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第17章 悪魔の目にも涙


 ざ――――――――っ、と。

 雨の勢いは弱まることなく、飽きることを知らずに降り続けます。


 秋雨前線でも近づいていたのでしょうか。それとも夕立? ゲリラ豪雨? 人間が気象現象にどんな名前をつけようが興味ありませんけど、でもなんとなく。

 この雨は、いつまでも降り続けるんじゃないだろうかって、そんな不安に駆られます。

 雨粒の一つ一つが――――私を、嘲笑っているんじゃないかって。


「……寒い……痛い、です……」


 ズキズキと、折れ曲がっていた脚が今でも痛みます。

 なんとか転がり込んだ樹の洞の中…………でも、この樹は温かみなんか一つもくれないで、お尻の辺りを刺々しく刺して、私を邪険にしているかのようです。


 ……被害妄想、なのは、分かってます。

 それでも、脚と一緒に胸の奥が、ズキリ、ズキリと痛むのです。



 ――――私がドジなのは、昔っからなのです。



 勿論、好きでやっているんじゃありません。可能なら是非、可及的速やか且つ完璧に、そして永久に消し去ってしまいたい悪癖なのです。


 私は、一生懸命やっているだけなのに。

 いつも、どこかで間違えています。

 とある王との化かし合いにも敗れ。

 少女の心一つ独占できず。

 名前だけで簡単に縛られ。

 悪魔の中でも飛び切りの――――落ちこぼれだと、笑われてきました。


 そして、それが本当にその通りだと、自分でも思ってしまうのです。


 今回の件だってそうです。元はといえばこの任務、人間界の調査だって、無理矢理志願してきたのです。


 小動物、うさぎさんたちに惹かれたのも勿論ですけど、でも。

 こんな自分でも、なにかができるのだと――――認めて、ほしかった。

 ちゃんと悪魔としてお仕事ができるのだと――――褒めてほしかった。

 元はといえば、そんな理由で、こちらに来たというのに…………。


「……なんで、私ってこんなに、ダメなんでしょう…………」


 卯兎さんに会った時も、酷かったし。

 会ってからも、酷かったし。

 今日なんて、もう本当に、最低じゃないですか。

 疲れたって道の真ん中で、子供みたいに駄々捏ねて。

 しかもその上、お使いを押し付けて自分は寝ちゃって。

 寝相で崖から落ちて、脚まで折って。


 肩凝りが治らないって時に、気づけばよかったんです。受肉が下手くそで、身体そのものを上手く制御できてないって。


 今だってまだ、脚は治っていません。ズキズキ、ズキズキ、痛むばかりです。

 ……いつ、治るんだろう。

 そもそも、治るのでしょうか。

 私の受肉が下手過ぎて、もう二度と、治らないかもしれない。

 もう、拠点に帰らないかもしれない。うさぎさんたちと触れ合えないかもしれない。


 もしかしたらもう――――魔界にも、帰れないかもしれない。


 こんなドジばかりのダメ悪魔は要らないって――――魔界から、追い出されるかもしれない。


「…………い、やだ……」


 震える唇から、か細くそんな声が漏れて。

 狭い洞の中で、その声はくゎんくゎんと反響しました。


 いやだ、いやだ、いやだ、いやだと。

 自分の声が聞こえる度に、不安に押し潰されそうで――――




「いや、だ……いや、いやです…………っ、いやだよぉ…………!」




 堰を切ったように、嗚咽が、涙がこぼれ出しました。

 もう、止まらない。止められません。


 一度声に出してしまえば、それがまるで現実のようで、怖くて、だから、余計に声に出してしまって。

 不安が連鎖して、私は――――子供みたいに、泣きじゃくっていました。




「嫌だぁ……。帰りたいよぉ……お腹空いたよぉ…………寒い、寒いよぉ……うさぎさんと……、会いたい、会いたいよぉ……誰か……誰か、助けてよぉおおおお……っ!!」




 その声がまた反響して。

 洞の中はもう、私の泣き声ばかりで溢れてて。

 不安で、不安で、不安で不安で不安で不安で。

 壊れそうになって、頭を抱えて蹲っていた。


 その時、でした。







「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁ――――やぁっと見つけたぞっ! このバカ悪魔ぁっ!!」




 怒鳴り声に、ビクッ、と背を丸めました。


 でも、不思議な声でした。怒っているのに、怖くなかったのです。


 そんな声は、初めてで。

 思わず顔を上げて、見てみました。

 涙で滲んだ視界の、その正面にいたのは――



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