7話 【戦慄の音色】
※司視点です。
ドサッ!と音を立てて、真夜が倒れた。
「シン!? 大丈夫か!」
倒れた真夜の側に急いでかけよる。
疲労し過ぎたのか、息は荒いがちゃんと呼吸はしているようだ。
多分、あの瞳の力のせいなのかと思う。
「あかいめのお兄ちゃん…どうしたの?」
先程まで、泣きじゃくっていた金髪のお嬢ちゃんは、不安げな表情で真夜の様子を見ていた。
あれほど怖い思いをした後だっていうのに…なんて強い子なんだろう。
「大丈夫やで! このお兄ちゃんは疲れて寝とるだけや!」
ニカッと笑顔を見せて少女の頭を撫でてやる。
オレの言葉に安心したのか、お嬢ちゃんは涙の跡が残る顔で笑顔を見せてくれた。
——シンの赤い瞳。
それに、あのPhantomとか言う化け物。
一体…なにが起こっとんねん。
気になる事は沢山ある。
だが、今聞くことは無理だろう。
真夜が目を覚ましたら聞けばいい事なのだから。
今はそんなことよりも、少し休みたい。
「ワイも…疲れたわー…」
「ワイのお兄ちゃんも、えらいえらい!」
お嬢ちゃんは、疲れて座り込むオレの頭をよしよしと言いながら撫で始めた。
この子はきっと、巫女さんや聖女様みたいな優しい大人になるんだろうなと思う。
いや、きっと将来は女神の様な大人の女性になるに違いない!
「おおきに! 嬢ちゃんもよう頑張ったな! それと、ワイのお兄ちゃんとちゃうで? ワイの事は、スーパー強くてかっこいい司君と呼んでな!」
「おおきにぃ〜? すーぱーつよくてかっくいいつかさくん!」
自分の真似をしてみせるお嬢ちゃんは、お日様の様な明るい笑顔を見せた。
子供はやっぱり笑っていないとな、と改めて思う。
お嬢ちゃんは、心配そうな顔でこちらを伺っていた母親の元へと駆け寄って行った。
「お母さん! だいじょーぶ?」
「めっ! お母さんから離れたら駄目でしょう! …心配かけて」
母親も気が気ではなかったのだろう。
お嬢ちゃんを両手で強く抱きしめ、安堵するその頬には、一筋の涙が見えた気がする。
そんな二人の姿を見て、自然とオレの口元が笑みを浮かべている事に気付く。
不思議と、疲れていた身体も楽な気持ちになった気がした。
——気張った甲斐があったってもんや。
真夜とオレが救った二つの命は、今の姿を見れただけでも、お釣りがくるほど素敵なものだった。
しかし…他の人達は救えなかった。
自分の力を過信し過ぎてはいけない事は解る。
だが…それでも、救えるのなら皆を救いたかった。
その事が、オレの心の奥には、あのPhantomのようにモヤモヤと残っている。
こんな事を真夜に言ったら、きっとこう言うのだろう。
『少なくとも…この二人は守りきれた』っと。
今は…親友が言うであろう言葉で自分を納得させておく事にする。
現状、考え込んでいる時間はそれほどない。
隣の車両には、もう一体のPhantomが居るのだから。
——もう一踏ん張りせなあかんな!
遠くからパトカーのサイレンが聞こえる。
いつの間にか電車は止まっていた。
戦闘中には止まっていたのかもしれない。
そんな事にすら気付かないほど、真夜とオレは必死だったのだ。
「どうやら…やっと助けが来たようやな」
「本当に、ありがとうございました!」
こちらに、深々と頭を下げてお礼をしてくる親子。
「その言葉は、そのお嬢ちゃんに言うたって下さい! ワイらより頑張ってくれたんは、そのお嬢ちゃんですよ」
「わたしがんばった! えっへん!」
腰に手を当て、お嬢ちゃんは胸を張ってみせる。
そんな彼女の頭を、優しく撫でる母親。
そして…床に伏している真夜。
——もう一体のPhantomを倒すんは、シンが居ないと無理やろうな。
このまま中で助けが来るのを待つより、車外に出て少しでもPhantomから距離をとった方がいいだろう。
「お母さん…わたしたちお家に帰れるの?」
「 ええ、もちろん帰れるわよ!」
不安気な娘に笑顔で返す母親。
一方、オレは車内から脱出するべく、早速行動に移っていた。
緊急時に使う、ドア開閉のレバーは……壁に付いているレバーは普段は誤作動防止の為の赤いケースで保護されている様だが、先程の戦闘でケースだけ壊れていたらしい。
ガコンッ!と勢いよくレバーを下げてみる。
どうやら故障はしていないようだ。
無事にドアの安全ロックは解除され、その扉をオレは両手で力一杯こじ開けた。
——これで脱出は出来そうやけど、シンは起きなさそうやし…やっぱり担いで行くしかないんやろなー。
未だに意識を失っている真夜。
もちろん、このまま放置していくつもりなんてない。
「まったく…。 最後まで迷惑かけおって」
真夜の片腕を自分の肩に回し、引きずる形で起き上がらせる。
これが真琴ちゃんなら、喜んでお姫様抱っこなのだが…。
「お母さん、歩ける? わたしにつかまって!」
オレの後ろでは、お嬢ちゃんが母親の歩く支えになろうと、一生懸命小さな身体で手を貸しているようだ。
しかし、どうやらオレ達は簡単に脱出は出来ないらしい。
もう一体のPhantomが居た方角から、ゆっくりとだが、誰かが近付いてくる気配がする。
それに…これは……鈴の音?
