「何だ? 今更証拠隠滅を図るつもりか?

その文章から明らかに梅宮さんは自分から何者かに【強制退場】を依頼して自分を犠牲にした。

彼女が目にかけていた君が最も疑わしい位置だろう。」

「ちなみにこの時間のアリバイがない人は?」



千藤が軽い声音で尋ねると慌てて小雪がメモを出した。



「【みんなのアリバイ】、私たちで聞いてきたわ。今のところ、恵ちゃん、茉莉花ちゃん、風花くんが一緒にいて、由香ちゃん、寧々ちゃん、私は一緒にいたわ。

あなたは自分でよく知っての通りアリバイなし、前川くんは1人で倉庫に、桜庭くんはあなたとはぐれて施設中を探していた、舘野さんは1人で寝ていたそうね。」


「なら、僕、前川くん、桜庭くん、そして容疑者の舘野さんが候補な訳だ。」


「千藤くん、容疑者って言うなら明確な証拠でもあるの?」




恵が尋ねると彼は首を傾げた。




「そんなの僕はずっと赤根さんに見張られてたんだから知るわけないよ。それは君たちが証明することだよね?」


「……そうだね。」




恵は頷いた。

あの時、この世界から胸を張って出ると決意した。だから、真実を掴む。


まずは、今知っている情報からどうにか4人の可能性を絞るべきだ。




「あのさ、オレが気になること言っていい?」

「なになに、よっしー?」


「いや、このアバター状態が【無傷】っていうのが気になってさ……。しかも資料室じゃんか。本棚にぶつかったらそれで怪我しそうだし。」


「だからこそ、舘野さんが犯人なのだろう。彼女になら涼宮さんは命を差し出すだろう。」


「だから、他の可能性もないかってこと! 考える余地はあるよな?」

「無いと思いますけどね……。」

「まぁまぁ、前川くん。挙げるだけ挙げてみようよ。」




茉莉花が促すと皆うーん、と悩み始める。




「羽交い締めにして無理やり?」

「それだと怪我するんじゃ……。」

「隙を見て後ろから急襲、とかかな?」

「當間さん、それだと彼女の注意が余程逸れていたのでは……。」


「でも、可能性としてはあるかもね。注意が大きく逸れている可能性。」


「そんなことあるの?」

「分からないけど…ね?」



茉莉花の言葉に由香は険しい顔をした。

恵は記憶を遡る。



「あるよ、由香ちゃん。當間さん言っていましたよね?

涼宮さんが【強制退場】をほのめかしていたって。それに若狭さんの考え方に賛同的だったって。」


「ええ……言ったわ。」


「なら、誰かを狙っていたところを襲われたって考えられませんか? それだけ気を遣っていたなら棚のたくさんある資料室では他の気配に気づかない可能性だってあります。」


「でも、恵ちゃん。そんなことってある? その場合は関与する人が2人になる可能性もあるよね?」




桜庭の指摘はごもっともであった。

つまりパターンとしては、①信頼を置ける人物に梅子自身が【強制退場】を依頼した、②ターゲットを狙っている際に何者かに襲われた、この2パターンになる。

加えて②の場合、ターゲットと何者かがグルの場合とグルじゃ無い場合がある。




「んー……桜庭くんの言うことはごもっともかな。仮にターゲットと犯人がグルでなければターゲットから呼び出されたって申告があるはず。もしくはよく資料室を利用する人物か。

最悪のパターンはターゲットと犯人が協力者、とかかな?」


「あくまでも可能性の一部だ。最も可能性が高いのは、信頼できる人物に自らを捧げた、そのパターンだろう? ならその4人の候補であれば舘野さんだろう。」


「あたしには無理。だって端末壊れてるし。」




琴乃が端末を差し出した。




「それっていつから壊れてたの?」

「知らない、さっきの放送で起きたら電源が点かなくなってた。」



由香の問いに首を横に振る。



「それでは言い訳になるまい。大方、涼宮さんを【強制退場】させた後、壊したんだろう?」

「……宗佑は、私を犯人に仕立て上げたいみたいだね。それも、無理だから。端末が壊れるなんて聞いたことないし。」



その言葉に風花と茉莉花を一巡して見るが、2人は何もリアクションを返さない。

壊し方を知っているのは、恵を除きこの2人であるが、他の者も言わないあたりまだ言及すべき段階ではないのだろうと判断する。




「自然に端末が壊れるってことは……今この状況ならあり得るけど、可能性としては低いと思う。となると、誰かの手で壊したっていう方が自然じゃないですか?」


「恵の言う通り、【舘野の端末は常に置きっ放しだし誰でも持ち出せる】から、仮に舘野以外でも納得できるけどね。」

「そおそお、寧々も間違って持ち出したことあるし。でも仮に間違っちゃったとしたらすぐにわかると思うんだよねぇ。」


「どういうこと?」



うーん、と考えるように言う寧々はなにかを思い出すかのようにしながら呟くように答える。

もちろん、その内容について補足してくれる人物に視線を送りつつ。




「だってのんのんの端末の設定変だもん。まずスライドして開く方向が違うし、ロックとかもしてないし〜?」

「それはあたしが【左利き】設定にしてるからだよ。面倒だからロックもしてないし。置きっ放しにするからよく間違えて持っていかれたし。」



「よく?」




風花が琴乃の言葉に反応する。




「うん、恵の世界の時に1回、今回の世界で2回。1回目は自室で寧々、2回目はカフェテリアで春翔。3回目は分からないけど、資料室に置いてあったから勝手に交換した。その時は普通に点いたもん。」

