第2話 金髪少女は王女様?
よろしくお願いします。
「あの〜、ちょっとよろしいですか?」
「……何?」
「これはいったいどういう……」
只今僕は、土下座を強要され、その上金髪少女の足で頭を踏みつけられている。
実際にこうしてやられてみて分かるが……あまり興奮はしない。
どうやら世の中には、このような状況を好む方もいると聞いていたが、僕にそんな性癖は……じゃなくて。
「あの、仮にも僕、君のこと助けたはずだよね?」
「うるさい、黙って。今どうやってあなたに罪を着せて、死刑にするか考えてるから」
「はあ!? 死刑!? いや意味わかんないし、そもそもあれは空から降ってきた君のせいだろーーんぐっ!」
僕が口調を強めた途端彼女に、より一層強く踏みつけられ、顔が地面にめり込む。
「ふ、ふん! ほ、本当ならあなた達の邪魔がなければ、華麗に着地をきめてたところよ!」
「へえ〜、なんかアホみたいにきゃ〜とか叫んで、馬鹿みたいに仰向けで落下してきた人が、華麗にですか、へえ、そ〜ですか」
「くっ、この……言わせておけば!」
すると、彼女の足は頭を離れ、ようやく解放されたと思い、顔をあげたその瞬間。
「え…………?」
またもや綺麗なフォームで繰り出された彼女の前蹴りが、僕の顔面に直撃し、体ごと蹴り飛ばす。
激しく変動する視界のなかに一瞬、白い何かが見えた気がしたが……きっと気のせいだろう。
「っくぅ〜、あのさ! 恩を仇で返すにも限度ってものがあるよね!?」
僕は涙目になりながらも、必死に彼女を睨みつける。
それに、こんな状況であるが初めて彼女の姿をはっきりと見た。
こうして彼女を見てみると、暴力的な行動とは裏腹に意外と可愛らしい顔をしている。
綺麗な金髪の髪と左右についた細めの赤いリボン、それに深みを感じる青い目。
加えてすらっとした体つきをしており、それに合う白い服に青のミニスカート。
そして首には黄色い宝石の様なペンダントをさげている。
これで性格がよければ、割とタイプなのだが……。
「ふん、あなたに恩なんて微塵も感じてないもの」
前言撤回、こんな奴をタイプと思える日はない。
「くっ、このクソ女っ……なあ、ルリもなんか言ってやってよ!」
「フ、フニュ!?」
先ほどからずっと、僕の後ろでぷるぷるしていたルリがゆっくりと前に出てくる。
「ん? 何? あんた、なんか文句でもあるっての?」
「フニャッ!フニャニャニャ!」
彼女の鋭い目つきに気圧され、必死に首を振ったルリは、そそくさと僕の後ろへ戻ってしまった。
多分先ほどから、僕が暴行を受けているのを見て、ビビってしまっているのだろう。
「まあ……その子には感謝してなくもないけど」
「はあ、こんな奴助けるんじゃなかった……。っていうかそもそも、なんで空から降ってきたりなんか」
「そ、それはーー」
ーーふと、突然僕らの周りが暗闇に包まれる。
「……ん?」
不思議に思い、僕が上を見上げたその刹那、まるで雷鳴のような爆音と衝撃が、僕を襲う。
僕とルリは体ごと吹き飛ばれそうになるが、必死に地面にしがみつき、その場に留まるので精一杯だ。
「っく、いったいなにが……んなっ!?」
捲き上る砂埃のなか、ゆっくりと姿を現したのは巨大なーーーードラゴン、どこまでも白く、勇猛な爪と角を持ち、胸に光輝く宝石を身につけた竜。
その姿は言葉で表すなら、まさに神聖。
神秘的かつ穢れなきその存在に、僕は言葉さえ出てこない。
「グ、グォアアアアアア!」
その咆哮は耳を貫き、直接脳内に響き渡る。
僕は必死に耳を塞ぐが、それでも全く抑えきれない。
「はは、ははは、こんなドラゴン、初めて見た……」
ドラゴンはパートナーの中でも希少かつ強大な存在。
だから普段生活している中で、見かけることなんて殆ど無い。
しかも、これほどの大きさと溢れ出るオーラ、おそらくドラゴンの中でも上の部類だと思われる。
「グルルルル…………ご無事でなによりです、アリア様」
「……へ?」
「ご無事でなにより、 じゃないわよウェールズ。あなたが私を振り落としたせいで、こっちは大変な目にあったんだから」
するとそのドラゴンは、ため息をつくように白いブレスを吐き、呆れた様子で答える。
「そう言われましても、元はといえば、アリア様が寝坊なされたのが原因で試験に間に合わないからと、私に全速力で飛ぶよう命令したのではないですか」
「うぐっ、それは、そうだけど……」
「そもそもアリア様が、明日から学校だって興奮しすぎて眠れなかったのが原因なのです。もうアリア様も15で子供じゃないんですから、こういうことは……」
すると金髪は顔を赤らめ、唇を噛み締める。
どうやら恥ずかしいのだろう、肩を震わせ、下向いて黙り込んでしまった。
しかし、喋るドラゴンはそんな彼女に気遣うことなく、そのままお説教タイムへ突入する。
「きちんと私はご忠告したのです、アリア様じゃ私の速度に耐えられないと、それなのに聞く耳も持たず、
わがままを言って。いつもそれで失敗ばかりするのです、例えばあの時だってーー」
「わかった、わかったから、これ以上言わないで……」
ちっ、もう少しでこいつの弱みでも握れそうだったが、止められてしまったか。
まあ、そんなことはどうでもよくて。
「あ、あの……喋るドラゴンさん? あなたはいったい……」
僕の問いかけを聞き、そのドラゴンはこちらを振り向く。
その強大な容姿も相まって、見つめられた僕達は思わず身構える。
「ああ、すまない。見た所アリア様を助けてくださったのは、君達のようだな。……コホン、我は光龍 ウェールズ、この方オーファンの第二王女であるアリア オーディアスのパートナーであり、お目付役といったところだ」
……ん、ちょっと待て? 一つおかしな所があるぞ?
