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Remained GaMe  作者: ぼんばん
1章 太陽は雲に隠れ平等でなかった
11/50

解決編① -前編-

ログインルームに入ったのは恵達が最後であった。

場は静寂が包み、緊張の糸が張り詰める。

やはり、というべきか口火を切ったのは若狭であった。



「まぁ黙ってても始まんねーし…何か話そうぜ。意見ある奴はいるか?」


「そんなの決まっているだろう。怪しいのはただ1人、風花さんだ。」



名指しを食らった彼の表情が固くなる。



「涼宮さんが言っていた。彼女は米田さんがいなくなった3日目の夜カフェテリアにいたため【みんなのアリバイ】を知っている。」

「……そもそも、だけどそれは信じられるわけ?」



風花が尋ねると前川が眉を顰めた。



「それなら千藤さん、小塚さん、米田さんが通りましたよ! ね!」

「そうだね…。」

「うんうん、確かにいたと思うよ。」

「ならこの証言は確実だな。」



風花は何も言わない。

恵は彼にかける言葉が見つからなかった。

どうして彼は何も言わないのか。



「風花くん、どうして何も言わないの?」

「……別に。」

「別に、じゃ分からないんだよ! 本当に君なの?! たくさん、話してくれたのに、あれは嘘だったの?」


「………。」



風花は何も言わない。それに痺れを切らしたらしい寧々が少し苛立った様子で呟いた。



「でもさぁー? うめっちの話が本当ならさぁ、どうやったってよっしーが【強制退場】させたんでしょ? よっしーが認めようが認めまいが関係なくない?」

「そ、そうよね…。現状、風花くんが怪しいのは間違いないんだもの。」

「そーだよ…アンタが。」



次いで小雪、由香が同意したが、恵は反論した。



「でも、納得はできない。確かにその時間にいたのかもしれないけど…。

若狭さんが言ってくれたように、私はみんなと一緒に戦いたいんです。だから、ちゃんと、真実と…。」



風花が驚いたように目を丸くするのが視界の端に見えた。しかし、皆の視線、自分の言葉の責任、滲み出る疑念が恵の手を震わせた。






「よく言った、乙川!」




その時、横から聞こえたのは若狭の声だった。




「……オレも、真実を明らかにしなきゃ気が済まねー。だから、付き合うぜ。」


「若狭さん…。」


「うん、そうだね。私も乙川さんに賛成。」



反対側から静かに、しかし確かに強さをもった茉莉花の声が響いた。



「推理の基本は、論理と証拠の積み重ねによって導かれた事実と確実な動機付け。風花くんがその時間帯にB棟にいたのは事実だけどまだいくつか疑問は残っているよ。」


「複数あるのぉ?」



琴乃はため息に近い質問をすると茉莉花は頷いた。



「…その前に、推理の基本を説明するね。導くべきは1つ目に誰ができるのか、2つ目は動機、3つ目はトリック。

風花くんが黙秘権を行使しているから1つ目か3つ目から話し合った方がいいと思うな。さて、ここで何か気になること、ないかな?」


「気になること……。確か、【米田さんのプロフィール】では彼は元バスケ部で体格もこの中で1番良かったはず。なら、どうやって彼を気絶させたんでしょうか。」


「そう、私が1番疑問に思ったことはそこ。そしてもう1つ、あの時間帯にB棟にいた千藤くんと小塚さんは何も見ていないのかな?ってことだよ。」



どや、と言ったように鼻息を荒くして茉莉花が言い切ると僅かに由香が肩を震わせた。



「じゃあまずは米田を気絶させた方法について、だな。」


「うーん…【アバター状態】に全身の擦り傷ってあったじゃん?それかな?」

