14話 【純粋な闇】
暗闇が支配する校舎の屋上。
月明かりが照らすその場所で踊る一つの影。
黄色い髪の少女——Ri:Nは月夜の屋上で、笑顔を浮かべながらくるくると回る。
しかしその笑顔は喜びの物ではなく、何かを期待しているような表情だった。
「ねぇ♪ 私は一体何の為に産まれてきたの?」
空に浮かぶ月に問いかけるRi:N。
しかし返事が返ってくるはずはなく、ただただ彼女は一方的に問いかけ続ける。
「あははは♪ こんなに沢山の人を殺してきたのに、あなたはいつも答えてくれないんだね♪ 私はいつになったら……死ねるの?」
問いかけ続ける彼女は、ただただ笑う。
その瞳の奥に宿した暗闇を月明かりに照らしながら。
彼女は待っている。
もう間もなく訪れる二人の存在を。
そして動き始める物語の開幕を。
ピタリと動きを止めたRi:N。
静かな時間だけが過ぎていく。
ゆっくりと校門の方角を見つめる彼女はボソリと呟く。
「待ってましたよぉ〜♪ 私の愛おしい瞳君と……そのお友達〜♪」
彼女の瞳に映る二人の青年。
校門を走り抜けていく二つの存在は、彼女をどれほど喜ばせたのだろうか。
それだけ彼女の表情は嬉しそうな笑みを浮かべていた。
「私を殺せるのかなぁ〜♪ さぁ、はやくおいで〜♪ さもないと……この子は死んじゃうからぁ〜♪」
屋上のベンチには、今もまだ気を失っている真琴の姿があった。
そんな彼女に銃口を向けるRi:N。
そして引き金を……
ズバァァン!!
その銃弾は真琴には当たらず、ベンチの端に停まっていた白い蝶を撃ち抜く。
銃声に気付いた二人は、屋上に立つ一つの存在に気付く。
そして、瞳に選ばれた片方の青年——真夜はRi:Nを見て叫んだ。
「よくも俺の大切な妹を奪いやがったな……! もう二度と……お前に誰も殺させたりしない!」
その声は怒りに震え、震える拳を握り締める。
「今度はお前が……奪われる番だ!!」
そう言ってRi:Nに向けて拳を突き出す真夜。
隣に立つパーカーのフードを被った青年——司は、刀袋から刀を取り出し、鞘から青く燃えるように輝く刀身を抜いた。
「あん時の借り……きっちり返したるで! さっさと降りてこんかい!」
真夜同様、Ri:Nに向けて中指を突き立てる司。
「あははははは♪ 君たちは本当に面白いなぁ〜♪ 殺しちゃうのが勿体無いくらいだよ〜♪ でもぉ〜……ここで死んで?」
その言葉を合図に、Ri:Nは屋上から飛び降りた。
4階建ての校舎、普通に落ちれば即死級の高さから彼女は華麗に飛び、音もなく綺麗に真夜達の前に着地してみせた。
そして両脚に付けたホルスターから、愛用の二丁銃【HelL・ブロウ】を引き抜く。
「やっぱり化けもんやで……この女。」
真夜の横で司が刀を構えた。
同様に真夜も閉じていた左眼を開く。
「さあ……」
真夜の左眼が赤く煌めく。
「ほな……」
司の刀が青く燃え出す。
そして二人の声が重なる。
「『始めようか!』」
先に動いたのは司だった。
その動きはPhantomとの戦いで見せた時よりも速く、そして鋭い。
刀に纏った青い炎が残り火となって舞い散る。
「まずは……一閃や!!」
彼女の身体を真っ二つにする勢いで振られた縦一閃。
しかし前回同様、片手に持った銃でガードするRi:N。
金属同士がぶつかり合う音が響く。
「あはは♪ 残念! まだまだこんなのじゃ私には傷一つ付けられないよぉ〜♪ もう一人の力も必要なんじゃないかなぁ〜?」
チラリと真夜を見るRi:N。
しかし、真夜はその場から一歩も動こうとはしない。
「……せやろうな。 ワイ一人じゃキツイかもしれん。」
再度横から振り抜いた一閃。
しかしその一撃も軽々と止められてしまう。
互いに一歩も引かないまま、ギリギリと音を立て続ける金属音。
しかし司はそんな状況下で下を向いていた。
「……その余裕は何かなぁ〜?」
「余裕ちゃうで。 せやけどお前さん……なんで豈炎丸が燃えとるのか知っとるか?」
不敵に笑う司。
そんな表情に疑問を抱いた。
確実に前回の時とは様子が違う。
「どうゆう……熱っ!?」
突如、一撃を食い止めた手に熱さを感じるRi:N。
司の刀を纏っていた青い炎がRi:Nの持っていた銃に纏わりつく。
そしてその炎はRi:Nの手に燃え移っていた。
「豈炎丸は元から切り裂く刀やない。 この刀は……切った相手を消し炭にする刀なんやで!」