「3回目っていつの話?」


「……確か、3日目の朝、かな?」


「それって信じられるのかしら…?」


「大丈夫、だと思います。私、3日目の朝端末を持った状態の彼女に聞かれたので。ちなみにその直後、端末を持った風花くんと会ってます。」

「オレもそれは証言しとく。ついでに、2回目の千藤の取り違えだけど、千藤がすぐに気づいてた。あと倉庫で2人で探し物した後、端末を持った舘野さんと涼宮さんが話しているところを裏庭で見た。」




風花の言葉に一部の者が怪訝な顔をした。




「やっぱり梅子ちゃんと話してるじゃん!」

「別に、それがあたしが犯人の証拠には……。」




琴乃が急にどもり始めた。




「やはり、君じゃないか。」

「あたしじゃないってば……。」

「それにそこならすぐに温室に行けるから端末も壊せるね。」




千藤が追撃を加え、琴乃がたじろぐ。




「なぁ、舘野さん。」


「……なに?」


「オレと…、乙川さん、実は少しだけ2人の話聞いたんだ。盗み聞きするつもりはなかったんだけど。」




琴乃は目を見開き、驚いたような顔をした。

恵の方に視線だけ移動させたため、謝罪の意も込めてゆっくりと頷いた。




「その時の、2人のやりとり聞いて、どうしてもオレは舘野さんを疑えないんだよ。

なぁ、その後何話したの? あれだけ涼宮さんが舘野さんに入れ込んでたんだから、何か相談とか提案とかなかったの?」



「……。」




彼女はグッと下唇を噛む。




「舘野さん。」




恵は静かに語りかける。




「もし、会話の中に2人に都合が悪いものがあるとして……、涼宮さんは絶対に貴方を守るための情報を残していると思う。もし、彼女を信じるなら。」




若狭の考えに賛同する、という言葉を信じるなら、彼が恵にしたように何かしらのヒントを残している可能性が高い。特に彼女のように聡い人間ならば。

恵は迷う表情の琴乃の言葉を待つ。





「……分かった。話す。

でも、きっとみんな信じてくれないよ。」




彼女は暗い表情で語り始める。




「恵と芳樹が言った通り、あたしは朝端末が自分のでないことに気づいて、探しに行った。途中会ったのは恵と莱と小雪。それで資料室にあったから勝手に交換した。

その後玄関前で梅子に会って、裏庭で話した。それで色々話聞いて梅子と仲直りした。……そこで梅子が提案してきたの。

それが、宗佑の言う通り、梅子を私が【強制退場】させる方法だよ。」



でも、と彼女は言葉を続ける。




「……私は嫌だったから。せっかく仲直りしたのに、梅子を消すなんて。断ったよ。

梅子はすんなり諦めてくれた。でも去り際に言ったんだよ。絶対に、あなたを助けますって。

だからあたしはその後、夕方まで梅子とずっといた。

でも、眠くなって仮眠室で横になったら……寝落ちした。」


「信じられんな。」

「本当だもん!」



前川が鼻で笑うようにあしらった。


恵は考える。

さて、舘野の言うことについては言及できるような矛盾はない。仮に真実だとして、犯人は誰か。




「ねぇ、1つ気になったんだけどいいかな?」

「どうした?」



茉莉花が口を開く。




「私は舘野さんを信じる。べつに犯人、または協力者がいると考えるよ。」


「なぜ?」


「ちょっと話がズレるけど、風花くん。君はこの話し合いの直前に温室に行ったよね?」




その話を聞いて恵と風花は茉莉花が言わんとしていることに気づく。




「ああ、温室の加湿器が暖房のすぐ近くに、プラスチックの容器と一緒に置いてあった。中はサウナ状態になっててかなりの高温だったな。」

「それが何の意味を……?」



桜庭は不思議そうな表情を浮かべた。




「それが大事なんだよ。

端末が壊れる可能性は、乙川さんの言う通り低いと思う。だからこそ、壊すんだよ。

プログラムの仕事をやっている人は知っている人もいるんだけど、端末は【熱に弱い】。なら、ここの設備で壊せるのはおそらく温室かキッチン。

人の出入りの機会を考えると……、ね?」




茉莉花の言葉で皆ハッとした。




「……さっき、温室に言及した人がいたよね?」




恵が言うと全員が千藤を見つめた。

しかし、彼はゲームがやっと始まったと言わんばかりに微笑むだけであった。




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