4話 【断ち切る力】
※司視点です。
——世の中は不思議な事に溢れとる。
せやから飽きんのや。
彼、橘 司 にとって、目に見えるもの、耳に聞こえるもの、その全てが、ワクワクする代物だった。
幼い頃から、厳しかった父の言い付けで、なかなか外に出ることも許されず、ただひたすらに剣の道の教えばかりを叩き込まれた。
だから、普通に生活していたら見慣れてしまう風景すら、彼にとっては新鮮でキラキラ輝いて見えたのだ。
彼にとって外に出れない生活は当たり前だった。
自由に外に出れるようになったのは、司が中学に上がってからであり、登下校後はすぐに帰宅し父と道場での鍛錬が続いた。
そんな厳しかった父も、中学卒業間際の息子との手合わせに敗れ、その後は橘流の道場を任せようとしていた。
しかし、彼はそれを断った。
そして、産まれて初めて父にお願いをした。
『父さん…俺、もっと色んな物が見たい! もっと沢山の人に出会いたい! だから、都会の高校に進学したいんだ! お願いします!」
もちろん猛反発された。
しかし、そんな司の姿を見ていた母が父を説得してくれたおかげでどうにか今の高校に通えるようになったのだ。
都会での一人暮らし。
父は彼が家を出るときに一本の刀を渡した。
橘の道場が代々、継いできた刀
【豈炎丸】
鞘は内に籠る熱があふれ出ないようにと、深海のような深い青。
刀身は見た者が目を奪われるような美しい輝きを放ち、切り抜かれた者は傷口から燃え、跡形も残らず消し炭になるという。
橘流は一撃で敵を殺めるための流派であり、司は橘流を極めた者でもあった。
故に父はそれを司に託したのだ。
しかし、そんな代物…この絶望的な状況にはない。
「これでも喰らえや!」
ヒュンッ!!
勢いを付けて走りながらの縦一閃。
見事化け物の頭を捉えた。
しかし、殺傷能力に乏しい傘では化け物の身体に傷一つ付けることは出来ない。
それどころか、捉えたはずの頭部は煙のように舞い元の形に戻る。
「もういっちょおぉーー!」
今度は化け物の胴体に狙いを付け、横から傘を振り抜く。
しかし先程と同じ結果。
やはりコイツらは実体などはなく、殆んど煙のような存在なのかもしれない。
ブンッ!!
化け物の片腕が司を襲う。
「ほっ!!」
その攻撃をバックステップで避けようと後退する最中…
ゾクッ
——なんや。
このまま避けたら…あかん気がする。
そう判断した司は、化け物の頭目掛けて傘を槍のように投げつけた。
「オラァッ!!」
とっさの判断。
むしろ、剣道を幼い頃から習っていた彼だからこそ解った直感でもあったのだろう。
振り払った化け物の手は標的を司ではなく投げつけられた傘に変え、そしてそのままその傘を粉々に粉砕した。
もしも今の判断が少しでも遅れていたらと考えると背筋が凍る。
「あかんなー…煙と戦っとる気分や。 人間相手なら負ける気はせんのやけど…化け物となると話は別や」
化け物の動き自体はそこまで俊敏ではない。
予測ではあるが、あの化け物に殺められた人達を見た限り、触れてしまったらまずい事だけは理解出来る。
そして傘で戦う事自体がかなり難しい。
後方にチラリと視線を移す。
どうやら、もう片方の化け物は、こちらよりまだ生き残った乗客を襲うのに忙しいらしい。
——ホンマはあの人らも救いたい。
せやけど、全ての人を救うほどの実力はもってないんや…堪忍な。
真夜の方は…両眼を閉じたまま天井を仰いでいる。
しっかり呼吸もしている。
いつの間にか、やられていたという訳ではなさそうだ。
ならば、真夜は何をしているのだろうか。
ヒュンッ!!
突如、よそ見をしていた司の顔すれすれを、棒状の物が掠め、それが床に転がる。
ガラガランッ!
