第0話 スライムがくれた一筋の光
よろしくお願いします。
頬を伝う雨粒と強烈な悪臭で目が覚め、体を起こす。
意識が朦朧としているが、降りしきる雨で体が冷えていたのか、身震いが止まらない。
……ここはどこだろう。
とりあえず辺りを見回してみるが、あるのはゴミ、ゴミ、ひたすらに放置されたゴミのみ。
おそらくここは、最終処分場のようだ。
なぜ僕がここで目を覚ましたのか、だいたい予想できる。
僕はきっと……捨てられたんだ。
理由はきっと、僕が失敗したから。
そのせいで、あの人達の名に傷をつけたから。
それに彼等のことだ、こんなことをすることも容易に想像できる。
「はは、はははっ、あははははは」
もう涙さえ出ない、ひたすらに出るのは、自身にも彼らにも呆れた笑い声のみ。
僕がずっと信じてきたものも、信じたかったことも、何もかも無くなって。
残っているものは何一つ無い、僕のなかにあるのは、ただ空虚感だけだ。
「結局僕は、いらない子だったのかな……」
そんな時、僕の目に映ったのは、映ってしまったのは、都合よく廃棄された短刀。
それはもう、今の僕にとって決心させるに足るもので、僕は無心でそれを手に取る。
すでに今の僕には、恐怖も希望さえもなかった。
「そうだ、いつもあの人が言ってたじゃないか。無能な人間は必要ないって……だから、もう」
僕は短刀逆手に持ち、自身の喉元へと向ける。
覚悟は……きっと出来ていない、けれどもそれを忘れるほどの何かが、僕を突き動かすのだ。
「はぁ、はぁ、ふっ、ふぐ、ふぎっ……あああああああ!」
「フニュ〜!」
僕が覚悟して力を込めた途端、突然どこからか、気の抜けた鳴き声が聞こえた。
「……誰? そ、そこに、誰かいるの?」
僕がそう呼びかけると、ゴミの中から現れたのはスライム、汚物を吸収しすぎて体が汚れ、青さを失いかけた一匹のスライムだった。
そのまま、そいつは僕に近づいてきたかと思うと、胸の中に飛び込み、体を押し付けてくる。
その拍子に、僕の持っていた短刀は手を離れ、後方へと転がり落ちた。
「フニュ、フニュッフニュッ!」
「……なんだよお前、僕のこと励まそうとしてるのか?」
そのスライムはそうだと言わんばかりに、ひたすらに僕の顔をじっと見つめる。
「ふふ、ふふふ、あはは、なんだお前可愛いやつだな」
僕はそいつの体を撫でる、スライムの体は思った以上にひんやり、もっちりしていて思わず和んでしまう。
「フニュッ、フニュウ〜〜」
「どう? 気持ちいい? スライムって意外とだき心地がいいんだね…………ねえ、君って」
「フニュ」
「君も、同じなの? 僕と」
この世界には野生のモンスターは存在しない、存在するのはテイマーが人生に一度召喚したパートナーのみ。
だからきっと、この場所に一匹でいるこいつも、僕と同じように捨てられたのだ。
この世界でも最弱のパートナーと呼ばれるスライム。
こういうことも、ありえない話ではない。
「……フニュ〜」
それを聞いたこいつは、寂しげな表情をして俯く。
おそらくは、そういうことなのだろう。
「そっか、似た者同士だね、僕達」
……いいや、本当は違う。こいつは僕と同じなのに、自分だって辛いくせに、それなのに僕を助けようとしてくれた、励まそうとしてくれた。
多分これは、僕には出来ないことだ。
それをやってのけるこいつを僕は、最弱のパートナーだなんて思えない。
ーー僕も強くなりたい、こいつみたいに自分より他人の事を思えるくらい強く。
だから……
「あのさ、君……」
「フニュ?」
一度は諦めかけたはずなのに、死ぬことまで覚悟したというのに。
たった一匹のスライムがくれた優しさが、僕の心に一筋の光をさした。
……もう一度僕は、何かをやり直したくなった。
「よかったら、僕のパートナーになってくれないかな」
「フ、フニュ!?」
ーーさあ、ここから始めるんだ。
最弱テイマーと最弱スライムの新しい物語を。
出来るだけ早く更新できたらと思います。