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異世界のツカノマ  作者: 結字
第1章 退屈な世界におさらばを
19/22

番外編 【ベルの音 ①】






これはまだ真夜達が

物語の歯車を回し出す

ずっとずっと前のお話し。



とある辺境の地。



元々そこは、木々に覆われた自然が豊かな場所だった。

しかし、今はそんな木々などは一つも存在せず、あるのは無残に転がる人の形を模した人形と、壊れた建物の残骸のみ。


焼け野原となったその場所には、元々研究施設が建っていた。


そして、その場所にカタカタと音を立てて(うごめ)く多くの人形(パペット)の姿。

数はざっと見繕っても数千は居るだろう。


人形(パペット)達は、亡骸となった仲間達を踏み付けながら、ただただ、主人の命令に従って突き進んで行くのみ。



そんな不気味な人形の中心に一人、黄色い髪の少女が立っていた。


彼女はじっと、足元を見つめている。

そこになにか大切な物が埋まっている。そんな気がしたのかもしれない。



『ワタシハ……ダレ?』



カタカタと音を立てて尚も少女に近付いていく人形達。



『……コレハナニ?』



彼女は足元に落ちていた鈴を見付ける。

その瞬間、人形の一体が少女に飛びかかった。



『……マリア?』



彼女が鈴を拾おうと屈んだ時と同じくして、

飛びかかった人形は無残にも空中でバラバラになっていた。



『…………ハカセ?』



リンッと鈴の音がなる。



そして、物語は数時間前に遡る。






〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





電子音と空調の音。

薄暗い部屋に無数のモニターの光。


ここは研究所の一室。



そこに一人の研究員が居た。

彼女はただひたすらにモニターに向け、手元の電子パットで何かのシステムを打ち込んでいる。



「もうすぐ……もうすぐ貴女を自由にしてあげられるわ」



そう呟いた彼女の横顔は何処か優しげで、そして何かを待っているような表情だった。



何時間経ったのだろう。

相変わらず彼女はモニターとにらめっこを続けて居た。



「……後少し。 ………ッ!?」



そんな静かな室内に突如として警報音が鳴り響く。



『緊急事態発生! 現在、この施設付近に大量のシグナルを確認!! 全ての研究員は直ちに、脱出用シェルターへ退避を!!!』



一瞬にして薄暗い部屋がサイレンの赤いランプで真っ赤に染まった。



「どうして此処へ!? まさか……奴等が!!」



彼女の視線の先には、人が一人入れるくらいのカプセルがあった。



——こうしてる場合じゃない!

今すぐにこの子を完成させなくてわ!!



再度モニターに向き合おうとした彼女の背後の扉が開き、分厚い眼鏡をかけたボサボサな緑色の髪の地味な女性研究員が駆け込んでくる。



「は…博士ッ! きっ…きん……緊急事態ですッ!!」



「マリア! 貴女今まで何処に行ってたの!! 現状は聞いていたから解っているわ! そんなことより防衛システムはどうなっているの!!」



「え…えっと! げ…現在、施設外部に設置された…ぼ……防衛システムが作動しています!! い…今、状況をモニターに映します!!」



マリアと呼ばれた彼女の手元からは緑色のキューブが空気中に放出された。

そしてそのキューブは彼女等の側にあったモニターに合わさり、そのモニターに映像が映る。



「……なんなのよ、これ」



驚愕した彼女の眼には、無数の人間の形をした人形(マリオネット)がカタカタと音を立ててこちらの施設に進んで来ている。


防衛システムの攻撃により何体も葬られてはいるが、依然として人形の数は減ってる様には感じられない。

むしろ、増えているのではないのかと錯覚する程の大軍が攻めて来ていたのだ。



「…あわわ! はっ…博士!! もうここは危険です!! い…一緒に逃げましょう!!」



「……」



『各員速やかに退避を! 繰り返す! 各員速やかに退……ッ!! だっ……誰だ!! やっ、やめろ! 近付くな!!! ……うわぁ゛ぁ゛あ゛あ゛!!!! ………………イヒヒッ!』



どうやら施設内部にまで侵攻された様だ。

放送していた者は、きっともう……。



「ひぃ!! な…何ですか! 最後の笑い声は!! は…博士! こ…このままじゃ、あの気持ち悪いのに……殺されちゃいますよッ!!」



「……マリア。 貴女は逃げなさい」



「そ…そうです! さあ、早く行き………え?」



「私は……残るわ。 この子を置いてなんて行けないもの」



博士は寂しそうな表情を浮かべ、目の前にあるカプセルを撫でた。



「だから……マリア、貴女は逃げなさい! この研究の資料はきっと、これから起きる災厄を止める鍵になるはず」



そう言って、博士と呼ばれていた彼女は自分の耳に付けられていたピアスを外し、そしてマリアの耳にそっと付けた。



「……これを。 ……私達の未来を。 マリア、貴女に託します」



彼女はそう言ってマリアの頭を撫でる。



「博士ぇ……」



「大変な使命になるかもしれないわね。 それでも貴女なら、きっと大丈夫だと信じているわ」



「は…博士ぇ゛……。 わ゛だじ一人なんで……無理でずよぉ゛……」



頬に大粒の涙を流しながら、分厚い眼鏡を外し泣きじゃくるマリア。



「泣くんじゃないの……。 貴女は私の一番の助手でしょ? だから……解るわね?」



「………(ふるふる)」



「まったく……。 マリア、私も必ずこの子を完成させたら避難します。 だから、貴女は先に脱出用シェルターで待っててちょうだい」



「……ほ…本当ですか?」



「ええ! 私だって独身のまま死んだりなんてしないわよ! 」



そう言ってニコリと微笑んだ博士。



「……だから、貴女はシェルターに先に行って、封鎖する時間を少しだけ待ってもらうように頼んでもらえるかしら?」



博士のその眼差しは、かつてマリアがこの施設に配属された時に見た何よりも優しい眼差しで、そんな尊敬している博士だからこそ、その眼差しはマリアを動かすのに充分な原動力になった。



