お前だけじゃない
ACLこそ振るわない戦いが続いた和歌山であったが、リーグ戦では快進撃を続けていた。
そんなチームを止めたのが、同じく日本代表を多数抱える鹿島だった。10節、敵地に乗り込んだ和歌山は、“かつての戦友”たちによって阻まれた。
「ぐおっぐ!」
「なんの!」
バイタルエリアで繰り広げられたのは、和歌山のエース剣崎と、鹿島のセンターバック、大森優作とのマッチアップ。高校時代、屈強な長身長躯を有しながら極度のマイナス思考を持っていたことから、『でくの坊』というネガティブなイメージを持たれていた大森は、かつて和歌山でプレーしていた。デビュー戦では退場処分を喰らうなど心が折れてもおかしくなかったが、辛抱強く起用したことで台頭。J2優勝と天翔杯優勝にレギュラーとして貢献し、鹿島にヘッドハンティングされてからは日本代表の常連選手にまで成長。現在のJリーグでは『剣崎をつぶせる唯一のCB』と称えられている。
そんな大森はこの日も仕事を完遂。4連続ゴール中と絶好調の剣崎と互角の空中戦をこなし、和歌山の勢いを止める。コンビを組む鹿島生え抜きのエリート、小野寺栄一もまた裏を狙う竹内や桐嶋のスペースをつぶし、見事なカバーリングを見せた。
そしてそんなセンターバックコンビをかいくぐってゴール前にたどり着いても、鹿島のゴール前には異色の守護神が立ちはだった。
前半のラストプレー、和歌山が得たフリーキックのチャンス。小宮が放った美しい曲線を描いて壁を越えた直後、急激にブレ始めたシュートは、ゴールの左隅に突き刺さる直前に鹿島の守護神、友成哲也がはじき返した。入ると確信した小宮が天を仰いだのは言うまでもない。
中学までは野球、それも世界大会でMVPを獲得したほどの実力者でありながら「飽きたから」という理由でサッカーを始める。それもユースで。常識的に未経験者がいきなりプロクラブのユースに入れるわけがない。だが、そのポテンシャルにほれ込んだ和歌山の今石GM(当時ユース監督)の鶴の一声で獲得。プロ昇格後はすぐに守護神の座を不動。キーパーにしては小柄な176cmのハンデをかすませる超人的は反応からなる好セーブと、PKを決めた実績もある正確な足元の技術を持つ、日本有数のGKとなった。和歌山に多くのタイトルをもたらしたのち、昨年から鹿島に移籍すると、シーズン中の監督交代などで出番を得、ここでも定位置を手にした。
この試合、和歌山は枠内にシュートを7本飛ばしたものの、全て友成の手によってはじき出された。そして後半アディショナルタイム、セットプレーから大森のヘディングシュートが決まり、鹿島が快進撃の和歌山に土をつけた。
「今日はかつての友にやられたよなあ」
試合後、ピッチで整列して互いに健闘を称えあう際に、竹内は友成に言った。
「まあな。どうも代表はお前らありきで語られがちだからな。今日は俺たちが主張する番だと思ってな。いつも以上に気合を入れたぜ」
「しかし、こうしてみると、お前に優作(大森)、そしてうちのエース。・・・正直言って、普通のクラブユースじゃ取らないよな」
「ああ。シュートだけの単細胞とサッカー未経験者だからな。ま、あんときの和歌山はJリーグじゃ下の下レベルのクラブだったらか、なりふり構わずいけたってもあるしな。まあ、ロシア行きが決まった暁には、感謝のコメントぐらいは残してやるよ」
振り返らず手を挙げて去った友成の振る舞いに、竹内は苦笑した。
だが、和歌山はその後も代表定着、あるいは逆転での選手を目論む『戦友』たちにやられる。続く11節、ホームでの川崎戦は、かつて五輪代表でアジア予選を戦った巨漢GK渡由紀夫が立ちはだかり、二連連続で完封負けを喫し連敗。さらに12節のアウェー横浜戦は、桐嶋のゴールで先制するも、昨年まで所属していたDF結木千裕のサイドアタックから同点に追いつかれドローに終わる。3試合勝利から遠ざかったことで、順位も5位まで落とした。
それでも迎えた13節、仙台でのアウェーゲームでチームは復活する。練習での負傷やコンディション低下、累積警告もあってスタメンを一部変更を余儀なくされたが、それが次の通り。
GK1天野大輔
DF32三上壮一
DF23沼井琢磨
DF20外村貴司
DF19寺橋和樹
MF3内海秀人
MF17近森芳和
MF16竹内俊也
MF5緒方達也
FW13須藤京一
FW9剣崎龍一
外国籍のエデルソンとソン・テジョンがともにベンチにも入らず、逆にFW須藤が今季初スタメン。久しくスタメンから遠ざかっていた若きストライカーが、停滞気味なチームの雰囲気を変えた。
序盤から積極的に仕掛け、剣崎がつぶれながら空いたスペースを活用。先制点は剣崎がマークを完全に惹きつけたことで生まれたエアポケットに飛び込んでのゴールだった。さらに前半のうちに竹内の得点もアシスト。いきなり2点に関わってチームの雰囲気を変える。
「スド、やるじゃねえか。今日はいつもと違うな」
「ったりまえっすよ剣崎さん。俺はいつ忘れられてもおかしくない崖っぷちなんすからね!」
剣崎の声掛けにそう笑みを見せる須藤。後半途中に退くまで精力的なプレーを見せる。そして代わりに入った同じく若手FWの村田も結果を残す。コーナーキックの場面、気配を感じた剣崎はバックヘッドで流したボールを落ち着いて仕留め仙台を突き放す。剣崎ら主力のお株を奪う活躍で3-1の勝利に貢献したのだった。
次話からおなじみとなったあのコラボです。