13話 【過ぎ去った夢】
※真琴視点です。
頭が痛い。
何処かでぶつけたのか、ずっと頭痛が止まない。
『おにぃ! お父さんとお母さんが…!』
どこからか声がした。
そっと閉じていた眼を開ける、するとそこには横転した車が一台。
——ここは何処?
辺りを見回すと何処かの山の中の様だった。
『おにぃ……お願いだから眼を覚ましてぇ。』
幼い少女の涙に混じった声がする。
——あれは……小さい時の私?
そっか……これは事故の時の夢ね。
必死に兄を起こそうと声を掛け続けている。
後部座席に乗っていた真夜と真琴は事故が起きた直後、何故かは解らないが車外に居た。
両親の姿は見当たらない。
車内に残されていると思って探したのだが何処にもいないのだ。
『おにぃ……お願いだからぁ……私を一人にしないでぇ……。』
尚も息のない真夜を、大粒の涙を零しながら揺する真琴。
——近所のデパートに皆で買い物に行った帰り道。
突然の光に包まれて……気付いたらこんな山奥だったんだよね。
『誰かぁ……おにぃを助けてぇー!』
しかし周りには人も、動物さえも居ない。
聞こえるのは少女の啜り泣く声のみ。
出来ることなら真琴は、その場で泣いている幼い自分を抱きしめたかった。
しかしこれは夢だ。
もう【過去】の出来事でしかない。
——確かこの後……。
『おにぃ……。』
途方にくれる少女。
しかしその時、近くの茂みが揺れる。
『きゃぁ! おにぃ……怖いよぉ!』
驚いた真琴は思わず眼を閉じ、今もまだ眼を覚まさない兄に縋り付く。
——ここで……私はあの人に。
茂みから何かが真琴に向かって近付いてくるのが解る。
そしてその存在は真琴の背後に歩いてきた。
『嫌だよぉー! おにぃ……いつもみたいにまことを助けてよぉー!』
いつも真琴に何かあると、直ぐに駆け付けてくれた真夜。
何処にいても颯爽と現れて、真琴を助けてくれるヒーローだった兄。
しかしその兄は今、息をしていない。
もう……死んでいるのだ。
まだ暖かな兄の手を握りしめる真琴。
『真琴様。 恐れなくて大丈夫ですよ。』
聞こえてきたのは優しい女性の声。
恐る恐る背後に立つ存在を確認するべく、真琴は振り返った。
『おねぇちゃん……誰ですか?』
そこには、絵本から出てきた様な綺麗なドレスを着たお姫様が真琴を見つめ優しく微笑んでいた。
『おねぇちゃん……お姫様?』
『私の名前はクレア・ヴァルへイン。 ヴァルヘインという国をまとめている一国の姫です。』
そう挨拶するクレアは、ドレスのスカートを両手で摘み優雅に挨拶をする。
その姿は幼い真琴にはとても眩しくて、そして同時に希望にも見えた。
『お姫様……お願いです! おにぃを……まことのヒーローを助けてください!』
必死になって訴えかける真琴。
そんな真琴の頭を優しく撫でるクレアの手。
『もちろんです。 その為に私は……ここに来たのですから。』
真琴の視線に合わせて屈んだクレアは、優しい笑顔で息のない真夜を見つめる。
『それじゃ……おにぃは助かるの?』
再び溢れてくる涙。
しかしその涙はクレアの指によって拭われた。
『まだ泣くには早いですよ。 真夜様は必ず助かります。 だからその為に……真琴様の力をお借りしてもよろしいでしょうか?』
『なんでもします! だから……おにぃを助けてぇ。』
真夜が真琴を大切に思っている様に、真琴にとっても真夜は大切な存在だった。
真夜が生き返る。その為だったら……どんな過酷な事にも耐えれると。
『解りました。 ならば私の手を握っていてください。 なにがあっても決して離しては駄目ですよ?』
『解った! まこと頑張る!』
そっとクレアの手を握る真琴。
その手はとても暖かくて、なんだか優しさが身体の中に入ってくる様な感覚だった。