リンッ!
鈴の音が、間違いなくこちらに近づいてきているのが解る。
他に生き残った生存者なのかと最初は思ったのだが…どうやら違うらしい。
真夜を担いで脱出をしようとしていたオレの背中には、その鈴の音と共に凄まじい殺気が走った。
リンッ!!
徐々に近付いてくる不気味な鈴の音。
——あかんやろ。
ここに居たら、全員間違いなく…死ぬ。
こんな殺気…武術を極めてる人間でも出せるものじゃない。
まさかとは思うが、もう一体のPhantomを倒してくれるなんて都合のいい事を考えても無駄だろう。
この殺気は、オレ達に当ててるのだから。
コツコツと聞こえてきた足音は、間違いなくこの場所に向かって来ている。
「…お二人さん、このアホを頼みますわ。 コイツを連れて、なるべく遠くへ逃げてくれませんかね?」
「え! でも、それだと…」
どうやら母親の方もこの異様な空気を感じ取っているらしい。
まさかとは思うが…この母親も武術をやっていたのだろうか?
「時間稼ぎはしてみますよって。 危なくなったらワイも逃げるんで、安心してここは任せて下さい!」
「でもっ………解りました。 必ず…必ず、こちらに合流してくださいね!」
そう言って、母親は真夜に肩を貸して扉に向かう。
お嬢ちゃんは、オレと母親の行動を見て気付いたのだろう。
「お母さん…つかさくんは?」
お嬢ちゃんは泣きそうな表情を浮かべている。
このままじゃ、本当にお別れフラグが立ってしまう。
幼女の涙は、死亡フラグに直結していると誰かが言ってたのを思い出した。
「大丈夫や! ワイはスーパー強くてかっこいい司君やで? せやから…このお兄ちゃんを頼むな! お嬢ちゃんは強い子やろ? お嬢ちゃんが皆んなを守ってくれたらワイも安心やから…頼むで?」
「んー?……うんっ!」
我ながら、死亡フラグを全開で立てている気がしてならない。
多分…気にしたら負けだろう。
お嬢ちゃんは、苦笑いするオレの表情に小首を傾げたが、すぐに力強く頷いた。
親子二人は、真夜に肩を貸しながら車外に降りて線路をゆっくりと歩いていく。
——せめて、あの三人が遠くへ逃げれるまでの時間稼ぎが出来ればええんやろうけど…。
オレは遠ざかって行く三人の背中を見送って、車内の真ん中に移動する。
そして、足元に落ちていた鉄パイプを拾う。
どうやら、手すりを支える部分が先程の戦闘で折れて落ちていたようだ。
軽くその鉄パイプを素振りして、鈴の音がする方角を向き、その場に正座をする。
両目を閉じ、来たる戦闘に備えて心を落ち着かせる為に。
車内は妙に静かだった。
聞こえるのは、確実に近付いてきている鈴の音と異様な殺気だけ。
リンッ!
口が渇く。
鉄パイプを握りしめる指が震えているのが解った。
——あかん。 ビビっとるわ。
こんな怖いんわ…初めてや。
リンッ!!
「…おいでなすったか」
スッと、閉じていた目を開け、目の前の存在を視界に入れる。
「あれぇ〜? 人数が足りないねぇ〜?」
異様な殺気を放っていた正体が、オレの眼に映った。
同時に、オレはその正体を見て驚いていた。
オレの目の前に立ち、未だに異様な殺気を放っている少女は、明らかにそんな物騒なものとは無縁だと思ってしまう様な少女だったからだ。
だが、その姿はこの世の物ではない。
あまりにも人間離れしてる…いや、人形のような見た目をしているからだろう。
異形の風貌だった。
「ん〜? 見惚れちゃってるのかなぁ〜?」
こちらに一歩、近付く少女。
たったそれだけの行動なのに、オレの脚は立ち上がり後方へと回避を行なっていた。
同時に、オレの直感が警報を鳴らして教えてくれる。
『殺される』と。
「あはははは♪ もしかして…君がうちの可愛いPhantomを壊しちゃったのかな?」
「…そうやったら、どないするんや」
ふるい出した声が掠れる。
少しでも気を抜いたら…オレは目の前の少女によって肉塊に変えられるだろう。
「ふぅ〜ん。 おやぁ〜…君も特別な力があるみたいだね。 だけど…弱いなぁ〜。 とぉ〜っても弱いよぉ〜! このまま逃がしてあげるからお友達の所に案内してよぉ〜♪」
「そんな禍々しい殺気出しとるやつの言葉なんか信じられる訳ないやろ」
彼女の言葉を素直に聞いたとしても、真夜とあの親子共々、自分自身すら間違いなく殺されるだろう。
もちろん、彼女を信用する気など微塵もない。
やはり…彼女との戦闘は免れない様だ。
「つまんない。 せっかく逃がしてあげようとしてるのにぃ〜。 …私と戦うのぉ〜?」
「…出来たら、戦うのは勘弁やけどな」
そう言ってオレは、目の前の異様な存在を睨みつける。
こいつは、同じ人間だと思ってはいけない。
「あはははは♪ 正直な子は好きだよぉ〜♪ だけど残念! 君はここでGame overみたい♪」
ドレスの裾をたくし上げ、細く白い脚が露わになる。
その細く白い脚に付いているホルスターから取り出した二丁の黒いリボルバーの様な形をした銃。
「お待たせ…HelL・ブロウ♪ 彼はどんな血を見せてくれるのかなぁ〜?」
不気味な笑顔を浮かべ、両手に持ったリボルバーの銃口を舐める。
「…なんちゅーサイコさんやねん」
構えた姿勢を崩さないまま、再度強く鉄パイプを握りなおした。
「いいねいいねいいねぇ〜♪ 恐怖に負けないその顔…壊し甲斐があるわぁ〜♪」
踏み込みは強く!
