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ロシアで残した足跡

 1勝1分けでグループリーグ突破の可能性を得た日本代表は、ポーランドとのグループリーグ最終戦に臨んだ。勝つか引きわけ、さらには同時刻に行われるセネガル対コロンビア戦の結果次第では負けでも決勝トーナメント進出が決まるという試合、日本代表はスタメン、さらに布陣をいじった。というか、スタメンをほぼ総とっかえした。

 友成と剣崎は据え置きだったが、最終ラインは出場停止明けの吉江と降谷、今大会初出場の小野寺の3バック。サイドはウイングバックのポジションを取って左に永本、右には井阪が入った。中盤はボランチのポジションには島崎と本条。左サイドハーフには浜口、右には犬飼が入った。9人のうち、実に5人が初スタメンという、良く言えばフレッシュだが連携不足が当然ながら心配された。

 そして実際、各選手動き出しはいいのだが、呼吸がどこかかみ合わず、攻める展開になってもパスミスが目立つ。いくつか剣崎にも決定的なパスが通りそうだったが、つながらずエースはフラストレーションを募らせた。


(くそっ。あの四郷監督(おっさん)何考えてんだよ。練習でしか一緒にやってねえのに、試合の本気のパスがそう簡単に読めるのかってんだよ)


 一方でポーランド側はすでに敗退が決まっているものの、何とか勝って締めて母国の威信を保ちたいと、鬼気迫るプレーを随所に見せる。それでも守護神友成の好セーブと、経験豊富な吉江を中心とした守備陣が食い止め続け、どうにか前半はスコアレスドローに持ち込めた。

 しかし、ハーフタイムを挟んだ後半15分過ぎ。日本代表は中盤の攻防でミスとは言えないミスをつかれ、カウンターで先制点を献上してしまう。グループリーグ敗退が決まっている以上、是が非でも勝利で帳尻をつけたいポーランドは、前線の選手を守備的な選手に交代してがっちりと自陣を固めてきた。


 リードを奪った後のポーランドの守備はとにかく頑強だった。フィールドプレイヤー全員を自陣に引っ込ませるという小教区的なことはしなかったが、一度ボールを持つと高いキープ力と素早いパス回し、そして簡単に倒されないフィジカルを駆使して日本代表にボールを与えなかった。

 いたずらに時間が流れるなか、日本代表も手を打つ。まずは矢神が呼ばれ、浜口に代わって左サイドに入る。続いて結木が犬飼に代わって投入された。そして最後の交代でDFの小野寺をベンチに下げ、最終ラインを4バックに変更。代わって入ったのは小松原。剣崎と2トップを組むことになった。


「おいおい、まさかW杯でお前と2トップかよ。なんだかんだ、縁があるな俺たち」

 出迎えがてら、剣崎は手を差し出し、小松原はがっちりと握り返す。

「俺もびっくりだ。だが、こうなったら俺たちツインタワーで襲いかかるまでだ。いくぞ剣崎」

「よっしゃ」



 そして、そのときは来た。


 残り10分を切ったところで、ポーランド代表は一切の攻め気をなくし、最前線の選手にボールが通ったとしても、その選手はサイドに逃げてキープに徹した。奪おうと日本代表の選手が数人がかりで仕掛けると、スペースに走り込んだ味方にパス。そして受けた選手はキープという繰り返しで時間を使うことだけに徹した。しかし、アディショナルタイムが表示されたタイミングにでたパスを、途中出場の矢神がインターセプト。すぐさま逆サイドの結木へロングパスを送る。

 しかし、自陣に人数をかけている分、対応しやすいポーランド。反応が遅れたとはいえ、すぐにドリブルを仕掛けるためのスペースを前もって潰していく。だが、結木は虚を突いた。


「たまにゃ俺だって驚かせねえとな!」


 矢神からのロングパスを、なんとジャンピングボレーにてダイレクトでそのままゴール前に折り返す。放り込まれたクロスの先は剣崎と小松原、そして相手のセンターバック三枚。ニアサイドの小松原が競り合いに挑む。


「一発勝負だ、なんとかしろ!」


 相手DFに押されながら、懸命のバックヘッドでボールを流す小松原。剣崎には残りのセンターバック二人とキーパーが競り合う。


 そして、剣崎は競り勝った。当てさえすればそれでよかった。ボールに力はなかったが、キーパーの伸ばした両腕の間をすり抜けると、そのままゴールに吸い込まれていった。


 試合はこれで決着。互いに交代枠を使いきっていたが、守りを固めきったポーランドに勝ち越し点を奪う余力はなく、アディショナルタイムを凌ぎきった日本代表が、1勝2分けでグループリーグを突破。二大会ぶりの決勝トーナメント進出を決めた。