「あの、すみません、王女様はいったいどこにいらっしゃるのですか?」
「はあ? いるじゃないここに」
「……あの、すみません王女様はいったいどこにいらっしゃるのですか?」
「だ〜か〜ら! 私だって! この私こそ、オーファンを統べるオーディアス家の第二王女アリアよ!」
「はあ!? この礼儀知らずのポンコツ女がオーファンの王女だって!?」
「誰がポンコツよ! この無礼者!」
そもそもオーファンとは、この世界における1つの大国である。
この世界には5つの国があり、北のオーファン、南のウルグア、西のインダス、東のアマハラ、そして今僕達がいる中央の国エルマリア。
特にオーファンは信仰の国と呼ばれ、世界でも多くの信徒が集まる聖地だ。
そんな国の王女がこんな奴なんて、正直信じたくないし、考えられない。
「はあ……オーファンの国の王女っていうのは、もっと聖女の様な女性だと思っていたけど、まさかこれとは」
「ふん、これで自覚したかしら? さっきまであなたが私にしてきた無礼の数々を。本当なら即死刑でもおかしくないのよ?」
「ですがアリア様、この方は命の恩人なのですよね? ならば、少しは感謝の意を示すべきだと思いますが……」
ウェールズはそう金髪に進言する。
さすがは王女に仕えるパートナー、こっちはさすがにしっかりしているようだ。
「その通りだ、王女様なら礼儀の一つぐらいしっかりしたらどうなんだ」
「はあ? そもそもあなた、私が何でこんなに不機嫌か理解してる? あなたがわ、私の、む、む、む、胸を触ったからよ!? だから謝るのはあなたの方じゃない!」
「だから何度も言ってるけど、あれは不可抗力で、元々の原因は君だろ!? それにこっちはな、そんな微妙なおっぱいなんかより、よほど揉み応えのあるもの毎日揉んでるんだ! だからそんなもので興奮なんかするか!」
「ふ、ふにゅ!?」
そう言い僕は、後ろに隠れていたルリを見せつける。
実際に、ルリの触り心地は中々のものだ、微かにひんやりとしたぷるぷるな肌、そして弾力性のある揉み心地、そこら辺の胸には圧勝だ。
「な、な、な、何ですって……あなた、私の初めてを奪っておきながらその言い草、もう許さないわよ……」
拳を固く握り締め、こちらを睨みつける彼女。
「上等だよ、こんな奴に下げる頭なんてないね」
そして僕と彼女の間に飛び散る火花、まさに一触即発とはこのことだ。
「はっはっは、二人とも仲がよろしくて。まさか、こんな初日からアリア様にご友人ができるとは、このウェールズ感激です」
「友人じゃないよ!」「友人じゃないわよ!」
「息もぴったりではないか、はっはっは。……ん、おっといけません、アリア様急がないと入学試験に間に合いません」
はっとした表情で彼女は、腕につけた時計を確認する。やがて目は見開かれ、彼女の顔が青ざめていく。
「ああ〜! こんな変態にかまっていたせいで時間がないじゃない! 急ぐわよウェールズ、全速力で!」
彼女は物凄い跳躍力でウェールズの背中に飛び乗り、全身でがっちりとしがみつく。
「はあ、また落っこちても知りませんよ? それでは少年、お礼はまた次の機会に、とにかくここは失礼させてもらう」
「ふんっ、こいつの顔なんかもう二度と見たくないわよ!」
するとウェールズは、激しい風を巻き起こしながら、空へと上昇し、そのまま物凄い速度で玄関の方へ飛び去ってしまった。
「……はあ、なんだったんだ、あいつ」
「ふ、ふにゅ〜」
なんか、どっと疲れがでて、僕もルリもヘタリ込む。
……どうやら僕達は、面倒くさい奴に絡んでしまったようだ。
「まあ、気にしてもしょうがないか、とりあえず僕達は改めて見学でも……」
ーーそうして僕がのんびりと立ち上がったその瞬間、すっと僕の体が宙に浮かぶ……いやこれは、何かに咥えられている?
どうにか下を見ると、こちらを見たルリが怯えて、ぷるぷると震えている。
いったい僕の背後には何がーー。
出来るだけ早く更新したいと思います。