司の言葉に反応したかのように、豈炎丸から溢れ続ける青い炎は更に勢いを増した。
「くっ!?」
思わず飛び退くRi:N。
しかし腕に纏わりついた炎は相変わらず燃え続ける。
「へぇ〜……君の事を過小評価し過ぎてたみたい。」
「そらどうも! ワイを……橘流を舐めんなや! はよ火を消さんと永遠に燃え続けるでー!」
後方で二人の戦いを見ていた真夜は、友人の……司の強さに驚いていた。
動き出した瞬間の速さ、そしてあの圧倒的な力に。
それだけではない。
戦闘が始まって数分で、あの化け物じみた彼女に傷を負わせたのだ。
「シン! こいつはワイ一人で充分や! お前は真琴ちゃんを助けに行ってこい!」
「んなこと言われなくても解ってるわ! 司! 死ぬなよ!」
「当たり前や。 せやけど……おおきにな!」
互いに顔を合わせて頷きあう真夜と司。
そした校舎の方角へと走り出す真夜。
グラウンドには司とRi:N、二人だけが取り残された。
「意外とあっさり行かせるんやな! てっきり邪魔すると思っとったで!」
「…………。」
しかしその言葉に返答はない。
彼女はただ、今も燃え続けている片手を見つめているのみだった。
「なんや? 不気味な奴やなー! どないするつもりや?」
ゆっくりと無傷の手に持った銃を、燃えている腕に向けるRi:N。
そしてその腕を……
ズバァァン!
彼女はなんの躊躇いもなく自分の腕を吹き飛ばした。
「なっ!?」
「……あはは。」
吹き飛ばされた腕からは大量の血が吹き出している。
Ri:Nはその傷口を……舐めた。
すると腕からの出血は止まり、そしてその傷口は少しづつ塞がっていく。
「なんなんや……お前。」
その姿に呆然とする司。
同時に彼女の表情に寒気が走った。
「あははははは♪ 私にこんな傷をつけたのは《マスター》を除いて君が初めてだよぉ〜♪」
彼女の表情は、先程までの人間らしさなんて微塵の欠片も残らないくらい狂気に満ちた笑顔だったのだ。
そして彼女の青い瞳の奥に広がったドス黒い闇が司を映す。
「ああ……私の腕をこんなことにしたんだもん。 君は……絶対生かしておかないよぉ〜!!」
その声に含んだ殺気は凄まじく、思わず司は一歩引いてしまった。
その判断が正しかったかは解らない。
ただ、彼女が放つ殺気から逃れたいと司の脳が身体を動かした。
しかし……
「遅いよぉ〜♪」
「んなっ!?」
いつの間にか司の目の前に立つRi:N。
そして残された片手に持つ銃を司の胴体目掛けて撃ち放つ。
ドパァンッ!!
とっさに回避しようと動く。
しかし、その行動は数秒遅れてしまい、司の脇腹に命中する。
「ぐぁっ!!」
そしてそのまま次弾を今度は彼の膝目掛けて放った。
あまりにも速すぎる攻撃に直撃を受けてしまう司。
「あはははは♪ 綺麗な血だねぇ〜♪」
崩れそうになりながらどうにか態勢を立て直し、反撃を試みようと刀を振り切る。
「あぶなぁ〜い♪ もう同じ手は食わないからねぇ〜♪」
司の一撃をバックステップで避け、距離を置いたRi:N。
「はぁ……はぁ……っ。」
膝と脇腹から激痛が走る。
出血はそこまで酷くないようだが、膝の怪我は行動を制限させられる。
「さぁ〜て……そろそろ私のとっておきを見せてあげるねぇ〜?」
そう言った彼女は片手に持っていた銃をその場に投げ捨て、そして夜空に向けて手をかざす。
「転送〜♪ さぁ……おいで? 【バルバドス】!」
彼女の声が響く。
そして空に大きなゲートが生まれた。
「あかんなぁ……。 やっぱこいつは化けもんやで。」
一方、校舎内に侵入した真夜は真琴の居る屋上目掛けて全力で階段を息を切らせながら走っていた。
——なんだってこの学校は4階建てなんだよ!
必死に最上階を目指す真夜。
しかし、屋上に近付くにつれて左眼が疼くのがわかった。
まるであのPhantomと出会う前の時のような……。
——嫌な予感しかしねぇぞ!
どうか無事で居てくれ! 真琴!!
全力疾走のまま、目の前に見えた屋上へ繋がるドアをこじ開ける。
「はぁはぁ……。」
辺りを見回す。
しかし周りには誰も居なく、真琴の姿も見当たらない。
「真琴ー! どこだぁー!」
息を整えた真夜は大声で妹の名前を叫ぶ。
しかし何処からも反応はない。
——くそっ!
ここに居ると思ったが、違ったか!
