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異世界のツカノマ  作者: 結字
第1章 退屈な世界におさらばを
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6話 【橘の一閃】






……今は、一体何時頃なのだろう。


きっと学校は遅刻の時間なんじゃないか。


真琴と互いに『行ってきます』を言い合ったのが遥か前に思える。


普段通りの通学。

何が悲しくて、こんな過酷な試練を受けながら学校に登校しなくてはいけないのだろうか。


——そもそもなんでこんな事に巻き込まれてんだか。


心の中で舌打ちをする。

それくらい、目の前の現状はあり得ない事だらけなのだから。


グォォォオ!!


頭部を潰され、怒り狂うPhantom(ファントム)


沢山の人達が傷付けられた。

どんなに抵抗しても、抗えない死への恐怖。

俺は…目の前で、助けを叫んでいた人達を救えなかった。


何度も眼を背けたくなった。

何度も吐き気がした。


その度、崩れそうな心を奮い立たせられたのは、隣に立つ親友(つかさ)が居るから。

死にたくないと、もがき続けられるのは、目の前に化け物の存在があるから。

今、この場所に立っていられるのは、後ろで今も俺らを信じて見守っている親子が居るから。


——俺もヒーローの仲間入り…ってか。


昔からヒーローアニメなどが好きだった。

誰かを守る為に奮い立たせる力。

それが幼い頃の俺にとっては、なによりもかっこよく、憧れていた。


だから、両親が亡くなったのは、この世にいる悪い奴らのせいだと思った。

そして、自分を正義の味方が助けに来てくれるのだと。


…しかし、いくら待ってもヒーローは助けに来なかった。


だから、今度は自分自身がヒーローになろうと思った。

待っていても現れないヒーローなんていらない。

唯一残された、大切な家族。

真琴を守れるヒーローになるのだと。


——それが、今は見知らぬ親子すら守ろうとしてるってか。


チラリと後ろの親子の様子を伺う。


親子の瞳は、しっかりと俺達の背中を見ている。

ふと、少女と眼が合う。

その瞳は、まるで自分達を助けに来たヒーローを見るかのようにキラキラしていた。


——あの頃の俺も……そんな眼をしてたのかね。


思わず笑ってしまう。

そして、再度疲れた身体を奮い立たせた。


約束したのだ。

必ず無事に帰ろうと!

下を向いてなどいられない。


「…そんな眼で見られたらやるしかねぇよな」


ボソリと呟いた俺は、己の頬を両手で思い切り叩く。


「いっ…てぇーー!!」


バチーンッ!と乾いた頬の音が響く。


「何しとんねん! こんな所で変な性癖に目覚めんといてや!」


「…そんなもんに目覚めるかよ! よっしゃ、先ずは目の前の化け物からいくぞ!」


拳を握り締める。

その拳は先程より力強く、そして、この状況を乗り切る為に!


赤く煌めく左眼は、目の前で蠢くPhantomをしっかりと捉えていた。


「ええ加減…倒れてくれや!!」


先に動いたのは司だ。

軽やかな前進ステップから繰り出した、横から振り切る一閃!

その一撃はPhantomの脇腹に突き刺さる。


グギャァァア!!


やはり、かなり効いてるらしい。

怯んだ隙を見逃さず、司の後ろに続いた俺の拳が反対側の脇腹に当たる。

その衝撃から、体制を崩したPhantomは車内の扉にぶち当たる。


「…やったか?」


「あかん。 まだ立ち上がるんかいな!」


確実にダメージは蓄積できている。

しかし決定的な致命打を打たない限りPhantomは倒れないだろう。


「なにか…確実に倒せる一撃があればいいんだけどな」


「…シン、ワイに少し時間くれんか?」


「ん? なんか思いついたのか?」


「バットで出来るか解らんが……やってみる価値はあると思うで!」


どうやら、司に秘策があるらしい。

一か八か…それにかけてみるしかなさそうだ。


「解った…。 信じてやるから、なるべく早く頼むぞ!」


「任せい! 集中…集中……」


眼を閉じ、両手で握ったバットを高く振りかざし、その姿勢のまま、司は精神統一を始めた。


グォォォオ!!


唸り声を上げ、ここぞとばかりに立ち直ったPhantomは、無防備な司目掛けて突撃する。


しかし、突撃してきていたPhantomは、司の元へは辿り着けず、進んでいた反対側の方向に吹き飛んだ。

そしてまたも、後方の壁にぶち当たる。


「お前の相手は…俺だ!」


司の前に割って入った俺の拳が、Phantomの胸元にヒットしたのだ。


グァァァア!!


胸元を潰され、苦しげな雄叫びを上げている。

しかし、その一撃だけではPhantomの動きは止められない。


体制を整え、再度突撃してくる。


「何度来た所で…って、あぶねぇ!!」


Phantomはノタノタと突撃してくる途中、俺目掛けて、足元に落ちていた傘を槍のように投げつけてきた。

辛うじて直撃は間逃れた。

しかし、あまりにも凄まじい勢いだったので少し頬を掠ったらしい。

頬を触ると、手に血が付いた。


——どんだけ馬鹿力で投げてやがんだ!


掠っただけでもこの威力だ。

それに、身体もだいぶ疲労感で重い。


しかし、そんな事で膝をつくわけにはいかない。

司は今、何も出来ない。このままじゃ…!