 日本のエース剣崎は、グループリーグ全試合でゴールをマーク。4得点を挙げて、一躍大会得点王候補となった。





 そして初めてのベスト8入りを目指した日本代表は、4-2-3-1の布陣で世界屈指の強豪、べるぎーとの一発勝負に臨んだ。


 キーパーは旋風を巻き起こした友成。最終ライン、センターは吉江と大森。サイドバックは右に結木、左に永本。中盤は内海と南條のダブルボランチで、右サイドハーフに犬飼、左に西谷、竹内がトップ下ないしシャドーとして中央に位置し、剣崎が最前線に立った。


 試合はシーソーゲームとなった。立ち上がり、疲労の色が残る両者の動きは重かったが、試合の興奮が徐々に活力に転じていく中で、次第に決定機が増えていく。そんな流れの中、ベルギーはエースFWフィライヌが裏に抜け出して先制ゴールを流し込む。

 だが、すぐに日本も反撃。カウンターで犬飼が右サイドを駆け上がると、オーバーラップで自身を追い越した結木につなぐ。結木はすかさずゴール前にクロスを放つと、これを剣崎がダイビングヘッドで飛び込んで同点ゴールを叩き込む。先制点を許してから10分もしないうちの同点劇に、日本代表が息を吹き返す。先制点から一気に押し込もうともくろんだベルギーの思惑に反して、試合は互角に推移。そのままハーフタイムに持ち込む。だが、同点後の試合展開は日本が押し込んでおり、ベスト8進出が見えたかのような雰囲気がスタジアムを包む。少なくとも、試合を中継している日本国内のスポーツバーは乱痴気騒ぎであった。

 しかし、やはり単なる格上ではない強豪国。ハーフタイムにきっちり立て直し、再び日本を押し込む。そして開始早々、フィライヌが勝ち越しゴールを奪う。これまで神がかり的なセーブを見せ続けてきた友成が、ことごとく交わされてシュートを決める。

(これが世界ってやつか…ハハっ)

 片膝ついた友成は、笑いながら武者震いを止めなかった。そして、エース剣崎は、その活躍に食らいついた。


「くそ…。やっぱ向こうは強いな」

「はっ、あきらめんじゃねえぞトシ!そう簡単にやられるかってんだ!絶対に追いついてやらあっ!」


 肩を落とす竹内に、剣崎はそう吠えて鼻息を吹いた。

 そして実際に、すぐに追いついてみせた。押し込まれる展開でなかなか前にボールを運べない中、内海が放った一本のロングパス。これに竹内が抜け出してオフサイドギリギリのタイミングでベルギー代表の裏を取った。同じタイミングで剣崎も動き出している。キーパーと一対一となった場面、竹内は右足を振りぬく。

(コースはないけど、どうだ!…くっ)

 願いむなしく、キーパーが伸ばした左手がボールをかすめシュートは失速。DFがクリアを試みようと群がる。だが、それよりも早く剣崎が突っ込む。

「言っただろ。追いつくってよぉっ!」


 大砲を放ったかのような弾丸シュートが、立ち尽くすキーパーのそばを貫いた。


 鼻をへし折るようなゴールを奪いながら、そのたびに奪い返してくる日本のエースの決定力に、フィライヌは思わず唸っていた。


(へえ…アジアにあんなストライカーがいたのか)


 これで6ゴールを奪った剣崎。世界はこの超人的な決定力を発揮し続ける日本人ストライカーに驚愕し、ベスト8の行方も混とんとしてくる。互いに両エースにボールを託し、その決定力をもって勝負をかける。


 そして勝ったのは、ベルギーだった。後半40分過ぎに得たコーナーキック。キッカーが打ち上げたクロスを、フィライヌが…背後に流して、わずかにできたスペースに飛び込んできた別のFWが頭で押し込み、勝負は決したのだった。



 日本代表の夢はまたもついえた。だが、試合後フィライヌは会見でこう語った。


『僕の人生で、あれだけのストライカーには出会ったことはない。彼、リュウイチ・ケンザキは明日からでもプレミアリーグでプレーできるよ。ぜひ来てほしいね』



 かつて、日本の片田舎の弱小プロクラブ、そのユースにしか合格できなかった、『点を取ることだけしかできない』FWが、10年の時を経て、日本代表の看板を背負って、確かな足跡をロシアの地に残したのであった。


なんか最終回っぽいですが、シリーズはまだまだ続きます。

ただ、2018年はもう終わっちゃうし、僕の力も尽きたので、次回は残りシーズンをすっ飛ばして締めくくりたいと思います。

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