「……必ず。 必ず来てください!! 私待ってます!!!」



「ふふっ。 貴女はやっぱり、私の一番の助手だわ」



「博士っ!! また後で!!」



脱出用シェルターに走っていく助手の背中を見送った彼女は、また一人、薄暗くなった部屋でモニターに向かっていくつものシステムを書き足していく。


施設内部まで侵攻されているはずなのだが、辺りは妙な静けさで満ちていた。

いつの間にか警報も止まっている。



——もしかしたら、防衛システムでどうにかなったのかしら?



そんな事を考えながら彼女の手は、いくつもの数式を書き足していく。






研究施設襲撃から何時間経ったのだろう?

相変わらず辺りは静けさを保っていた。



——どうやら侵攻は収まったようね。

それにしても静か……。



博士はシステムの最終調整を終え、少女が入っているカプセルの前に立っていた。

後は、少女が目を覚ますのを待つのみ。



ふと、先程までマリアが居た場所に何か落ちているのに気付く。



——あら?

マリアったら……大切な眼鏡をこんな所に落として。



彼女が眼鏡を拾おうと屈んだ時、背後の扉が開いた。



「あら、マリア? どうやらもう大丈夫みたいね。 それにしても貴女、トレンドマークの眼鏡をこんな所に落として行く…なん………て……」



ゆっくりと、扉に立っているであろう助手の姿を見て、彼女はその手に握っていた眼鏡を落とした。



「……は…か……せ………」



「…マ………マリア!!」



そこには先程まで悲しみで泣きじゃくっていた助手の表情などはなく、苦しみの表情を浮かべ涙を流しているマリアの姿があった。


その身体は何箇所も切り刻まれ血塗れになっている。

そしてそんなマリアの背後に立つもう一人の存在。



「イヒヒヒ!! ほーお! この子はマリアというのかい!! 随分…素敵なお名前じゃーないかぁーい!!!」



「……貴方は……誰?」



「イヒヒヒヒ!! これはこれは、自己紹介もせずに申し訳なぁーい! 私の名前は……そうですねぇー……オルトロス。とでも名乗っておきましょぉーかぁー!!」



オルトロスと名乗った彼は、スキンヘッドの頭部に数本のネジの様なものを刺し、真っ黒なコートに身を包んでいた。

どう見ても不審、と言うよりは不気味な存在だ。



「オルトロス……!! やはり貴方達が…。 こんな辺境な場所に何の用なの!!」



「イヒッ! 私共をご存知でしたかぁーあ!! ならば話しは早い! 貴女の研究データを貰いに来たんですぅーよ!!」



チラリとカプセルの様子を伺う。

どうやらまだ彼女は目覚めてないようだ。



「……は……か…せ。 だ……め…」



かなりの出血なのだろう。

マリアの顔から血の気が引いているのが解る。



——このままではマリアが……。



「貴方達の要件は解ったわ。 だから……その子を、マリアを離してちょうだい」



「イヒヒヒヒヒ!! ええ! いいでしょぉーお!! その代わり、貴女の研究データを渡してくださぁーい!!」



ニヤニヤと不気味な笑みを浮かべた彼は、瀕死状態のマリアの頬を撫でる。



「……解ったわ。 これよ。 送るからそちらもマリアを離して!!」



彼女は手元に出した電子パットを弄ると、先程マリアがモニターに映像を写し出した物と似たようなキューブが現れた。



「イヒヒ!! 素直ですねぇーえ! それでは……どうぞぉーお!!!」



「……ベル……は…か…」



彼女は今何を見ているのだろう。

目の前の光景がゆっくりと映る。



「………マリア?」



彼女は本当にマリアなのだろうか?

目の前でたった今、人形に身体を真っ二つに切断された存在を。



「……嘘。 どうして……」



ただ彼女は力なく崩れ落ちる事しかできなかった。

目の前で何年も共に過ごして来た、どんな時も側にいたマリアの亡骸がそこにはあった。



「イヒヒヒヒ!! やはり……人が苦しむのは……キモチィィィイ!!!」



呆然とマリアの亡骸を見つめる博士。

そんな博士の目の前で、オルトロスと名乗った彼は喜びに打ち震えている。



「イヒヒヒヒヒ!! さてぇー! 素敵な作品も見れましたぁーあ! 研究データもいただいた事ですしぃーい! 私はこれで失礼しまぁーす!!」



「………」




そう言ってオルトロスは不気味な笑顔のまま闇に呑まれていった。



「あはは……マリア。 ごめんなさい……私のせいで……」



博士は彼女の亡骸の前で、ただただ涙を流し続けた。



カタカタ



虚しく響き渡る音。

それは人形の音なのか、それとも博士の心が壊れた音なのか。



「あはは……。 あはははは」



彼女は薄暗い部屋の虚空を見つめて笑う。

カプセルの中の少女が目を覚ましている事にも気付かずに。




「あはは♪」





番外編【ベルの音 ②】に続く……。







と言うわけで番外編なのですが続きます!

今回のお話はもう少し後に投稿するつもりでしたが、他のお話しとの繋がりを考えた結果第1章のラストに入れさせて頂きました。


近いうちに別の物語として、マリアと博士のお話しを投稿出来たらいいなと思ってます。


それでは、次回は第2章!

それまで暫くお待ちください!



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