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本領発揮

 竹内のシュート性のクロスに、相手DFに身体を寄せられながらも、頭で合わせてキーパーの逆を突いた剣崎のシュート。だが、バランスが崩された影響か、完全に逆を突ききれず、キーパーが懸命に伸ばした脚に当たった。弱々しく跳ね返されたボールに小宮が詰めるが、間一髪ブリーラムの選手がクリアしてコーナーキックに逃げた。


「だーくそっ!!逆突けなかった!!」


 ピッチに突っ伏した剣崎は、そう声を荒げた。一方で、小宮は珍しく敵の守備に目を細めていた。

「ちっ。意外とやるもんだなこいつら。セカンドボールへの反応がいいや」

「でもコミよ。セットプレーのチャンスが来たんだ。ここでねじこんでやらあ!」

「どうだろな。このコーナーキックじゃ点はとれねえよ」

「は?何弱気になってんだよ。らしくねえな」


 小宮の発言が理解できず、剣崎は首をかしげる。対して小宮はいつも通り剣崎を嘲った。


「相変わらず脳みそが動いてねえな。うちにはどれだけセットプレーが得意な選手がいると思ってんだ?そんな連中を相手にしてコーナーキックに持ち込んだのは、よっぽどセットプレー対策を仕込んできてるってことだ。これだから単細胞は困るわ」

「て、てめえそんな言いぐさはねえだろチクショウ!!」


 しかし、小宮の懸念通り、ブリーラムのディフェンスは固かった。小宮がボールをセットしてゴール前を見やると、隙間という隙間にブリーラムの選手たちがポジションをとっている。


(こりゃいい感じで密集してやがるな・・・。一発で仕留めねえととれねえぞ)


 小宮はそう思案し、味方の一人にアイコンタクトを送る。そして助走をつけてクロスを打ち上げると思わせ、急停止しポンとボールを転がす。そのボールに反応したのは近森。近森はすぐさま小宮に返す。その時、ゴール前の選手たちのポジショニングが大きく乱れる。いわゆるショートコーナーだ。

(ごちゃっとさせれた。これ決めろよ!)

 小宮はすぐさまクロスを打ち上げた。しかしボールに先にふれたのはブリーラムのゴールキーパーだ。彼だけはショートコーナーに釣られることなく、冷静にクロスをパンチング。跳ね返したボールはDFがクリアした。


「惜しかったな、コミ。ばってん、奴らなかなか冷静ばい」

「ちっ。こりゃ直接で叩き込むか、ピンポイントでダイレクトシュート。それを一発で仕留めるしかねえな」


 近森に、小宮はそうささやいた。



 電光石火の攻撃から先制点のチャンスを得た和歌山だったが、モノにできなかった。事前のミーティングでブリーラムの守備とスピードについて予備知識を持ってはいたが、実際体感することで、それがなかなか厄介なことを痛感させられた。

 だが、試合はほぼ和歌山のペースといってよかった。再開後反撃に転じてきたブリーラムだが、中盤でのパスがことごとく通らない。猪口、近森のポジショニングとインターセプトが冴えに冴えていたからだ。中央での縦パスが通らなければ、ピンチらしいピンチはそうそうない。


(く、くそ。この2番と17番がいるとサイドから行くしかない!)


 ブリーラムの司令塔役である選手は、ボールの出しどころに迷った挙句にサイドからの攻撃に活路を見出そうとするが、そこで暴れたのが西岡だった。左サイドバックで先発した新戦力は、そこにつながれたボールを奪い、持った選手をひたすら潰す。その獅子奮迅ぶりは南米でもまれつつ力をつけ、名古屋のJ1昇格にも貢献した看板に偽りなしであると示す。そして、先制点も生んだ。


「おいおい、日本代表がゴロゴロいるんだろうちには。さっさと決めるぞ」


 左サイドを駆け上がりながら、止めにかかるDFたちをターンで交わし、あるいは加速してぶち抜き、一気にアタッキングサードに突っ込んできた西岡。ゴール前の味方の人数が足りないと見るや、いったんタメを作ったのち、再び切り返しでマーカーを振り切り、グラウダーのクロスを打ち込む。そこに逆サイドから竹内が滑り込んでくる。


「ニシさん、ドンピシャだぜ!」


 ボールは狂いなく竹内の右脚。そのスライディングしていく線上にピンポイント。竹内はつま先でただ押し込むだけで良かった。



 この先制点が、チームの緊張感を一気に振り払った。言わずもがな、和歌山の攻撃陣はJリーグ内は無論、アジア全体でもトップクラス。いかに力をつけている東南アジアの急先鋒とはいえ、少なくとも決定力を防ぐ術はなかった。


「トシばっかにいい恰好させれっかよ!俺だって決めるぜ!!」


 前半終了間際。ゴールへの意欲と嗅覚を研ぎ直した剣崎が、その時をものにする。相手のDFラインの裏をギリギリのタイミングで突破。それを見越して放った小宮のキラーパス。剣崎は左足でダイレクトで流し込んで追加点を見事に決める。竹内、剣崎の日本代表コンビが、その得点力を見せつけて前半が終わった。


「2点は取れたが油断はするなよ?向こうは連携もいいし、なによりこちらのスピードにもついてきている。特にゴール前の守備はセカンドボールにいい反応を見せている。だからワンタッチプレーでかく乱させて、相手の守備を浮足立たせろ。変に構えず、どんどん前がかりに行け!」


 後半、松本監督はそう指示を出したのち、右サイドバックを三上からソンに交代。ビルドアップの圧力を高め、ウイングの桐嶋、竹内の推進力をさらに活かす戦術に切り替えた。これにより、和歌山の十八番であるサイドアタックはますます勢いづく。

 やがて後半開始から間もなく、頻繁なサイドチェンジの末に最後は竹内とのワンツーからソンが放ったクロスを、剣崎がバックヘッドで流す。そこに飛び込んだのは桐嶋だった。


「もらったあ!!」


 頭から飛び込んでの一撃は、キーパーの手に当たりはしたが、勢いは死なずそのままゴールの中に吸い込まれた。桐嶋にとっては復帰後初戦で初ゴール。決まった瞬間、一目散にゴール裏のサポーターの下へ駆け出した。


「どうだっ!今年は俺もいるってことを忘れんなあっ!!!」


 テレビカメラが拾った雄たけびに、桐嶋の今季にかける思いがあふれ出ていた。


 試合はその後攻撃的なカードを切ってきたブリーラムの猛攻の末に1点を失ったものの、試合終了間際、途中出場の外村が小宮のコーナーキックを得意のヘッドで叩き込み試合終了。4-1の快勝で、和歌山は2015年以来のACL本選出場を決めたのであった。

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