「まぁ芳樹ならできないこともないけど…。」

「あ、裏庭にあった【バット】はどお?」

「確かに、それで殴ればいいかもしれないですね。でもその場合は打撲痕とか残りませんか?」


「シンプルに、階段から突き落としたんじゃない?」



千藤の言葉に全員がハッとした。

確かに彼が消された場所は階段近くであり、決してあり得ないことではない。



「でも、それならさ、よっしーはだいぶ頑張ったんだね。だって無傷だもんね?」



寧々がそう言うとその横で前川が首を横に振った。



「いや、【アイテムの使用履歴】では外傷治療アイテムの消費が3回分確認されている。そのうちの1回ではないか?」


「…………。」


「ここまで言っても、黙秘権を行使する?」



千藤が不思議そうな顔をして尋ねた。

風花は何度か唇を舐めつつ、視線を泳がせている。適切なタイミングで、適切な言葉を発するために。





「……待って、おかしいよ。【風花くんは確か3日目の朝、腕を怪我していた】よね? でもそれはお昼には消えていた…そうだよね、八重島さん?」


「うん! 寧々は見てたよ。」



恵の言葉に頷く。



「……外傷治療アイテムは1人1つ、だからその時点で使用していたら使えないはず。なら、4日目の明朝にアイテムを使ったのは誰かな。」


「……オレだよ。」



風花がやっと声を出した。

しかも肯定の意。




「3日目、アイテムを使ったのはオレだ。それで4日目の明朝米田さんを呼び出して、バットを避けさせて階段からあの人を突き落とした。

気絶したあの人を【強制退場】させたのは、オレだ。」


「……本当にバットを使ったの?」


「ああ、バットは当ててねー…。」




「なら、矛盾してるよ、風花くん。バットは、【ひしゃげていた】んだよ。それにバットはどこに捨てたの?」


「……裏庭の、雑木林。」




ここで矛盾を発見した。

風花は嘘をついている。

そこで、ふと恵は【2日目夜の出来事】について思い出した。先程から何も話さない、いや風花に犯人を誘導するような彼女たちに話を聞かなければならない。



「小塚、確か2日目の夜に風花と揉めてたらしいな。千藤に聞いたぞ。」


「なんっ……!」



由香は急に顔を上げたと思えばすぐに視線を外してしまった。二の句を次ぐは若狭だった。



「……2人はその時に怪我をしたんじゃねーか? なぁ、涼宮、風花が戻ってきた時、コイツは怪我をしてる様子はあったか?」

「……無かったです。」

「なら一瞬部屋に戻ったとは言え、怪我を治すのは無理だろ。仮に何らかの方法で外傷治療アイテムを使ったとしても、4日目の怪我を治すためには風花は涼宮の横で使用しなきゃならねーはずだ。」

「言われてみれば……そうですね。」


「そして、さっき風花が【バット】の放棄した場所を間違えたことを踏まえると例え風花が米田を突き落としたとしても、【バット】について嘘をつく、あるいは知らない理由があるはずだ。なぁ?」



千藤、と若狭は言い放った。




「お前、見てたって言ったよな?2人の喧嘩を。」

「言ったけど?」



千藤はどこ吹かぬ風、笑顔を崩さなかった。



「乙川、あの時千藤は何て言ったか覚えてるか?」

「確か…『怒鳴り声の後、甲高い音が聴こえて…その後何かが落ちた音がしたかな。顔を出して見てみたら風花くんがA棟に走って行くのが見えた』ですか?」


「そう、つまり甲高い音・バットが振り下ろされて風花が階段から落ちた。そしてA棟に逃げた、ってのが可能性かな。」


「随分と確定的に言うね?」

「ああ…だってオレは見てたからな。」



千藤が若狭の言葉に顔をしかめる。



「……オレが気になってるのはその後だ。お前はその場から逃げたって言ったけど何か話しかけてたよな?

