8話 【鈍感な力不足】
司の時間稼ぎ開始から数時間が経っている。
そんな中、真夜は夢を見ていた。
今朝見た夢と同じ風景。
見た事のない建物や物が溢れた世界。
もしかすると…これが異世界なんじゃないかと思う。
しかし、今真夜が見ている夢は今朝のような賑やかな村の風景ではない。
噴水のある広場で二人の少女が戦っていたのだ。
黄色の髪をした少女と…
夢に出てきた銀髪の少女だ。
黄色い髪の少女は、両手に持ったリボルバーの様な形状の二丁銃で銀髪の少女の頭部を的確に目掛けて撃つ。
間違いなく…銀髪の少女を殺すつもりの射撃だ。
対して、銀髪の少女は放たれた銃弾を、その身体には不釣り合いな長い刀で真っ二つに切り裂いた。
互いに一歩も引かない攻防戦が繰り広げられている。
この少女二人はどちらも恐ろしいほどに強い。
時折、銀髪の少女は背後を気にかけているが…。
——何かを…守りながら戦っているのか?
彼女の視線を追う。
そこには…負傷した肩から血を流す不安げな表情を浮かべる**が居た。
——ん? **!!
名前が…呼べない?
何度もその名を呼んだ。
しかし、どんなに叫んでもその名を口にも頭にも表せない。
不意に黄色い髪の少女が笑う。
そして…真夜が傍観しているこの場所に銃口を向けてきたのだ。
ズバァァン!!
銃声を聞きながら…真夜の意識は深い闇へと落ちていく。
——どうして**があんな場所に…居た…んだ…。
消えゆく意識の中、真夜は彼女の事ばかり考えていた。
そしてその意識はプツリと途絶える。
『…に…!』
何処からか声が聞こえる。
俺は先程撃たれて死んだ筈だ。
このまま休ませてほしい。
『おに…!!』
鬼…?
なんだよ。
節分はまだ当分先だろ?
だからこのまま…。
『お願いだから…眼を覚まして!』
そんな泣きそうな声を出すなよ…。
しかし何故だろう?
撃たれた筈なのにどこも痛くない。
そんな事より、今はただ深い眠りにつきたい…。
「…むにゃむにゃ。 あと5分だけ…」
「へぇー…。 ずいぶんと元気な寝言ね」
何処からか指を鳴らす音が聞こえる。
あれ?
この声…何処かで。
——あ。 まずい!!
「おにぃ! いい加減に眼を覚ましなさい!!」
突如、腹部に起きた激痛で眠っていた意識が引き戻される。
——いっ…。
「いってえぇぇー!!」
完全に意識が覚醒し、閉じていた瞼をあけると明るい風景が広がっていく。
「ん? …ここは?」
そこは見慣れない部屋の天井だった。
消毒液の匂いが微かに香る。
そして自分が今、ベッドの上に居るのが解った。
少し首を横に動かして辺りを見回すと、学校の保健室の様な光景がある。
しかし真夜の通う学校の保健室ではない。
——ここは…?
耳を澄ませると電車の音が聞こえる。
どうやらここは…何処かの駅の医務室のようだ。
「やっと起きた! どれだけ寝坊助さんなのよ!」
怒った声の主は、ベッドの真横に腰掛けこちらを鬼の形相で睨んでいた。
「…真琴?」
「…真琴? じゃないわよ!! 私が居たらおかしい?」
可愛らしく頬を膨らませ、怒ってますアピールをする妹。
しかし、今はまだ学校に居る時間のはずなんだが…。
「…学校は?」
「おにぃが…事故に巻き込まれたって連絡があって…早退してきたの!」
「そっか…。 心配かけて…ごめんな?」
「ごめんな…じゃないわよっ! 私がっ…どれだけ心配したか…っ」
真琴の眼から涙が零れていく。
物凄く心配をかけてしまったんだろう。
真琴が泣いている姿を…久し振り見た気がする。
「もう大丈夫だから…だから泣かないでくれ。 可愛い顔が台無しだぞ」
ゆっくりと起き上がり、泣いている真琴の頭を優しく撫でた。
もう二度と真琴に悲しい思いはさせないと誓ったのに…なんて情けないのだろう。
ガチャッ!
扉が開く音が聞こえる。
「あらあら…お邪魔だったかしら?」
「あ〜! しんくんがまこちゃんを泣かせてる〜!」
「うぅっ…な、泣いてなんて…居ないわよっ…ぐすっ」
そう言って真琴は顔を赤らめてそっぽを向いてしまう。
——真琴さん? …泣かせた俺が言うのもなんだが…さすがに無理があるぜ?
