5話 【形勢逆転】
※基本的には真夜視点ですが、途中、救出した母親の視点が入ります。
「シ…! ええ…………! はよ………なん……へんと!」
司の声が聞こえる。
だけど眼が開けられない。
何処だろう。
光の中で、ただ、ふわふわと浮かんでるような気分だ。
このまま、眠りにつきたい気分になる。
『貴方の…に…私の……を』
……?
司とは違う、別の声。
『貴方の瞳に…私の力を』
——またあの声か。一体誰なんだ。
『私の力は【存在しないものを存在させてしまう力】』
——存在しないもの?
まさか、さっきまで居た化け物達の事か?
そもそも、俺の瞳に力をくれるって…。
『先程、貴方が見た存在は【Phantom】と呼ばれる異世界から送られてきたモンスターです。 そしてこれから貴方に授ける力は、こことは別の世界の存在…つまり【異世界の存在】にのみ有効です』
——異世界?
なんの話だ?
あの化け物にも通用するってことか?
それよりお前は一体…。
『私も異世界の人間とだけ言っておきます。 時間がありません。大事な注意点を話しておきます。 この力、使用し過ぎ……貴方の【大…な……】を奪…ことに……ます。 くれ………使う時……用心……い』
——なんだって?
後半の部分が聞き取れなかった。
『ど…やら時…切れのようで…ね。 近い内に貴……逢…る事を…………』
——何を言ってるのかさっぱりだぞ!
その言葉を最後に、彼女の声は聞こえなくなった。
話をまとめると…俺の、この左眼が赤くなったのは、先程聞こえた声の主の力らしい。
そして、新たな異能を授かった。
人様の眼に変な力を勝手に押し付けてくるとは、なんてありがた迷惑な女なんだろうか。
出来るのであれば、知らない間に誰かに想いを寄せられる能力とか、天気を変えてしまう能力の方が、まだマシだと思う。
しかし、偶然にもこの状況。
いや、むしろこの状況が解っていたかの様なタイミングだが…今はそんな事を考えてる時間はない。
ありがたく使わせてもらうとしよう。
【存在しないものを存在させてしまう力】
俺の居る世界とは別の世界がある。
その世界は、異世界と呼ばれている。
そして迷惑な事に、その異世界からおいでなさったのがあの化け物。
確か…Phantomとか言ってたな。
普通の人間なら、夢か何かだと思うかもしれない。
しかし、既にInnocentという異能を持っている俺にとっては、実に理解しやすい話だった。
——要するに、この新しい力を使って、あの化け物と戦えって事だろ。
それで、みんなを守れるのなら…やってやるよ!
【Destructive】
相変わらずのネーミングセンスで、今回の異能の名前を付けた。
『技に名前を付けるのは…能力を持った者の務めだしな!』
本人曰く、そうゆうことらしい。
Innocentと同じような能力なら、この赤い瞳に【異世界の存在】を映し続けないといけないということだろう。
そして、対象の存在…その世界には居るはずのない異世界の存在は、どんな異形だろうと無敵ではいられなくなる。
…多分、そんなところだと思う。
正直、使ってみなければ解らないのでしょうがない。
結論として言えば、この能力は【異世界の存在】にしか通用しない訳で、【俺の居る世界の存在】に対しては効果がないという事だ。
——最後に何かいいかけてた言葉が気になるな。
確か、使用し過ぎると…うんちゃらかんちゃらとか。
しかし、いつまでもそんな事を気にしてる場合ではない。
直ぐにでも眼を覚まさければ…。
一人、Phantomに立ち向かっている友人が居るのだから。
「さてと、そろそろ…俺の【自称親友】を助けに行かないとな」
そして、俺の瞳は開かれた。
目の前で懸命に自分を守りながら戦う友人を救うべく。
左眼が疼く。
夢オチでした、とかっていう展開は無さそうだ。
『…死ぬ時は、真琴ちゃんの膝の上って決めとったのになぁー』
目の前で、今まさに、その命を絶たれようとしている司。
——真琴の膝にお前の頭が乗る事はねぇよ!
