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第3話 褐色少女は僕のオアシス

よろしくお願いします。

「ーーおわっ、な、なんだ?」


「ふ、ふにゅ!?」


突然、僕は背後から何者かに頭を掴まれ、ゆっくりと持ち上げられる。

脱出しようと必死に抵抗するが、まるで効果がない。


「おい、このっ、離せ、離せよっ…………うっ、なんだこの匂い」


今度は頭上から獣臭く生温い風が吹き、さらにはねっとりとした液体が髪を伝っていく。

……ああ、非常に気持ちが悪い。


ん、待てよ。この感じはもしかして、掴まれているのではなく、咥えられている?


……このままでは何か、嫌な予感がする。

だかしかし、正体を突き止めたいものの、頭がしっかりと固定され、後ろを振り向くことが出来ない。


「くっ、ル、ルリ! この状況なんとかーー」


僕はルリに助けを求めるが、目の前のルリはこちらを見て怯え、震えている。


……もしかしたら僕は今、やばい状況なんじゃないか?


先ほどの匂いや、頭の感触から、僕を咥えているのはおそらく獣の類。

もしそうだとして、次にそいつがとる行動はまさか……噛みちぎる?


ーーやばい、食われる。


自分の状況を理解した途端、どっと冷や汗が吹き出し、焦りが止まらない。


「ま、待て、き、きっと僕は美味しくないぞ! だから、そう、とりあえず食べるのはやめーー」


「こら、マイラン! 初対面の人に甘噛みしたら駄目だって、いつも言ってるでしょ?」


「ん? 人の……声?」


今度は頭上から、女の子の声が聞こえる。

まさか、そこにいるのは獣だけではないのか?


「ガルルルルルル……」


悲そうな鳴き声を発し、その獣は僕を離す。

思いがけない解放に、体制を整えられなかった僕は、お尻から地面に落下した。


「っくう、痛たたた……もう、いったい何がどうなってんだよ」


「あははは、ごめんね〜、この子人懐っこくて、初めて見た人についつい甘噛みしちゃうんだ〜」


僕が声のする方を見ると、そこには健康的な褐色肌の女の子がいた。


「え〜と、君は……誰?」


「あ、待って、自己紹介をする前に、君のその濡れた頭をどうにかしないとね」


すると、彼女はこちらに近づいてきて、自前のタオルを取り出したかと思うと、僕の頭をゴシゴシと拭き始める。


そのおかげで、先程まで僕の頭に付着していた、獣臭い液体が取り除かれ、ちょっと楽になる。

まあ、まだ少し獣臭さが残っている気がするが。


というかそんなことよりも……顔が近い。


ああ、駄目だ、思わず顔が熱くなる。

残念ながら僕は、これまで女性との交際経験は無い。

しかもお年頃だし、これでも刺激が強く、心臓が高鳴る。


……それになんだか、いい匂いがするし。


「あ、あの、ちょっと、距離が近いんですが……」


「仕方ないでしょ、こうでもしないと頭が拭けないし、元々私達のせいだから、これくらいはさせてよ」


う、ま、まあ、お詫びなら仕方ないな、うん。


「よしっ、これでほとんど綺麗になったかな〜。あのさ、もう一度謝るけど、ほんとごめんね?」


その少女は手を合わせて頭を下げ、謝罪のポーズをとる。

こうしてきちんと謝ってくれた訳だし、怒るわけにもいかないな。


「ああ、僕は大丈夫だから、全然気にしないで」


「うん、ありがとう。じゃ、とりあえず自己紹介しておこうかな、私はミーナ ラーナー、ウルグア出身であなたと同じ新入生、 あ、気軽にミーナって呼んでね!」


元気よく挨拶する彼女、ミーナは先程のポンコツ王女に続き、こちらも可愛い女の子だ。


襟足のはねた黒髪に花のブローチ、緑色の目と特に可愛いチラッと見え隠れする八重歯。


それから最も目立つのは、露出度の高い服装に強調されたこの……ご立派なお胸様。


うむ、これは、国宝級といっても過言じゃないな。

もしかしたら、ルリともいい勝負するんじゃ……おっと、話が逸れた。


「うん、よろしくミーナ。あ、僕の名前はユート フェリエ、出身は……エルマリアかな。そしてこっちが僕のパートナー、スライムのルリだ」


僕は紹介しようとルリの方を向くが、ルリは未だに上を見つめて動かない。

う〜ん、まだビビっているのだろうか。


「あ、いけない、私のパートナーを紹介をするの忘れてたよ! えっと、この子が私のパートナーで名前はマイラン!」


「へえ〜、いったいどんな……な、な、なーー」


僕が上を見上げるとそこにいたのは、予想通り獣だった。だがしかし、獣の中でもまさか……。


「キ、キマイラ……」


「グルルルルル、ガゥッ!」


そう、そこにいたのはキマイラ、山羊の胴体に獅子の頭、そして尻尾に複数の蛇を持つ、伝説の複合獣。


ついつい忘れていたが、僕はさっきまでこんな化け物に噛みつかれていたのか……そう思うと今更ながらも身震いしてしまう。

なるほど、どうりでルリがずっと怯えていた訳だ。


「あはは、見た目はちょっと怖いかもしれないけど、根は優しい子だから、安心してね」


いやはや、今日1日でドラゴンだけではなくキマイラまで見られるなんて、さすがはテイマーの訓練校といったところか。


「う、うん、よろしくね、マイラン」


「ガウ、ガウガウ!」


すると、マイランは僕に寄り添い、顔を擦りつけてくる。

その様子は、まるで猛獣というより犬に近い。

ん〜、意外と可愛い……のか?