どうやら、化け物が投げたのは乗客に野球部の人でもいたのだろう…金属バットだった。
「なんや…随分挑発的やないか。 今度はこのバット使うてかかって来い言うんかいな!」
傘よりは殺傷能力が上がったが、あの化け物に致命傷を与えられる気がしないのも事実。
「シン! ええ加減キツイで! はよ逃げるかなんか行動せえへんと!」
「…………」
「シン! 聞こえとらんのか? 返事せえ!」
化け物は、少しずつこちらとの距離を詰めて来ている。
——このままじゃ二人まとめてお陀仏や。
どうする…もう一撃入れてみるか? せやかてさっきの二の舞になりかねん。
「どうしたもんかね…」
その間にも、化け物は着実に、ゆっくりと距離を詰め寄ってきている。
——やらずに殺られるくらいなら、やって殺られた方がマシやろうな。
きつくバットを握りしめ、先程と同じように、上段構えで化け物との距離が近付くのを待つ。
タイミングが大切。
もっと引き寄せてから…。
……今や!!
「ええ加減消えろぉぉお!」
渾身の力を振り絞り、化け物の頭部目掛けてバットを振り下ろす!
ブォンッ!!
しかし、先程と変わらず、化け物の頭部は煙のように舞うだけで傷一つ付けられない。
「た…す……けて」
どこからか、か細い女性の声がする。
「まだ生きとる人がおったんか! 何処や!」
バットを構えたまま辺りを探す。
すると、座席の下の空調の場所に身を隠していた女性がこちらに助けを求めていた。
他の乗客の返り血塗れになりながら、必死で何かを庇っているような…。
その女性の下には、守られるように幼い少女が居た。
娘を守るために、必死で化け物から身を隠していたらしい。
しかし、化け物がその些細な声を逃すはずがない。
隠れている親子目掛けて、おぞましいその腕を振り下ろそうとする。
「やらせるかぁぁあ!!」
瞬時に動いた司の一撃が、化け物の腕に振り下ろされる。
やはり煙のように消えてまた元に戻る。
しかし、親子への攻撃は防げたようだ。
「まだ浮気するんは早いやろ。 お前の相手はワイやで!」
化け物に向けて中指を突き立てながら挑発する司。
——なんや…アニメとかやと、ここでワイみたいなキャラは死ぬんやろうな。
縁起でもない事を考えてしまう。
しかし、それだけ司の体力は消耗していた。
グォォォオ!!
挑発に乗ったのか、呻き声をあげて司を目掛けて突っ込んでいく化け物。
「ぐっ!!」
化け物の突進をバッドで受けたものの、その勢いに負けて吹き飛ばされる司。
そして、化け物の腕は、今度こそ司を目掛けて振り切られる。
——あかん。
まるでスローモーションの様な錯覚を覚えた。
眼前にはゆっくりと確実に、化け物の腕が司の頭部を目掛けて動いている。
「…死ぬ時は、真琴ちゃんの膝の上って決めとったのになぁー」
死を覚悟し眼を閉じる。
そして、化け物の腕は司の頭部を…
「………っ!」
しかし、いくら待っても訪れない死への痛み。
「……ん? なんや? ワイ…死んどらんのか?」
そっと眼を開ける司。
ゴウッ!
風を切るような音。
ズガァァン!!
車内の壁にぶち当たる化け物。
「ふぅ…」
そして、司を庇うように目の前に立つ彼は、ゆっくりと司の方へ振り向いた。
「悪いな…。 この眼を理解するのに時間がかかっちまった! こっから…反撃と行こうぜ!!」
左眼を赤く煌めかせ、先程まで一切、攻撃を受け付けていなかったあの化け物を拳一つで吹き飛ばした…親友の姿があった。
戦闘シーンを書くのは凄い難しいですね!
今回書いてみて、しみじみ難しさが解りました。
しかしまだまだバトルは始まったばかりなので頑張って書いていきたいと思います!笑
司の生い立ちから始まった司視点での今回の話。
意外と自分個人的に、彼の様なキャラが好きだったりします!
もっといい感じのキャラに出来たらいいなーと考えてます。
次回は真夜の参戦により戦闘が進展します!
新たに紅い瞳の力を手に入れ、その能力とは果たしてどんな能力なのか!
というわけで次回もお楽しみ!
#2017/05/31 台詞の追加 改行部分の変更