拳を握りしめ、一歩踏み込む!
Phantomと呼ばれていた【異世界の存在】をぶっ飛ばす為に。
懸命に守ってくれていた【親友】を、今度は守る為に。
——Destructive!!!!
先程受け取った異能の力を解放する。
その瞬間、俺の左眼の視界は一瞬、赤く染まり、直ぐに鮮明になっていく。
身体中に、力が湧き上がってくるのが解る。
そして、Phantomの顔部分を目掛けて放たれた拳は…
…目標をぶっ飛ばす事に成功した!!
「はぁはぁ…」
——予想以上に…この能力は…疲れるな。
どうやら、この能力は俺の身体能力を著しく高めるらしい。
その証拠に、先程、Phantomを殴ろうとした時の拳が、明らかに常人では放てない速度を出したからだ。
だが、その反面、体力の消耗も激しい。
殴られたPhantomは、車両の端まで吹き飛ばされ、そのまま壁に激突する。
——これは…あんまり長く持ちそうにないな。
俺自身、運動自体は得意だ。
路地裏の時のように何度かいちゃもんを付けられ、理不尽な不良達と喧嘩をした事もある。
…喧嘩といえるのかは解らないが。
ある程度、体力には自信があったのだが…かなりの体力を消耗している。
そんな事を考えている俺をよそに、隣では、呆然とこちらを見て立ち尽くす司の姿があった。
「悪いな…。 この眼を理解するのに時間がかかっちまった! …こっから反撃と行こうぜ!!」
「シン…お前…」
「説明するのは後だ。 まずは、あのPhantomとかいう化け物をどうにかする事が先決だろ!」
司の眼には今、俺の存在はどう映っているのだろうか。
きっと、化け物と同じような存在に映っているのかもしれない。
しかし、そんなネガティブな気持ちは司の一言で吹き飛んでいった。
「シン…お前、遅過ぎやろ! しかも…いいとこ取りなんてしおって! 後でなんか奢れや!」
「……え? そっち?」
「そっちもタッチもあるかいな! ワイがどれだけ苦労した事か…。 せやから変な事考えとらんで、はよ真琴ちゃんをワイに寄越せ!!」
「…ったく。 もっと聞く事あるだろーが。 だけど…ありがとな。それと…真琴はやらん!!」
隣に並んだ司からは、チッと舌打ちを受けたのだが…スルーしておこう。
吹き飛ばされたPhantomは、苦しそうに呻き声を上げながら起き上がろうとしている。
——さてと。
それじゃー…さっさと終わらせますか!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
そんな二人の姿を呆然と見ていた親子は、先程までの緊張感の無さに戸惑っていた。
そして、この【ユニークな学生二人】のあり得ない程の強さに、驚かされてもいる。
二人を見て、先程まで感じていた絶望的な未来は何処かへいってしまった。
そんな事より、この二人には希望を抱かずにはいられない。
「ママ…?」
「私達は、助かったのかも…しれないわ」
娘の瞳から涙は消え、先程まで絶望していたその瞳の奥には、微かな希望の光が宿っている。
「お母さん! 絶対助けます! だから、俺達に任せて…二人は後ろに!!」
「むっ! ちょっと待ち! その台詞はワイがドヤ顔で言う予定やったんやぞ!!」
「早い者勝ちですー。 言ったもの勝ちですー」
「なんや、その人を小馬鹿にした顔は…。 腹立ってきた! いっぺん殴らせろや!!」
ギャーギャーと騒ぐ目の前の二人。
…こんな学生二人に任せてしまって、本当に大丈夫なのだろうかと思う。
しかし、この二人は強い。
関西弁を使う青年は、私達と隣の彼を守るために必死に戦っていた。
恐ろしい化け物を相手に、一歩も引かず。
そしてもう一人、先程までピクリとも動かなかった、赤い眼の青年は、傷一つ付けられなかったあの化け物を拳で殴ったのだ。
この状況で、この二人以上に頼れる人間など居ないだろう。
見て居ることしか出来ないが…二人の背中をしっかりと私は見つめる。
そんな私の視線に気付いたのか、赤い眼の青年は振り向いて優しく微笑む。
「絶対…生きて帰りましょう!」
「…それは死亡フラグやろ」
ボソリと、隣で呟く関西弁の青年。
「ママ? 痛いの? 大丈夫?」
娘の言葉を聞いて驚いた。
いつの間にか、私の瞳からは涙が零れ落ちている。
「大丈夫…。 ただ、安心したら涙が出てきたの。 あのお兄ちゃん達が…きっと助けてくれるから」
「お兄ちゃん達! がんばって!」
娘は、笑顔で二人を応援している。
目の前に立つ、まだ幼い背中の二人の姿を見ながら。
私も、心から応援する。
この状況から、脱出出来るようにと。
そして願う。
彼らが、どうか無事であるようにと…。
——きっと…この二人なら!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
グォォォオ!!
