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Remained GaMe  作者: ぼんばん
1章 太陽は雲に隠れ平等でなかった
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解決編① -後編-


「さて、話を戻そうか。」



この沈黙に口火を切ったのは茉莉花だった。



「今の話が本当ならバットは米田くんの【強制退場】には関係がなかった、ということ。なら、犯人は他の物を使ったか。それか素手で米田くんを倒したということになる。」


「でも、芳樹が犯人なのには変わりないよな?」

「いや、そうとも限らない。」



反論するは若狭だ。




「なら誰が犯人なんだろーね?」

「……っるさい! お前が言うな!」

「ああ、犯人の君からしたらそんなの分かったことか?」


「……なら、ログアウトするから。みんな異論ないよね?」




「「待った!!」」




声が重なったのは、若狭と恵だった。

互いに目配せをして、若狭が先に口を開く。




「風花、お前がもし犯人なら話せるはずだろ? 米田の端末にあった謎について。」


「…………。」

「あの【強制退場】をするための画面が真っ先に起動してたってことだよな?」



ともに画面を確認した桜庭が尋ねた。風花は浅い呼吸で下を俯くばかりだ。

若狭は黙り込む彼を見て諦めたのかため息をついた。



「乙川も気になることあるんだよな? 頼む。」

「……分かりました。」



ここで恵は呼吸を整えた。なぜなら、彼女は今の彼の反応でとある可能性が頭に浮かんでいたからだ。




「一度、皆さんの端末に表示されるアイテム使用歴を確認しましょう。

もちろん、使用時間が推察できる風花くんと由香ちゃんも含めて。」


「なっ……、オレはもう使ったって認めただろ!」

「確認のため、だよ? それとも風花くんには見られて困ることでもあるの?」




茉莉花の援護射撃により風花は抵抗の手立てを失ったようだ。



「なら……言い出しっぺの私から。私はBBQの時に利用した食材だけです。」

「私はプログラミング補助に関するアイテムを数種類、だよ。」



恵と茉莉花が順に見せると他の者の警戒心が緩んだのか続々と端末を開き始めた。



「あたしは安眠枕と安眠毛布。」

「オレも恵ちゃんと一緒、BBQの時に使ったお菓子と食材だけ。」

「……オレは赤根さんと同じ、プログラミング補助アイテムと探索物発見機だ。図書館の探索の時に使用した。」

「私はご覧の通り使用していません。」

「寧々もお菓子だけ!」

「私も同じよ…。」



若狭は赤根に使用歴の出し方を聞いているため時間がかかりそうだ。



「僕はこの通り、何も使用してないよ。」



千藤も言う通り履歴はない。由香は諦めたように、のろのろと画面を開いた。

恐らく皆の視線に耐えきれなかったのだろう。



「食材、と……外傷治療アイテム。野球のバット……。」



その言葉に周囲の者は黙り込む。



「風花さん? 早く出してください。」



いつまで経っても端末片手に動かない彼に痺れを切らした梅子が掲示を促す。

ここで、恵の可能性は確信に変わった。それとともに自身の血の気が引いていくことがわかる。




「風花くんは、出したくても出せないんです。」



「……どういうことぉ?」



寧々が首を傾げるが、一部の者はすでに勘付き始めていた。



「だって、何かが起きて風花くんが2つの外傷治療アイテムを使っていないことを証明できない限り、あと1つ使ったのは間違いなく……。」






「オレだな。」






場に響くは若狭の声。

信じられない、信じたくない

空間をその想いが包み込む。



「……確かに、履歴にも残ってるよ。」


「だろうな。」



あっけらかんと答えてみせる若狭に周りは言葉を失う。



「……私は、由香ちゃんがケガしているところを見ていません。恐らく、3日目明朝に利用したのは由香ちゃんです。そして、八重島さんが言っていた【風花くんの怪我】の様子からするに、彼は3日目の昼に使用しています。

答えてください、若狭さんはなぜそれを使用したんですか?」


「……別に、ちょっとした怪我をしちまったからだよ。それに、乙川だって聞いただろ? 涼宮が言った【アリバイ】じゃ、オレは犯人になり得ない。」


「そんなことはありません! 彼女は1時頃、1回だけお手洗いのため席を外したと言っていました。……もし、彼女が居座る前からB棟にいた場合、ずっと一緒にいた八重島さん、當間さん、舘野さん以外は米田さんを【強制退場】させることは可能なんです。」


「……確かに素手で米田くんを倒せるっていう条件には当てはまるわね。」



他の者も納得しかけた最中、風花が急に動いた。



「それこそ不確定要素だろ! ……ッ、確かにアイテムのことは乙川さんの言う通りだとしてもそれこそ証拠がないだろ!」


「……残念だけど風花くん、君が彼を助けようとして行ったことが逆に私たちに決定的な証拠を与えてしまったんだよ。

乙川さんはもう分かってるよね?」



茉莉花の言葉に恵は頷いた。





「【呼び出しのメモ】だよ。」



何人かがそれを覗き込む。



「あのさ、申し訳ないんだけどなんでそれが決定的な証拠になるの? オレからすればただのメモ……まさか筆跡鑑定とかそういうこと?」

「あら? でも何か時間の後に点があるわね? 書き癖かしら?」


「……それは、その。」



當間の言葉に吃り始めた。

どうやら彼は恵の言わんとしていることに気づいたらしい。



「……もう風花くんは気づいているみたいだけど、『相談したいことがある。夜の24:30'に2階の書斎に来てくれ。』って書かれた、この24:30'は24時30分ジャスト、ってことらしいの。私たちにとっては何の意味もないアポストロフィ、とある競技をしている人たちにとっては大切な意味があるらしいの。」


「そう、それは1分1秒、コンマ以下のタイムに左右される競技の人間にとっては重要な記号。」




そう告げたのは若狭だった。




「これは……若狭さんが書いたものですよね。

そして、それを使って米田さんを呼び出し、【強制退場】させたのも、若狭さんですよね?」






「…………そ、乙川の言う通りだよ。」






「……ッ、何で!」



風花の悲鳴に近い抗議の声とともに恵は膝から崩れ落ちた。

世界が自分の記憶で作られた時とは違った、絶望感。


しかし、若狭は悠然と立ち続けていた。

これから、自分の身に起こることをすでに受け入れているかのように。


まるで、試合前のように堂々と。



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