「止まれぇぇえ!!」


目の前まで迫って来ていたPhantomの動きを止めるべく、俺は潰れていた頭部を目掛けて拳を振るった。


しかし…Phantomの頭部は煙のように舞い、俺の一撃は虚しく、空振りになった。


——ちょっと待て。

なんで当たらないんだ? …まさか!?


窓に映った自分をみる。

左眼は…右眼と同じく、黒い色に戻っていた。


——ここまできて…タイムリミットかよ。


やはり、この能力を使用するには時間制限があるようだ。

もしかしたら、俺の体力面での問題もあるのかもしれないが。


司を狙っていたPhantomは、先に邪魔になるであろう俺の方向へと向き直り、煙の様な腕を振るった。


その一撃は鋭く、今まで殴り合いの喧嘩などで受けてきたモノとは比べ物にならないくらいの重さがあった。


「ぐぁっ!!」


俺は、先程までのPhantomのように、車内の壁に叩きつけられていた。

口の中が血の味で広がる。

とっさに両腕でガードは出来たが、左腕の感覚がない。


グァァァア!!


勝ち誇ったかのように雄叫びを上げるPhantom。

床に転がり動けなくなった俺を見下ろしている。

そして、今度こそ俺の息の根を止めようと、高らかに片腕を振り上げた。


——ここまで来て、終わりかよ…。


朦朧とする意識の中、俺の目の前に誰かが立ちはだかったのが見えた。


「お兄ちゃん!!」


霞む眼を凝らす。

そこには、目の前で俺を守ろうと、両手を広げ立ちはだかる幼い少女の姿。

少女の頭上にはPhantomの一撃が…。


「やめてぇぇぇえ!」


母親が叫ぶ。


——もうこれ以上、目の前で誰も死なせないでくれ。


瞳を閉じ、朦朧とする意識の中、俺の願いが心の底で木霊する。



『おにぃは……だから、ずっとずっと私の……で居てね?』



これは…真琴の声だ。


幼い頃、両親を亡くしたばかりの真琴は、今ほど明るい性格ではなかった。

うじうじした性格で、周りの子供達は、そんな真琴に『じめ子』とあだ名を付けて、髪の毛を引っ張ったり、砂を投げつけたりと、かなり酷い虐めを受けていた。

もちろん、虐められていた真琴を俺が放っておく訳がない。

虐めていた奴らを片っ端からぶん殴り、もう二度と真琴を虐めるなと強く言い聞かせた。


虐めに対して、俺には何も言わず、静かに泣く声だけが、毎晩、妹の部屋から聞こえた。

『もう…大丈夫だぞ!』と真琴の頭を撫でてやった時、そこまで溜めてきた感情が爆発したかのように大声を出して泣いた。

そして、泣きながら俺に言った言葉…。



——なんだったかな…確か。



『おにぃは…強いね。 だから、ずっとずっと私のヒーローで居てね?』



大粒の涙を流しながら、ぐしゃぐしゃの顔を精一杯の笑顔にして笑う真琴の表情が思い浮かぶ。

きっと、俺が居なくなったら真琴はまた泣くんだろうな。


——この子も…あの時の真琴みたいな顔してるのかな?


俺を庇おうと、目の前で両手を広げて立っている少女が死んでしまう。

そんなのダメだ。ダメに決まっている。

胸の奥から、何か熱いモノが込み上げてくるのが解る。

真琴が虐められてると知った時に込み上げてきたモノと同じ…これは、怒りとか憎しみじゃない。


「……やらせねぇよ」


これは…悲しみだ。

誰かが傷付くのを見ていられない、俺のちっぽけな悲しい正義感。

だけど、この正義感は俺が真琴のヒーローで居る為の証。


だから…



De()structive(ストラクティブ)!!」



その瞬間、左眼の奥が熱くなるのを感じた。


そして、俺は叫びながら眼を見開く。

身体中に、力が湧き上がるのが解った。

間違いなく俺の体力は限界だが、能力は発動しただろう。


「司ぁぁぁぁあ!!」


車内に響き渡る俺の叫び声!


「任せい! これで…終いやっ!!」



——橘流奥義 炎の型


炎牙閃滅(えんがせんめつ)》!!!!



司の持つバットから青い炎が吹き出し、大きな刀のような形を作り、その刀身はPhantom目掛けて振り下ろされた。


その一撃は、悪しき者を真っ二つに切り裂くが如く!


グギャァガァァァ!!


Phantomは雄叫びを上げながら青い炎に包まれ、そして、灰のように消えてなくなった。


「今度こそ…やったのか?」


目の前には今も必死で俺を庇おうと、眼をつむり震える少女の姿が見えた。


「はぁはぁ…やったで! お嬢ちゃん! よう頑張った!」


「お兄ちゃん……っ…うぇぇえん!」


どうやら…少女は、司にしがみ付いて泣き出したようだ。


——ありがとう…怖かったよな。


感謝の言葉を伝えたい。

だが、疲れ過ぎて声が出せない。


俺の意識は…ゆっくりと深い闇に呑まれて行った。








さてさて!

司の必殺技が放たれました!

橘流奥義 炎の型 炎牙閃滅


ほとんど思いつきで付けた技名ですが、意外と書いた自分自身が気に入ってたりします!


次回予告を入れたかったのですが

まだ内容が思い浮かんでないので、その時までのお楽しみに!


というわけで次回も

もし良ければ見て下さい!


#2017/06/01 台詞の追加 改行部分の変更

真琴が虐められていた部分を少し詳しく書き足しました。



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