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露骨な財力差

 リーグ戦は好調な滑り出しを見せている和歌山。だが、その姿はACLに舞台を移すと、まだまだ世界との壁が存在するということを突き付けられていた。



 リーグ戦のホーム開幕戦から中三日。チームは中国の地に移り、北京に本拠地を置く北京金龍というクラブと矛を交え、結果は4-1と完敗を喫していた。

 プレーオフを勝ち抜いて本戦にこぎ着けた和歌山だが、3試合を戦い終えて獲得した勝ち点はわずかに1。敵地ではいずれも大敗するという苦戦を強いられていた。



 初戦は中東カタールの強豪アル・ジャファールとのアウェーゲーム。慣れない長距離移動と日本のとは大きく違う気候、さらに九分九厘が相手サポーターで埋め尽くされたスタジアムの雰囲気に、剣崎、竹内、内海の現役日本代表以外の選手たちが飲まれた。相手のファーストシュートを、身体の正面だったにもかかわらず、天野がファンブルしてしまうイージーミス。すかさず押し込まれて先制点を献上すると、守備陣が不用意なファウルを連発してフリーキックのチャンスを大盤振る舞い。追加点はPKによるものに留めたものの、ペースを相手に握られたまま試合は推移。どうにか後半の立ち上がりは持ち直して失点を防ぎ、終了間際に剣崎が執念のゴールをあげたものの、そこからギアを上げてきた相手の猛攻を凌げず3失点。5−1と完敗した。

 Jリーグ開幕戦を挟んでのホームでの第2戦は、韓国Kリーグ屈指の強豪・全代ワイバーンズ。この試合、和歌山は試合の主導権を握り続けた。前半20過ぎにセットプレーのチャンスを得ると、小宮のフリーキックを外村が頭で押し込んで先制点を挙げる。程なくして全代のブラジル人エースFW、ディエゴ・マルケスの一撃で追い付かれたものの、前半終了間際に、西岡の突破からチャンスを生みだし、バイタルエリアがゴチャゴチャしたなかで、最後はこぼれ球を内海がミドルで叩き込んで再びリードを奪った。

 しかし後半。さあこれからと仕掛けたいところで、開始早々ディエゴ・マルケスの個人技に屈して呆気なく同点に追い付かれる。さらに先制点を決めた外村が危険なスライディングで一発退場。そこから後半40分頃まで劣勢を強いられる。

 だが、ここをどうにかしのぐと、剣崎−竹内のホットラインが土壇場で機能し、アディショナルタイムに入る直前に、竹内のクロスを剣崎がボレーで叩き込んでみたび勝ち越す。

 これで勝てていれば良かったのだが、そこに立ちはだかったのはまたもあのストライカー。後半アディショナルタイムも目安の3分を過ぎて、これがラストワンプレーだろういう場面で与えてしまった直接フリーキックのチャンス。これをものの見事にディエゴ・マルケスに決められてタイムアップ。勝ち点2をこぼしてしまったのである。



「ちくしょう!!」


 ロッカールームに引き上げるや、普段は温厚な天野が憤懣やるかたない表情づグローブを外すと、それをベンチに叩きつけて感情をあらわにした。見かねた内海が肩を叩いてなだめた。


「まあ、こういうこともあるさ。そう気に病むなよ」

「そりゃわかってるけどさ…正直やってらんないよ。あんな選手、Jどころかアジアにいること事態おかしいだろ。現役のブラジル代表で、去年か一昨年まではスペインのラ・リーガにいたんだろ?…初めてだぜ。試合中に『ハットトリックやられるな』て感じたのはさ」


 天野はそう言って自虐的な笑みを見せる。実際、内海をはじめ守備陣の表情は同じだ。地の利を活かして試合を優位に進めたもの、相手の選手層との差は質量ともに大きかったのだ。



 アル・ジャファールはカタール代表の主力とアフリカ大陸の有望株の混成軍。全代は実質韓国A代表と五輪代表のオールスター、北京にいたってはほんの5年前には欧州五大リーグでプレーしていた選手がスタメンの半数を占めていた。

 いくら和歌山が代表選手、あるいは経験者がいるとは言っても、ここまでの選手を集めるだけの財力はない。金の力は特に日本人が毛嫌いするきらいはあるが、実際発揮されたら戦術や特異さで上回るのは無理だ。


 だが、剣崎はそのなかでも3得点を決めており、クラブの、日本代表のエースストライカーとしての意地を見せていた。



「大したもんじゃない。Jリーグだけじゃなくて、アジアの舞台でもゴールを奪ってるんだから、同じFWとして尊敬しちゃうわ」

「つってもよ、俺一人どうこう言われんのはいい気分しねえぜ。周りのやつらだって少なくとも俺以上に頑張ってたりしてんのによ」


 北京戦後、宿舎にて剣崎は幼馴染みであり、今では恋仲になりつつある相川玲奈と電話していた。向こう側から労いの意味でかけてきたのだが、対して剣崎は忸怩たる思いを吐露していた。そんなボーイフレンドに、相川はこうアドバイスを送った。

「まあでも、あんたの場合はゴールのことだけを考えてるぐらいが丁度いいわよ。あんたが思う以上に、ゴールを奪うことって難しいんだから。いつでも獲ってくれる選手がいるからみんなが走れてるんだからさ。じゃ、次はリーグ戦頑張って」

「ああそうする。代表の強化試合もあるし、まずはリーグ戦でうさ晴らすわ。…ありがとよ」





「あん?お前なにやってんだ?」


 そのころのロビーにて。一角にあるラウンジでくつろぐ栗栖を見て、小宮が声をかけた。


「今剣崎が取り込み中でな。電話しやすいように出てきたんだよ」

「なんだそりゃ?」

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