15話 【オルトロス】
グラウンドからは大量の土煙が立ち込めている。
先程真夜が放った一撃の影響だろうか?
下で尚も司が戦っているのかもしれない。
——早いところ真琴を起こして加勢しないとな!
真夜の足元には幸せそうな笑顔で眠る妹の姿。
——ったく! 我が妹ながら逞しいというか……。
「真琴! しっかりしろ!」
間一髪、助け出した妹の肩を揺すり声をかける。
「ん……? お…にぃ……?」
「そうだ! お前の大好きなお兄ちゃんが助けに来たぞ!」
爽やかな笑顔で真琴に向けて親指を立てる。
しかし肩から血を流している真夜のそんな姿を見て爽やかとは思えるはずもなかった。
心配そうな瞳で真夜の傷口を見る真琴。
「こんなもんただのカスリ傷だ! むしろ妹を守る為に付いた勲章みたいなものだから、だから真琴は気にするな。」
そう言って真琴の頭を優しく撫でる。
「ん……やっぱり……おにぃは私のヒーローなんだね。」
そんな真夜に安堵したのか、真琴は少しくすぐったそうな表情を浮かべて笑う。
「それより、おにぃ? 私をここまで連れて来た黄色い髪の仔はどうしたの?」
「そいつなら今頃司と戦ってる筈だ。 だから俺らも急いで下に降りて司の加勢に行かないとな!」
真琴の前に手を差し出す。
「え? 戦うって? それに……つーくんも来てるの?」
真夜の手を掴み、立ち上がる真琴は心底驚いた表情をしていた。
因みにつーくんとは真琴が司に付けた呼び名だった。
内心、兄としては友人にそこまで親しい呼び名をつけて欲しくなかったのはここだけの秘密である。
「ああ! それに……まだ終わってなさそうだしな。」
そう呟く真夜の視線の先には、空に開いたゲートから無数のPhantomの姿が見えた。
「おにぃ……。」
震える真琴の手を、今度こそ離さないようにと強く握り締めた。
チラリとグラウンドに目を向ける、しかしそこには、落ちていったはずの赤髪の男の姿は無かった。
そして風と共に彼の声が聞こえる。
【Innocent】
そんな二人の側を白い蝶が通り過ぎていった。
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「あかんなー。」
少し時間は遡る。
Ri:Nとの激闘を繰り広げる司の視点。
「あはははは♪ キミは強いからここで死んでもらわないと困るの〜♪ だから……この【バルバドス】の餌食になってねぇ♪」
空にぽっかりと空いたゲートから、黒い大筒のような物がRi:Nの元に降りてくる。
「なんや……そんな大砲みたいなん用意しとったとか反則やろ。」
「この子は私の二番目に大切な武器なの〜♪ やんちゃな子だからあんまり使いたくなかったんだけどぉ〜、キミは特別だよぉ〜♪」
そう言いながらRi:Nの欠損した片手にはめ込まれる【バルバドス】。
明らかに彼女より大きなそれをなんなく持ち上げ、大口を開けた大砲がこちらに向けられた。
「……やるしかなさそうやな。 ええで! ワイの命が尽きるまでお前の相手したるわ!!」
覚悟を決め豈炎丸を握り直す司の瞳には、再度青い炎が燃え上がる。
そんな彼に呼応するかのように、同じく豈炎丸も青い炎を纏った。
「キミはほんとぉ〜に楽しいなぁ〜♪ それじゃ〜……いっくよ〜!!」
その瞬間、司の目の前には黄色い髪が揺れていた。
「なっ!?」
「あはははは♪ 遅い遅い♪」
瞬時に懐に入ってきたRi:Nの蹴りをどうにか刀で凌ぐ司。
しかし直ぐにその考えは甘かったと後悔させられた。
「あはは♪ そんなんじゃ〜この子の一撃で……死んじゃうよぉ〜♪」
その刹那、司は彼女の手に付いている【バルバドス】の存在に気付いた。
彼女の手に付いているそれは、まるで獲物を前にした生き物のように唸りだしていたのだ。
そして……
「ズドォーン♪」
ドゴォォォオン!!
至近距離での砲撃!