それに、バットは男子トイレの裏手に落とされていた。これ、千藤が協力したんじゃないか?小塚を守るために。」


「そんな……。」



恵は若狭の言葉に驚愕の色を隠せなかった。

慌てて由香を見つめたが、彼女は顔から大量の汗を流しながら佇むだけだ。

それを一瞥した千藤は、スッと表情を消すとため息をついた。




「小塚さんを守る、ね?」



「春翔?」



桜庭は隣の千藤を心配そうな顔をして見つめた。



「若狭さん、アンタの考えてることはよく分からないよ。」

「……。」



若狭はその言葉に仕方ないように微笑むばかりだ。その表情の意味は、真実を知るとある人物を除き意図を理解するに至らなかった。



「若狭さんの野生的な勘は賞賛に値するよ。よく分かったね。」



「は…、なら本当に千藤くんが、小塚さんとグルで…?」



他の者も小雪と同様に戸惑いを見せる。一方で当事者である由香は射殺すような目で彼を睨みつけていた。



「由香ちゃん……?」

「……っ、何もかも。」



「風花が、悪いんだよ! あんなことを言うから!」




彼女は鬼のような形相で風花を睨みつけた。

そして、彼女は千藤に向かって駆け出していた。咄嗟に抑え込んだのは桜庭と梅子だった。




「………千藤くん、経緯と理由を話してもらえるかな? 」


「全然構わないよ。」




ーーーーーーーーーーーー

それは2日目の夜のことであった。

千藤が図書館にいた時、廊下を風花と由香が歩いているのを見かけた。彼は純粋な興味で2人の会話を、図書館で息を潜めて聞いていた。



「こんな所に呼び出して何の用?」

「……乙川さんのことですよ。」



この会話から由香が呼び出されたのは一目瞭然であった。



「恵のこと? アンタ、口出せる仲なの?」

「オレは別にそんなんじゃない。……若狭先輩は違いますけど。」


「は?」


「アンタの乙川さんに対する関わり方は互いに互いを苦しめることになります。

アンタの言動は乙川さんを心配してやってる、って感じがします。私以外を頼るなって。

せっかく世界を広げようとしてる乙川さんを妨げるようにしか見えない。」



風花が言い切ると彼女は肩を震わす。



「恵は私がいないと生きていけない! だから支えてるだけなのに、何で数日の付き合いの風花に言われなきゃいけないわけ?」


「だから、それはただの共依存なんすよ!

それに現状であの子に必要なのはこの世界から脱することだ!

物事の本質が見えない状況じゃ、本当に乙川さんが誰かを必要とする時を見逃しますよ!」




「ーーッ、ならアンタが消えてよ!!」




廊下に甲高い音が聞こえる。

バットが振り下ろされ、床に叩きつけられた音だった。彼は怯まずに彼女の細い手首を踏みつけたため、バットは床に落ちた。



「小塚さん、正気?!」


「アンタが、消えれば! 私たちは!」




「幸せになれるんだ!!」




彼は動きを止めた。

彼女が再度拾い、振り下ろされたバットに反応できず咄嗟に腕で庇うが、場所が悪くそのまま彼は階下にバランスを崩す。

大きな落下音が鳴った後現場を見ると鬼のような形相をした彼女が階段の下を見下ろしていた。




ーーーーーーーーーーーー




「そこで僕は彼女に尋ねたわけ。大変だね? って。勿論襲われかけたけど、『今君が僕を消したら犯人は君確定、乙川さんにも軽蔑されちゃうよ』って。

だから別日に風花くんを消すことを提案したんだけど昨日はひよりやがってね…。

恵に軽蔑されたくない〜証拠隠滅を手伝って〜なんて泣き言を言ってたから僕が男子トイレの窓から捨ててあげたわけ。


ま、結局は誰かさんが見てたせいでバレちゃったけど? 残念でしたね?」



「殺す! 千藤、お前だけは殺す!」




本当にこれは由香ちゃんなの?


恵は言葉を失った。

獣のような咆哮をあげる由香、そして悪魔というには黒過ぎる千藤。



しかし脳内にはどこか冷静な自分がいた。




自分を襲ってきた由香を庇っていた?

由香を脅した千藤を庇っていた?


風花くんはなぜ嘘をついたの?




恵の中では最低最悪の可能性が浮上していた。


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