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第11章 似て非なるうさぎ


「着きましたよ、卯兎さん。ここで、いいんですよね?」


 アシュの声に、びくんっ、と一瞬背中が跳ねる。

 言われて顔を上げると、そこには、俺の住んでいた家があった。

 閑静な住宅街にありがちな、明るい壁色の一軒家。しかし見紛うはずのない、俺の生家だった。


 だが。


「…………んん?」


「? どうかしましたか? 卯兎さん」


「いや、うーん。場所、あってるよな?」


「卯兎さんに言ってもらった住所は、ここですよ? lPadで調べたから、間違いありません。現在地も、住所の場所になっていますね」


 ほら、とアシュがlPadを見せてくる。表示は俺が使っていたスマートフォンと同じなので、非常に分かりやすい。確かに、俺の実家の住所で、ここは間違いない。


 アシュに出した、うさぎから聞き出した情報を教える条件。

 それが、俺の家を確認することだった。


 俺がうさぎになったということで、家族はどうなったのか。それが知りたかったのだ。

 だが……。


「んー、なーんか、違和感っつーか、違う感じがするんだよなぁ。どこがとか、はっきりとは言えないんだが……」


 首を捻るが、やはり外観からではどうも分からない。

 なんだろうなぁ、このちぐはぐな感じは。


「……中に入ってみりゃ分かるかもだが……流石に無理だしなぁ」


「大丈夫ですよ?」


 と。

 愚痴めいた独り言に、アシュがぽんやりと反応した。


「へ?」


「中、入りたいんですよね? それくらいならいいですよ。サービスします。ついでに、私が凄い悪魔だってことも、ちゃーんと分かってもらいますよ」


 言うと、アシュは周囲に人がいないのをきょろきょろ見回して確認し、堂々と家の方へ向かっていく。

 が、インターホンを鳴らすでもなく、何故かベランダの方に移動して。


 ぐ、と拳を構えて。


「せー、っのぉっ!」


 バゴン、と。

 ベランダ近くに壁を殴りつけ――――大きな穴を開けました。


 わぁ、すごーい。この穴からなら、出入りが自由にできるね。凄いやアシュちゃん!


「ってうぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおいいいいいぃっ!?」


「ぴぁっ!? な、なんですか卯兎さん。いきなり大きな声出さないでくださいよ、びっくりするじゃないですか」


「うるせぇよこっちの方がびっくりだわっ! おま、ちょ、人の家にいきなりなにやってんのっ!?」


 よっこいせ、と穴を通って不法侵入を果たすアシュに、俺は力の限り叫んでいた。

 うわぁ、中から見ると一層えぐいことになってるー。

 確かこの家、賃貸だった筈だからすごく痛いー。

 どうすんだよこれー。やべー。俺今この一瞬だけは人間に戻りたくねー。


「ふむ、どうやら誰もいないようですね」


「冷静に分析してる場合かぁっ! どうすんだよこの大穴っ!」


「あぁ、心配いりません、よっ、とっ!」


 ぱちぃんっ、とアシュの指が小気味よく鳴る。

 すると、周囲に散らばった破片が次々と壁にくっついていき、修復を始めていた。

 呆然と見ている中、ほんの数秒で、穴は綺麗に塞がっていた。

 もうそこに、大穴が開いていたという痕跡さえ、全く見えない。


「ふっふっふー。卯兎さん、お忘れかもですが私は悪魔ですよ? 悪魔は得意分野については、特殊な能力を持っていることが多いですからね。私はこう見えて、建築が得意なのです。人間界の単純な家程度、いくらでも造れますし直せます」


「さ、最初に言ってくれ……心臓に悪い」


 まぁ、とにかく心配はなくなったということで。


 改めて家の様子を探ってみるが…………うん、やっぱりおかしい。


 においが、まず違うのだ。

 うさぎは嗅覚にも優れている。だからこそ余計に分かるのだが、俺が住んでいる時と、においが全く違っている。


 それに、家具も違う。

 侵入できたのはリビングだが、テーブルも椅子も、食器棚も、記憶のものとは異なっているのだ。テレビなんか、見たことのない最新機種が置いてある。……家具類全部模様替えできるほど、うちって裕福だったか?


 でも、家そのものは間違いなく実家そのものなのだ。

 場所もあっているし。

 なんだろう、この奇妙な感覚。


「住所、ここであってるんですか? 卯兎さんの記憶違い、という可能性は」


「いや、流石に来年大学受験を控えた身で、自分の住所分からないとかはねぇよ」


 とはいえ、受験ができるかは怪しいけどな。今俺、うさぎだし。

 閑話休題。


「んー……よく分かんねぇな。俺がうさぎになったのと、なにか関係があるのか?」


「さぁ。調べてみないことには、なんともですねぇ。この家自体に、細工された感じはしないですが…………なので、やはり卯兎さんの記憶違いが濃厚かと」


「どこまで俺の記憶を信用してないんだよ……」


 とはいえ、実際これ以上調べても、どんどん違和感が浮き彫りになるだけだ。

 それを自分で深めるのは、なんだろう、少し辛い。

 よく分からないが、胸が締め付けられるように、痛い。


「……もう、いいや。すまねぇな、アシュ。わざわざ連れてきてもらったのに」


「それは別に構わないです。それより、昨日うさぎさんから得られた情報、教えてもらっていいですか?」


「あいよ」


 疲れた声を出して、俺はアシュとともに、この家を後にすることにした。





 あ、出る時も勿論、壁をぶっ壊して出てきました。


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