しかしその一撃は司を逸れて、後方で弾けた。
「あはははははは♪ ほんとに……今日は邪魔者ばっかりだねぇ〜♪ 」
再度【バルバドス】を構え直して、司の後方に銃口を向けるRi:N。
「なんや……?」
突如、呆然と立ち尽くしていた司の背後に気配を感じた。
そしてその存在はゆっくりと歩みを進めて近付いてくる。
「……キミ、この世界の人間じゃないね〜? 誰かなぁ〜?」
柔らかなか風が吹き抜ける。
そして透き通る様な少年の声が聞こえた。
『僕は……ただ守りに来ただけだ。』
ゆっくりと歩きながら刀を抜く様な音が聞こえる。
そして遂に、その存在は司の前に現れた。
「友との約束を……ただ守る為に!!」
その背丈には似合わない長い鞘を背負った銀髪の可愛らしい顔をした少年?が司を守る様に立ちはだかった。
月の明かりが少年?の銀髪をキラキラと光らせる。
「へぇ〜キミも歯車の一人って事かなぁ〜? もしもそうなら……ここで死んでもらわないとぉ〜♪」
「《オルトロス》……。あなた達の所業は許されない。僕は僕達を救ってくれた彼等を必ず守る!」
チラリと司を見る少年?は、その真っ直ぐな瞳を一瞬だけ柔らかくして再度Ri:Nに向き直った。
「……お前は……一体…?」
しかしその司の言葉は少年?の耳に届く前にかき消されてしまう。
屋上から凄まじい音が響き、赤い髪の男がグラウンドに落ちたのだ。
——なんや!?
まさかシンがやったんか!
屋上を見ると空を見つめる真夜の姿と、そのすぐ側に真琴ちゃんの姿が確認出来た。
「良かった……シンヤさん……。」
ぽつりと少年?が呟いたのが聞こえた。
「……あはははは♪ マスターが来たって事は……もう私は用無しって事かぁ〜♪」
「マスター? まさか今落ちたんはお前の所のリーダーかいな!」
「正解であって……不正解〜♪」
「どーゆうことや!! マスター言うんは……」
「残念〜♪ 時間切れみたいだねぇ〜♪ それじゃ……」
突如、彼女の手に付いていた【バルバドス】が光り輝く。
そして……
「また遊ぼうね♪」
ガオォォォン!
猛獣の唸る様な音が響く。
「ツカサさん!! 危ない!!」
とっさに少年?は刀を横に構え何かを唱えた。
すると二人の周りに風の障壁の様な物が生まれた。
——なんでワイの名前を?
そんな疑問が司の脳裏をよぎった。
凄まじい爆発が二人を襲う。
どうやら彼女と【バルバドス】は自爆したらしい。
跡形もなく吹き飛んだその場所には焼け焦げた鈴だけが残っていた。
「その……なんや。 おおきにな!」
「いえ! お礼なんて、とんでもないですよ!」
慌てた様に頬を染めて手をパタパタとする少年?。
しかし直ぐに真剣な表情に変わり空を見上げる。
「空を……。」
続いて空を見上げた司の眼にも、真夜の見た絶望的な光景が映っていた。
空の至る所に穴が開き、そこから無数のPhantomが降りてきていたのだ。
街の方からは、サイレンの音や悲鳴などが聞こえてくる。
「なんやねん……。 この世の終わりってやつかいな。」
「……まさしく、終焉を始めたのだと思います。」
隣の少年?は暗い表情を浮かべている。
「つーくん! 大丈夫??」
ふと気付くと真夜と真琴が仲良く手を繋いでこちらに駆け寄ってきているのが見えた。
「なんや……ワイの右手が真琴ちゃんと繋がりたいと唸っとる! これは……もうあかん!!」
「冗談言えるって事は、平気って事だな!」
右手を震えさせながらふざける司に、真夜の冷静な突っ込みが入って互いの安否確認が終わる。
「それで……そこの銀髪の子は?」
興味津々に真琴が司に問いかける。
「そうや! 自己紹介がまだだったな! ワイの名前は……」
「タチバナ ツカサさんですよね! 存じ上げております!」
嬉しそうな笑顔を浮かべて司を見つめる。
「他にも、ツカノ シンヤさんと、その妹君でもあるマコトさん。皆様しっかりとお名前は把握しております。」
「なんでしっとんねん! 初対面の筈やろ? ワイらのストーカーかなんかかいな!」
「すとかー? がなんなのかは解りませんが、遠い昔に皆様に会ったことがあるのです。」
そう言って少年?は片膝を付いて胸に手を当て騎士の様な格好で三人を見つめる。
「僕の……いえ…私の名はファリス。 ファリス・シュバリエと申します。 どうぞ気軽にファリスとお呼びください!」
ファリスと名乗った彼女はどうやら女性の様だ。
なんとなくだが……こんな顔立ちをして男なんてあり得るはずがないのだから!