吹き飛ばされたPhantomは、獣のような雄叫びを上げて起き上がる。
「さーて。 それじゃーさっさと片付けようか!」
「せやかてどうするんや? あいつに攻撃しようにも煙みたいになって通り抜けてしまうんやで?」
「…なるほど」
「何独りで納得してんねん」
やはり、あの声の言う通り普通の攻撃などは傷一つ付けられないらしい。
もちろん、なんの能力もない者なら当たり前だろう。
しかし、俺の新しい異能。
【Destructive】の力があれば関係ない。
しかし、使用者以外にも、この力の効果は適用されるのかが気になる。
「ふむ。 司…ちと頼みたいんだが」
「なんや改まって。 ここまできたんや! なんだってやったるわ!」
そう言う司は、バットを握りなおし、剣の形をとる。
「そうか…。 なら…あの化け物に突っ込んで一撃入れてきてくれ」
「おうよ! まかせ……は?」
「だーかーらー! 司、化け物、突っ込む、オーケー?」
「オーケーなわけあるかい! 軽く死んでこい言うとるのと同じやないか!」
「お兄ちゃん! 頑張って!」
俺たちの背後に居る、母親に抱きかかえられていた少女からも声援が送られる。
「ってことで…行ってこーい!」
「んぁぁあ! もうどうなっても知らん! 死んだら呪ったるからな!」
ヤケクソになった司は、ジワジワと近付いてきているPhantom目掛けて突っ込んだ。
「こんちくしょー! 今度こそ消えろやぁぁあ!!」
高く振りかざしたバットが化け物の頭を…
叩き潰す!!
グギャァァア!!
悲鳴のような雄叫びが、化け物から発せられる。
「なんやて!? さっきまで当たらんかった攻撃が…入った!!」
——これで理解ができた。
この眼に【異世界の存在】が映ってる限り、対象の存在自体が無敵ではなくなる。
つまり、他の誰がPhantomを攻撃したとしてもその攻撃は有効になるということ。
…なんとも便利な能力だ。
「これなら…倒せる!!」
ゆっくりとだが、確実に、俺達に希望の光が見えて来ていた。
戦闘はまだ続きそうです!
そして前回の話しの内容をちょくちょく変更させて頂きました!
もしよければそちらにも眼を通して頂けるとありがたいです。
真夜の新たな能力。
なかなかにチートっぽい力ですがメリットばかりではなく、やはりデメリットもあります。
次回は
司の剣術が冴え渡る!
はたして無事この地獄から脱出することが出来るのだろうか!
というわけで、次回もお楽しみ!
#2017/05/31 台詞の追加 改行部分の変更
紅い瞳➡︎赤い瞳に変更しました。
#2017/06/17 母親からみた二人の視点を追加しました。