一刻も早く真琴を見つけ出したかった。
真琴の無事な姿を……この眼でしっかり確認したかったのだ。
「真琴ー!」
真夜の叫び声が夜の屋上に響く。
すると、背後から物音がした。
「真琴……っ!?」
その直後、真夜の視界は反転していた。
——あ?
正確には、真夜の身体は吹き飛ばされていた。
そしてそのまま屋上のドアに激突する。
「かはっ!」
凄まじい勢いでの激突に、一瞬呼吸がつまる。
そして同時に腹部に激しい痛みが襲う。
歪む視界の中、先程まで自分が立っていた場所に別の存在が居る事に気付いた。
その男は片脚を伸ばしたまま、ゆっくりと上げていた脚を地に戻す。
——くっ! なんなんだ! アイツは一体!!
どうやら、その謎の男に挨拶代わりの蹴りを貰ったらしい。
吹き飛ばされた真夜は、痛む腹部を摩りながらゆっくりと呼吸を整えその男を睨む。
赤い髪、身体を包む真っ黒い服装、そしてなによりあの左眼に付けた不気味な眼帯。
「いきなり蹴りとは……随分な挨拶だな。」
「…………。」
しかし男は無言のまま、ゆっくりと真夜の左眼を見つめていた。
「お前が敵っていうのと、異世界の存在ってのはここまでの経緯で解る。 なんのつもりだ?」
「……貴様に」
「あ?」
「……貴様ごときに……その眼は…………荷が重すぎる。」
「眼?またこの眼かよ! どんだけお前らはこの俺の眼に興味深々なんだよ!」
「…………。」
男はそれっきり喋らなくなった。
そしてゆっくりと片腕をあげ、真夜に向けて挑発する。
今日は本当についていなかった。
Phantomとの激闘、変な女にファーストキスを奪われ、そして妹までもが誘拐された。
挙げ句の果てには、厨二病全開な怪しい男に挨拶代わりの蹴りと挑発を受けたのだから。
とうとうここまで溜まってきた真夜のイライラが爆発する。
「……さすがに優しい真夜君でも怒るぞ?」
数秒の出来事。
真夜の左眼が赤くなり、その能力で運動能力の向上。
瞬時に謎の男の懐に入った真夜の身体は……再度ドアに叩きつけられていたのだ。
「ぐっ……!!」
あまりにも速すぎる男の攻撃。
真夜の眼をもってしても見えなかった。
この男は……次元が違いすぎる。
「……貴様の力は……こんなものか?」
ドバァァァン!!
グラウンドからは突如大きな爆発音が鳴り響く。
男はゆっくりと真夜とは別の方向に歩き出した。
そして……そこには真琴の姿が。
——さっきまであそこには何も無かったのに!?
真夜の言う通り、彼が到着した時には真琴が横たわるベンチそのものが無かった。
しかし、今はどこからともなくそこにあるのだ。
男はボソリと呟く。
「…………Innocent」
「なっ!?」
その言葉に真夜は驚愕した。
真夜にとっては慣れ親しんだ言葉だったからだ。
だって、それは真夜の左眼の力の筈なのだから。
男はゆっくりと真琴に近付く。
そしていつの間にか右手に持っていた黒いナイフで真琴の首元をなぞる。
「おい……!」
ツーッと真琴の白い首から赤い血が流れる。
「やめろ……!」
しかし男はそんな真夜の言葉を聞くはずもない。
そして今度は真琴の命を絶とうと、その手に持ったナイフを振りかざす。
「っざけんじゃねぇぇえ!!」
その瞬間、真夜の左眼が青く煌めいた。
そして叫ぶ。
「Innocentォォォオ!!!」
直後、真琴に突き刺そうとしていたナイフは真夜の肩に突き刺さる。
Innocentの能力、男の眼にはきっと真琴を斬りつけたように見えてる筈だ。
しかしそれだけで真夜は止まらなかった。
「ぶっ飛べぇぇえ! Destructive!!」
瞬時に真夜の左眼は色を変える。
凄まじい一撃を謎の男の顔目掛けて叩きつけた。
ドゴォォオ!!
男は屋上の外に放り出される。
そしてその勢いのまま、グラウンドに叩きつけられた。
「真琴に……俺の妹に……汚ねぇ手で触んじゃねえ!!」
肩で息をする真夜の足元には、間一髪救われた真琴の姿と……Ri:Nに撃たれた筈の白い蝶の姿があった。
さあ!
とうとう始まりました!
第1章 最終話 前編 【純粋な闇】
前話で出てきた赤い髪の男も登場しました。
果たしてこの男とRi:Nに2人は打ち勝つことが出来るのか!
今回はいつもより長めに書いてあります。
なのでゆっくり読んで頂けると嬉しいです。
そして次回はとうとう後編になります。
果たして真夜達の運命はいかに!
次回もお楽しみ!