そんな真琴の姿を見て再度優しく微笑むクレア。
『それではいきます。 』
【汝、我の問いかけに答えよ。 我は求める、癒しの導きを。 かの果てに留まりし光の女神の加護をこの少女の魂に。】
クレアの詠唱が唱え終わると同時に、二人は温かな光に包み込まれる。
そしてその光は、次第に真琴に集い始める。
何か優しい物が真琴の中に流れ込んでいくのが解った。
そして真琴の頭の中に無数の言葉が流れていく。
全てを癒す力。
【ホーリーレイン】
『……これで真琴様の中には光の女神の加護が宿りました。この力を使って真夜様を助けてあげてください。 』
どうやらこの力はクレアには相当の負荷がかかるらしい。
少し疲れた顔で微笑んでいるのが解る。
『……やってみる! お姫様ありがとう!』
真琴は急いで真夜の側に駆け寄ると、その手を握り、先程頭の中に入ってきた言葉を唱えた。
『ホーリーレイン!』
しかし何も起きない。
もしかすると失敗したのかもしれない。
不安げな顔でクレアに振り返る真琴。
しかしクレアは優しい笑顔のまま真夜と真琴を見つめていた。
『お姫様……まこと失敗しちゃったのかなぁ?』
だがその時、真夜の全身を光が包み込んだ。
そしてその光は真夜の中に静かに溶けていく。
『おにぃ……?』
不安げな顔で真夜を揺する真琴。
すると、先程まで動かなかった真夜の指が微かに動いたのが、繋がれた真琴の手に伝わってきたのだ。
そしてゆっくりと呼吸を始める真夜。
『おにぃっ! よかったぁ!!』
息を吹き返した兄に再び涙を流してしがみつく真琴。
しかしその涙は先程までの悲しい涙ではなかった。
『これで……未来は変わりました。 後は……』
そう言ってクレアも真夜の側に寄ると、真夜の左眼に手を当て何かを唱えている。
詠唱が続くにつれ、クレアの指先からは紫色の光が放たれ、その光は真夜の左眼に流れ込んでいく。
『お姫様……? 何をしてるの?』
『これは真夜様を護る……おまじないみたいな物です。』
そう言ったクレアの表情が少し暗くなっていたのを、まだ幼い真琴は気付かなかった。
『これで……真夜様は……。』
そっと真夜の耳元で何かを囁くクレア。
だが突如、何かに気付いたのか先程までの優しい笑顔を真剣な表情に変え、木々の奥に視線を向けた。
『誰です! そこから出てきなさい!』
ガサガサ
茂みが動く。
驚いた真琴はクレアの後ろに隠れた。
しかし何故か急に眠気が襲う。
そしてそのまま真琴は……。
『ごめんなさい。 でもここからは真夜様と真琴様には……。 真琴様……どうか真夜様を支えてあげてください…………。 またいつか会える事を……。』
そこまでで真琴の意識は途切れていた。
——この後、起きたら病院だったのよね。
あの時のお姫様は……一体誰だったのかしら。
再び真琴の意識は暗い闇の中に沈んでいく。
そろそろ眼を覚まさなければ。
いつまでも過ぎ去った夢を見ていても悲しくなるだけだ。
——確か……私はあの黄色い髪の嫌な女に……。
おにぃがきっと……昔みたいに助けに来てくれるよね! だから私は……!
あの時のように、大切な兄を支える為に!
そして眼を開けた真琴が見たものは。
今回、真夜と真琴の過去のお話を入れさせて頂きました。
両親の行方はわからないままですが、そのお話はその内書きたいとおもいます!
番外編とかも書いていこうと思うのでそちらもお楽しみに。
Twitterにて今まで登場したキャラクターの設定などもこれから載せていこうと思っているのでもし良ければ、そちらも見て頂けると嬉しいです!
さて!
最後に真琴の視界の先には何が映ったのか!
次回、第1章、最終話前編。
お楽しみに!