「あ、そんなことより聞いてたよ、 君の大宣言!」


「ぶふぉっ、ごほっごほっ」


思わず僕は吹き出してしまう、まさか今聞きたくないワードランキング第1位が、ここででてくるとは……。


「うわっ、ユート君大丈夫!?」


「う、うん、大丈夫……気にしないで……。あ〜、そっか、あれを聞いてたってことは、君も結局、僕を馬鹿にしに来たってことだよね……」


「え、なんで? あんな立派な宣言聞かされて、馬鹿になんてできるわけないよ」


「いや、でも、僕ってマギアル無しだし、ルリも一応スライムだし、世間的には馬鹿にされる対象でしょ?」


すると突如、ミーナが両手で僕の手を握り、真剣な眼差しでこちらを見つめてくる。

……正直、一瞬どきっとした。


「ううん、そんなの関係ない、私は自分で見たことしか信じないし、憶測で人を判断するのはいけないと思う」


「そ、そっか……というかあの、て、手が……」


「……それにさ、ああいう風にはっきりと自分の意思を伝えられる君のこと、私はかっこいいなって思った。なんと言うか、なんだかちょっと憧れちゃった……かな」


「へっ、そ、それって」


「い、いや、別に変な意味じゃないんだよ!? ただ私には、そういうとこ足りないって思うから、羨ましいなあと思って」


「……あ、そ、そうだよね! いや〜、まさかあれを褒めてくれる人がいるとは思ってなかったな〜」


なんだか僕は照れ臭くなり、ミーナから目を逸らす。

なんというか、こうしてはっきりと褒められたのは久しぶりかもしれない。


そうしてしばらくすると、手を握っていることに顔を少し赤くしたミーナは、僕の手をさっと離す。

そして八重歯をチラッと見せながら、にこりと微笑んだ。


「とにかくそういう訳で、是非ともユート君とお友達になりたいと思ったから、こうして追っかけてきちゃったって感じかな」


「と、友達…………グスッ」


友達、その言葉を聞いた途端、自然と僕の目に涙が溜まり始める。


「え、そ、そんなに嫌だった?」


「いや、むしろ嬉しいというか、どうせしばらくは、笑い者扱いで、友達ができるなんて思ってなかったから……」


ああ、なんなんだこの安心感は。

今日から1人で戦いきる覚悟をしたばかりだというのに、こうして1人でも理解者がいると思うと、心が安らぐ。


「あれ? そういえばさっき見てたんだけど、白いドラゴンを連れていたあの子とは友達じゃないの? なんだか凄く仲よさそうだったけど……」


「いやいや、ないないない! 誰があんな礼儀知らずで性格の捻くれたやつと友達になるかって感じだよ」


「へぇ〜、そっか、そうなんだ。……まあとりあえず、これで晴れて私達は友達になった訳だし、一緒に学内でも見て回らない?」


そう言うと、凄い跳躍力でミーナはマイランに飛び乗る。

……なんだ、こういう大きなパートナーを持つ女の子は、皆ジャンプ力が高いのか?


「ほら、早く乗りなよ。私のマイラン、乗り心地は最高だし、物凄く速く走れるから、風が気持ちいいよ〜!」


「ガウガウガウ!」


ミーナはマイランの背中をポンポンと叩き、僕を招く。

う〜ん、さっきよりは安心だか、まだちょっと抵抗が……。

まあ、せっかくのお誘い、断る訳にはいかないよね。


「うん、じゃあお言葉に甘えて、僕も乗せてもらおうかな。よし、いくよルリ……あーー」


ルリを見ると、怯えているのを放置してたせいか、魂が抜けてぽかーんとしていた。


「あはは、ご、ごめんルリ、すっかり忘れてたよ」


とりあえず僕は、抜け殻のルリを抱いて、マイランの背中によじ登る。

そしてどうにか登りきり、背中の上から周りを眺めてみると、いつもと違う目線のせいか、なんだか景色が新鮮に見えた。


「よ〜し、行くよマイラン! 出発進行〜!」


「グオオオオオ!」


ミーナの合図に合わせて、マイランは物凄い速さで走り出す。

……実際に乗ってみると分かるが、背中の毛がもふもふで気持ちよく、さらには心地よい風が、僕の体を吹き抜けていく。

この乗り心地、確かに最高だ。


「いや〜、これ気持ちいいね! それになんというか、男心をくすぐるというか、うん、最高だね!」


「でしょ〜? どう、私のマイランのこと、少しは見直した?…………ねえユート、少し話を戻すんだけど」


「ん、何?」


「私ね、白いドラゴンを連れたあの子とユートは、きっといい友達になれると思うな」


「いや、だからさっきも言った通り、それは絶対にないよ。だって僕、ああいう自分勝手なタイプの人間って1番嫌いだし」


それに加えて暴力的だし、本当にあいつって僕の嫌いな代名詞のような奴だ。


「……それにね、私とあの子ってなんだか似た匂いがするんだ」


「う〜ん、そうかな、性格の悪いあいつと優しいミーナじゃ、むしろ正反対だって思うけど」


「ううん、私には分かるの、きっと同じだって」


「……なんでそこまで言い切れるの?」


するとミーナはこちらを振りむき、これまで見せたことのない様な、自信に満ちた笑顔で告げる。


「ふふっ、私の野生の勘は当たるからねっ」

できるだけ早く更新していきたいです。

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