表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/35

第15章 悪魔自大


 ガチャァーンッ、と、なにかが割れる音。

 あちこちから響く、ぱりん、ぱりんとまた一つ、二つ、三つ、たくさん。壊れて欠けて、使い物にならなくなっていく破砕音。その度に、同じように周囲から、私に向けて言葉が投げられる。



「××××××××。またやったのか」



 呆れた声。

 怒った声。

 沈んだ声。

 怒鳴り声。

 罵倒の声。

 落胆の声。

 嘲笑の声。

『失敗』に対するあらゆる感情が、一斉に向けられる。


 刺さるような視線、殴りつけるような言葉。思わず肩を抱いても、声は和らぐどころかますます大きく、際限なく強く酷く、響き渡り続ける。




「××××××××、またやったのか」「またあいつか」「いい加減にしろよ」「これで何度目だ」「間抜けめ」「今度はなにを仕出かした」「××××××××!」「懲りずによくやるな」「悪魔の恥さらしめ」「次はなにをやらかすんだ?」「××××××××は本当に駄目だな」「人間に騙された?」「またあいつの厄介事か」「いなくなればいいのに」「なんの役にも立たない奴」「いて意味あるのか?」「死んでも××××××××のようにはならないね」「また××××××××か」「天使にやられただと」「騙されて力を貸しただと?」「××××××××の除名を提案します」「××××××××よ、何故生きている?」「××××××××なんていない方がいいだろ」「××××××××はどこかへ行けよ」「××××××××なんて要らない」「××××××××なんか消えろ」「不要なんだよ」「必要ない」「邪魔なだけだ」「××××××××――――お前は死んで、初めて誰かの役に立つかもな」







「――――っはぁっ!?」


 真っ暗だった視界が、一気に開けて鈍色の空を映します。

 濛々と雲が立ち込める空…………が、心なし、さっきより遠い……? はて、今私はどこに――


「って、わきゃぁっ!?」


 ぼきぃっ、と足元が嫌な音を立てて折れました!?

 ぱきっ、ぱきぃっ、と小気味よく小枝たちをへし折りながら、ぬかるんだ地面へと着地しますぅっ!?


「ぅえっほ、えほえほ、げっほげほ……」


 お手本みたいにお尻から着地した所為で、衝撃が体内で行き場を探して彷徨ってます……。く、苦しい……こほこほと、咳を何回か。


 ようやく落ち着いて、尻餅をついた姿勢のまま、辺りを見回してみます。

 視界にあるのは、どこを見ても、樹、樹、樹ばかりですね……というか、どこかで見たような……。


「…………あ、そっか」


 くゎんくゎんする頭が、ようやく正常な思考を取り戻します。そして、思い出しました。

 私――――××××××××ことアシュは、あのきつく険しい山道(主観)から、哀れにも落ちてしまったのでした。


 で、ここは以前、私が人間からうさぎになってしまった子たちを拾い集めた、あの森ではないですか。道理で景色や匂いに覚えがある訳です。

 こんな近くに山があったとは、ついぞ気づきませんでしたが、


 まぁ、仕方ないですね。あの時は、うさぎ集めに夢中でしたから。いやぁ、楽しかったです。うさぎさんたちはいっつも鼻をぴくぴくさせてて、愛くるしいものですし。


「……どっかのセクハラうさぎさんは除いて、ですけど」


 そうです、あの元人間のうさぎ。

 神奈月卯兎さんという名のセクハラうさぎには、ほとほと困ったものです。

 元はといえば、ぜーんぶ卯兎さんの所為です。

 卯兎さんが服装についてあれこれ喧しいから、仕方なく、ほんっとーに仕方なく不承不承、渋々、嫌々服装を変化してあげたから、疲れちゃって疲れちゃって。だから、山道で寝るなんて愚行に走っちゃったのですよ。


 眠くて疲れて限界だったのです。

 お使い頼んでも、全然戻ってきてくれないし。


 だから、気づいたら寝ちゃってて――――気が付いたら、寝相で崖から落ちちゃってて。

 焦ってたから翼も生やせないで……それで崖下の森にまで落下とか。

 …………絶対に他の悪魔たちには、バレないようにしましょう。

 またぞろ、なにを言われるか分かったものではないですし。


「ん、とにかく……戻らないと――」


 早く、あの山道まで戻らないと。

 卯兎さんにまで。

 下等な人間にまで、またバカにされてしま――――


「って…………あ、れぇ?」


 ぐらぁ、と視界が歪みます。

 頭に、霞がかかったみたいに、ぼーっとし、て。


「あ痛ぁっ!?」


 どざっ、と。

 再び視界が明瞭になるのに、多分、一瞬と経っていないのに。

 気づけば、身体はまた倒れていて。


 反射的に口から飛び出した『痛い』に、自分でも驚きました。


『痛み』なんて、魂しかない魔界では、存在しないものなのに。

 ズキズキと痛みの囀る方へ、視線を落とします。

 脚が――――まったく関節と関わりない場所で、無残に、折れ曲がっていました。


「ひ――――」


 思わず叫びかけた悲鳴を、すんでのところで呑み込みます。

 でも、わなわなと首が震え、見開いた目から暖かい液が漏れてきました。

 頭も、もう、なにを考えているのか、分かりません。

 とにかく、目の前の光景が、ぐにゃりと湾曲した自分の脚が、堪らなくグロテスクで。

 自分の身体だと、とても思えないほどに気持ち悪くて。


「う、ぇ…………!」


 なにか、吐き出したいという衝動が口を開けさせます。

 びちゃびちゃと、さっき飲んだスポーツドリンクが逆流してきます。荒く呼吸を繰り返し、胃液の酸っぱい臭いが頭に沁みたところで――――ぞくりと、背筋が凍ったように冷たくなりました。


 ここは、どこなんだろう。


 震えの止まらない手で、胸元からlPadを取り出して――――あぁでも、画面に大きなひびが入っていて。ホームボタンを押して、圏外で、電源を切って、再起動。でも、ダメです。圏外。どこにも、通じてくれない。


 とにかく、戻らないと。


 起き上がろうとして――――「い、ぎぃいいいいいいいっ!?」全身を劈くような強い痛みに、思わず悲鳴を上げ、居ても立ってもいられず転がります。全身が泥で汚れて、汚くて、気持ち悪くて…………胸が、ざわざわと騒ぎます。


 どうしよう。


 どうすればいいんだろう。


 脚、そう、脚を、治さないと。


 でも、あぁでもどうするんだろう。どうすればいいんだろう。

 なにも分からない、分からない分からないどうしようどうしよう。

 怖くて、怖くて、どうしようもなく怖くて。

 どうすればいい? どうすれば――

 ぽつんっ、と。




「あ…………」



 空から、大きな雨粒が。

 追い打ちをかけるような雨に――――私は、気づけば獣のように、泣き叫んでいました。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