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第9章 うさぎから出た錆


 ちゅん、ちゅん、と囀る小鳥の声で、俺の意識は微睡から掬い上げられる。


 本来、うさぎって夜行性の筈なんだが…………とはいえ、人間の頃の生活習慣が残っている俺にしてみれば、朝に起きる方が自然でいい。

 いつの間に消したのか、天井からぶら下がる裸電球は機能しておらず、幾重にも反射した弱々しい陽光が窓から差し込んでいた。


 取り敢えず、喉が渇いた。

 水でも飲もう、と動き出そうとした、その時。



 むにゅう



「……? なん、だ……?」


 茫洋とする視界。焦点を合わせようと、何度か瞬きすると。

 俺の目の前は、薄く紅を刺した肌色をしていた。

 柔らかく、暖かな感触、そしてホットミルクみたいな甘い匂いに全身が包まれている。


 ほんの少し視線を上げると――――そこには、アシュの顔があった。

 ……え? と、いうことは、この、俺を包む柔らかい感触って。




 アシュの…………この悪魔っ娘の、おっぱい様だとっ!?




 なんだこれ、なんだこれはっ!?


 夢? 夢なのか? ちょっと耳で頬をぺしぺししてみるうん痛いねつまり夢じゃない!


 男なら、誰しもが一度は夢見るおっぱい枕!


 俺は、俺はその更に上位互換! おっぱい布団を成し遂げたというのかっ!?


 ジーザスっ! オーマイゴッドだ最高じゃないかっ!

 うさぎ万歳!

 俺は今、胸を張って誇りを持ってこう言える!




「俺……うさぎになって、よかったぁっ!!」





「そうですか――――この、ごみくずセクハラうさぎ下郎が」


 …………ふぇ?


 今、今なんか、ものすごく冷たく辛辣な言葉が聞こえたような……。


 恐る恐る、顔を上げる。

 手足は惜しむかのように、むにむにと柔らかな感触を堪能しているが、頭の方はそれどころじゃなかった。

 心臓の弾む音が、痛いほどに聞こえる。

 ようやく、視界にアシュの顔が収まった――――が。


「…………」


 案の定、アシュはものすっごく冷めた、氷のような無表情でした。


「…………お、おはようございばふぇっ!?」


「おはようございますキモクソセクハラうさぎさん」


 痛烈な罵倒と裏拳が俺の顎にクリーンヒットだとっ!?


 ずざざざざざぁぁっ! といい音を立てながら、俺の身体は壁にぶつかるまで吹っ飛ばされましたとさ。


 うん…………いや、俺も悪いんだけどね?

 生き物は大事に扱おう?


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