あってたまるものか!
「遠い昔? 小さい頃の記憶が曖昧だから……ごめんな?」
「いえ……。 僕は、皆さんを覚えているのでそれだけで良いんです!」
そういったファリスの横顔が少し寂しそうだったのを司は知っていた。
「それで……これからどないするんや?」
現状、目的であった真琴の救出が成功したのでこのまま帰宅したいのだが……街があの状況ではそういうわけにはいかないらしい。
「そりゃ……街があんなだし、なんとかしないとだろ?」
「あの数やで? ワイ達がいくら優秀言うてもさすがにしんどいやろ!」
「つーくんは街の人達を見捨てるの? そんな冷たい人だなんて思わなかった……。」
「まってぇな! 真琴ちゃんが望むんやったらワイ一人で全部片付けてきたるで!!」
「あの……。」
「よし! なら司! 後は任せた! いってこーい!!」
「おーし! 行ったるでー! ……ってちょっと待たんかーい!! このまま行ったらワイの死亡フラグ全快フルスロットルやろ!」
「皆さん! 聞いてください!!」
顔を真っ赤にして大声を出すファリス。
しかしいきなり全員の注目に恥ずかしくなったのかおずおずと後ろに下がっていく。
「おにぃ達! ファリスちゃんが可愛そうでしょ! ふざけてないで話しを聞きなさい!」
「『俺らのせいかよ!!』」
——言い出しっぺは真琴さん。
あなたですよ?
「それで? 何が話したいの?」
真琴は後ろに下がっていったファリスの手を引いて話しを戻す。
「いえ。 あの……皆さんにはこれから僕と一緒に異世界に行っていただきます……。」
「『え?』」
ファリスの唐突な申し出に、三人同時に同じ反応をしてしまった。
「ちょっと待ってくれ! いきなり過ぎるだろ!」
「ファリスちゃん? しっかり説明してくれないと困るよ?」
「あかんって! ワイ、家の鍵閉め忘れてるねん! 戻らんと秘蔵コレクションが……!」
最後の司の発言はどうでもいい気がするが……。
そんな慌てる三人を他所に、ファリスは満面の笑みを浮かべて足元を指差す。
「もう転移魔法は始まってますので!」
「『……。』」
思わず互いの顔を見合わせる三人。
そして……
「こちらの世界の事はあちらでお話しさせて頂きます! それでは! 異世界での束の間をお楽しみ下さい! 転移……開始!!」
まばゆい光に飲み込まれる四人。
「ふざけんなぁぁぁぁぁあああ!!!」
グラウンドには真夜の叫び声がこだましていた。
四人が居なくなったその場所に一匹の白い蝶が辺りをひらひらと舞い、そしてRi:Nの付けていた鈴に留まる。
何かの気配に驚いた蝶は、再度鈴から離れて辺りを飛び回る。
その存在は焦げて汚れた鈴を拾い、そして当然の様に耳元の装置に結び付けた。
そして脚に付けたホルスターから銃を抜き取り、辺りを飛び回る白い蝶目掛けて……
『バァーン♪』
異世界のツカノマ
第1章 最終話 後編
かなり遅くなりましたが無事に更新出来ました。
さてさていよいよ異世界での物語の始まりです!
突如現れたファリス。
そしてオルトロスとはなんなのか!
まだまだ謎は多いですが、これからの物語で解き明かされていくので是非読んで頂けると嬉しいです!
第1章が終わったので次回は番外編を書きたいと思ってます。
そちらももし良ければよろしくお願い致します!
それでは
異世界のツカノマ
第2章でまたお会いしましょう!




