プロローグ 後編 【ありえない能力(ちから)】
「どういうことだ!! 幻覚ってなんなんだ!!」
声を荒げる冴島は、現在の状況の理解が出来ていなかった。いつの間にか冴島達の背後には真夜が立っていたのだから当然の事だろう。
「だから、今のは幻覚だって。お前らは今、俺のこの眼の幻覚で…そこの血まみれの奴を"俺"だと視認しちまったってことだよ」
「『……は?』」
——まぁ…そうなるわな。
つい先程まで目の前に立っていたはずの真夜が、いつの間にか後ろに立っている状況などそう簡単に伝わる訳がない。
やれやれという素振りで真夜は冴島達を見つめた。
「まぁ、説明しても無駄だろうし、お前らはきっとチュートリアル的な存在だろうからさ…サクッと倒させて貰うわ」
「あ゛ぁ゛ん? 訳が解らねーうえに、そんな舐めた態度とられて俺らが引き下がると思ってんのか!」
「思ってないさ。そもそも、これは正当防衛だからさ…悪く思わないでくれよ?」
そう告げた直後、不良達の目の前から真夜の姿が消えた。正確に言うと、消えたように見せただけで、実際はその場所から真夜は動いてなど居ない。
この瞳の力…つまり【異能】で、真夜の姿を冴島達が認識出来なくなっているだけの事なのだ。
「ちっ! あのガキの変な手品か。 おい、お前ら! 同士討ちしないように気を付けろよ!」
「ぶへぇ!!」
「ぐぇぇ!!」
「…言ってる側から同士討ちしてんじゃねぇか」
冴島の後ろに立っていた二人は、互いの存在を真夜だと視認してしまったらしい。互いにクロスカウンターを決めたまま崩れ落ちていく。
残る人数は冴島を含めて二人。冴島から少し離れた場所に居た不良が、危険を感じて冴島の近くに向かおうとしていたのだが…。
「冴島のアニキ! このままじゃ全滅ですぜ…。 どうしやしょ…ぐはっ!!」
冴島に近付こうとしていた不良は、突如現れた…様に見えただけの真夜の拳によって吹き飛ばされる。実際の所、真夜の行動はゆっくりと不良の傍まで歩いて行き、力一杯拳を振るっただけなのだが…。
なかなかに、認識されない主人公というのもシュールな絵だ。
「これで残るは…金の冴島さんだけだな」
「…いやらしい手品を使って人の子分をボコボコにしたうえに、俺様にふざけたあだ名を付けやがるか!! 久しぶりにキレちまったぜ……このクソガキィィィ!! 生きて帰れると思っ…バキュンッ」
——今バキュンって言ったよな。
冴島の怒りの台詞は最後まで言い切る事は出来ず、その間に真夜の拳が冴島の顔面に叩き込まれていた。そして、その勢いのまま、遥か後方にあったゴミ袋の山を撒き散らし吹き飛んでいく金のフランスパン。
「戦ってる最中にそんなベラベラ喋っちゃダメでしょ。俺が悪役ならヒーローが変身してる隙を突くし」
「…………。」
——もう聞こえてないか。
こうして、真夜のチュートリアル的な最初の戦いは幕を降りたのであった。
〜END〜
なんて…簡単に終われる訳はない。
彼の左眼に宿した異能が呼び寄せる異世界の脅威が、ここから始まるとは…主人公——塚野 真夜が気づくのは、もう間もなくの事。
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真夜が居なくなった後の裏路地に1人の少女が立っている。
「へぇ〜♪ あれがマスターの言ってた《眼》ね〜。あはは♪ …早くあの瞳が恐怖で怯える姿を見てみたいなぁ〜♪」
彼女は、両脚のホルスターから外した二丁銃の銃口を舐め、艶のある笑顔で真夜が去って行った方角を眺めている。
「想像するだけで目眩がしそう。 あのあどけない顔をこの銃で吹き飛ばしたら……あははははっ♪ たまらないなぁ〜♪」
しかし、そんなご機嫌な彼女の後方からガバッと何者かが起き上がる気配がした。
「…くっ! あのガキィ。調子にのりやがってぇ!! 確実に次は息の根を止めて……は?」
その正体は、つい先程真夜の拳によってゴミの山に吹き飛ばされたばかりの…金のフランスパンこと冴島だった。
しかし、起き上がったばかりの彼は自分の置かれている状況に訳が分からなくなったようだ。
彼の額には、ドス黒い色をしたリボルバーの様な形状の銃が二丁突き付けられていたのだから。
銃を突き付けられている事もあり得ない事なのだが、なにより冴島が驚いたのは、その銃の持ち主の少女の姿だった。
黄色い髪、青い瞳、肌は色白く、ファンタジー世界から出て来たかの様な白と黒のドレス。人形の様な姿の可愛らしい少女が、ニコニコと笑顔を見せながら、冴島の額に銃口を突きつけてそこに立っていたからだ。
「嬢ちゃん…。 それは…オモチャかな?」
そんな冴島の問い掛けにも、ニコニコとしているだけの少女。カチャリとセーフティーを外す音がする。
そして…初めて少女の口が開かれた。
「君…素敵な血の雨を降らせてくれそう♪」
「……は? ちょっ…え?」
「バァン♪」
——ズバァァン!!
少女の鈴の音のような声には似ても似つかない、恐ろしい銃声が路地裏に響き渡る。
そして…冴島のボスたる象徴は、彼の頭部ごと跡形もなく吹き飛ばされた。
「あはははは♪ 思った通りだぁ〜♪ と〜っても綺麗な雨♪」
《金色の猛獣》こと冴島にとって、この日が命日になるなど考えもしなかっただろう。彼の吹き飛ばされた部位からは、止めどなく血が吹き出ている。まるで噴水の様に。
その中で彼女は踊る。その血を浴びた白い肌を、その白と黒のドレスを真っ赤に染めて。いつの間にか辺りは暗くなっていた。
月が煌めく下、二丁の銃を抱き締めながら彼女は踊る。
そして彼女の耳に付けた鈴が鳴る。
——リンっと。
さてさて!
というわけで第1章の幕開けです!
謎の少女の出現によってこれからどう物語は進んでいくのか!
そして本当にチュートリアル扱いにしてしまった冴島さん。
いつまでも金のフランスパンは永遠に…。
次回もお楽しみに!
#2017/05/29 少女の台詞、文字の改行、文章の追加をしました。