そして一撃は重く!
瞬時に動いたオレの脚は前へ進む。
先に動かなくては負けるだろう。
目の前で笑顔を浮かべている彼女は、それ程までに強いのだから。
「女子供に手を出すんわ気が乗らんが、お前は別や!!」
突き出した一撃は、彼女の心臓目掛けて放たれた。
しかし、オレの放った一撃は、彼女の片手の銃によって容易く防がれてしまう。
そして彼女は余裕のある笑顔で笑う。
「綺麗な一撃だけど、これじゃ〜私には届かないなぁ〜♪」
「くっ!? まだまだぁぁあ!!」
今度は胴体を狙って横から斬りこむ!
無駄のない見事な横一閃。
しかし…
「あはははは♪ 惜しい惜しい♪ でも…正直ガッカリだなぁ〜。 もっと素敵な一撃があるでしょ? 早く私に見せてよ♪」
オレの一閃は、またしても彼女の持つ片手の銃で受け止められていた。
しかし、驚くのはそれだけじゃない。
彼女は…橘の奥義すら知っているようだ。
——なんなんやコイツ…ワイの隠し玉すら見破っとる。
「その言葉…後悔すんなや? 見せたるわ! 橘流奥義を!」
「パチパチィ〜♪ 待ってたよぉ〜♪ 私は何もしないでここに立ってるからいつでもどうぞぉ〜♪」
そう言った彼女は、その場で銃をクルクルと回し遊び始めた。
——どこまでも人を舐めくさりおって!
本気の一撃お見舞いしたるわ!!
オレは、手に持った鉄パイプを高く振りかざし精神統一を始める。
静寂が車内を包む。
その静寂は、オレの周りにどこからか集まった風によってかき消された。
そして、その風は徐々に熱を帯びていく。
「へぇ〜…これは期待出来そう♪」
しかし、そんな二人の間に割って入る一つの影。
先程まで、こちらを黙って見ていたもう一体のPhantomだ。
精神統一をしていたオレは、目の前に現れたPhantomの存在に思わず集中を切らしてしまい、防御の構えを取ろうと動こうとしたのだが…気付いた時には既に遅い。
眼前まで迫っているPhantomは、オレの胸元目掛けて煙をまとった腕を振るっていた。
しかし…
「あはっ♪ …邪魔♪」
ドパァン!!
突如鳴り響いた銃声と共に、目の前のPhantomの頭が消し飛ぶ。
「…私の楽しみを奪わないでよぉ〜♪ 煙の分際で邪魔するなんてぇ〜…死んじゃえ♪」
彼女は怒り狂ったように床に倒れたPhantom目掛けて何度も銃の引き金を引く。
しかし、その顔は満面の笑みだった。
だからだろう…。
そんな彼女に恐怖を覚えるのは。
「あははは♪ 壊れろ壊れろ壊れろ…壊れろぉ〜♪」
凄まじい勢いで乱射する銃弾は、全て確実にPhantomの急所を目掛けて放たれていく。
——こいつ…仲間やないのか?
グォォォオ!!
苦しげな呻き声が車内に響く。
そして跡形もなく消えて無くなったPhantom。
そこには無数の弾丸で空いた、いくつもの銃痕があった。
「…お前、ほんま狂っとるわ」
「あはははは♪ もういいや〜…君も壊れちゃえ♪」
乱射して煙を吐き出した銃口が、今度はオレに向けられる。
「バァーン♪」
ドパァンッ!!
今回はとうとうRi:Nの再登場です!
本当にサイコなキャラクター。
なによりも彼女の狂気な雰囲気が出せてたらいいなと思います。
そして今回の主人公の空気っぷり!
あまり司ばかりヒイキしてはいけないんですが…。
次回は真夜が眼を覚ました所から始まります!
果たして司の運命は!
異世界のゲートは間もなく開かれる。
次回もお楽しみ!
#2017/06/08 改行部分の変更 台詞の追加をしました。