必死で涙を拭う真琴。
いつまでも見ていたら怒られそうなので、先程声がした方へ視線を移す。
開かれた扉から顔を出していたのは真夜と司が助けたあの親子だった。
「良かった…。 二人とも無事だったんですね」
「ええ! 貴方達に助けて貰ったおかげで私達はこの通り無事よ!」
「お母さんもわたしも元気いっぱい!」
二人は明るい笑顔を浮かべ、そして両手でピースをしてみせる。
母親の腕や脚には包帯が巻かれていたが…それほど重症という訳ではなさそうだ。
——本当に…良かった。
「それはそうと…真夜さんのお加減はどうですか?」
「体調は良好です。ただ…腕が折れて…って、あれっ?」
感覚のなかったはずの腕が…動く!?
確か…あの時のPhantomの攻撃で左腕が折れた気がしたのだが…。
その腕に痛みは無い。
むしろ、すこぶる調子が良いくらいだ!
「…どうかしましたか?」
不思議そうな顔をする母親。
何故か座っている真琴は顔を伏せていたが…。
「いや…。 大丈夫です!」
そう言って真夜も両手でピースをしてみせる。
それに同調して娘もピースで応えてくれた。
先程から顔を伏せている真琴が気になるが…きっと泣き顔を見られたくないのだろう。
そんな所がまた可愛いのだが。
——さすがは我が妹だ!!
こんな姿、司が見たら黙ってないだろうなー。
そういえば、ここに居るはずの司の気配がない。
普段なら真っ先にちょっかいをかけてくるというのに。
「あれ? そういえば…俺といた関西弁の奴は?」
「あの子は…」
そう呟いて俯向く母親。
娘は何故か瞳をうるうるとさせて悲しそうな表情を浮かべている。
「…え? 冗談ですよね? あ! 解ったぞ! 司に頼まれてドッキリしようとしてますね! まったく! 良い加減出てこいよ!」
しかし、いくら待っても司は現れない。
「冗談…ですよね? こんなの…」
「おにぃ…。 つーくんは…おにぃ達を逃がすために電車の中に残ったらしいの」
親子から事情を聞いていた真琴が震える声で説明してくれる。
「おにぃが気を失ってる間に…つーくんは…」
「司は…死んだのか…?」
「……解らないの。 警察の調べだと…車内には誰一人として居なかったんだって」
——なら…司はやっぱり。
ギリっと奥歯を噛み締めて怒りを抑えつける。
俺が不甲斐ないばかりに司は…。
「ただ…おにぃ達が居た車内だけ不自然だったそうよ」
「…不自然?」
「車内の中一面…銃痕と切り傷だらけだったらしいの」
——切り傷は多分…司だ。
しかし…銃痕?
あの場で銃を使っていた人物など居ただろうか?
先程から黙っていた母親が口を開く。
「私達が、真夜さんを連れて逃げてる最中…電車から銃声が聞こえたのは覚えてます。」
「…となると、警察の応援が間に合って司は何処かの病院に居る可能性が高いって事か」
「つかさくんは…すーぱーつよくてかっくいいつかさくんは約束したもん!」
涙を堪えている娘は、震えながらスカートの端を掴んで真夜を見ていた。
——スーパー強くてかっこいい司君…か。
あいつらしいな。
真夜の口元に思わず笑みがこぼれた。
こんな所でウジウジしていても始まらない。
きっと司は生きているんだと…そう自分自身に言い聞かせる。
「…おにぃ?」
笑顔をこぼす真夜に、真琴は不思議そうな視線を向ける。
「あいつは…司は……簡単には死なない!」
「そうだよ! つかさくんはかならず来るって言ってたもん!」
娘も真夜の言葉を聞いて笑顔を浮かべる。
シンミリとしていた空間に一筋の希望の光が差す。
それは些細な事なのかもしれない。
だけど、きっとこの希望は未来に繋がるのだから。
——だけど…なんで俺の左腕は動いてるんだ?
その事だけは未だに理解が出来ない。
間違いなくあの時、俺の左腕は深傷を負ったはずなのに。
ふと、自分の左腕に視線を向ける。
そこには数滴の水が付いていた。
——これは…涙?
真夜の左腕が治った原因は解らないまま、娘の可愛らしい腹の虫が鳴いたのと「お腹減ったー!」という言葉で室内は笑いに包まれていく。
しかし…
真夜達に近付く不気味な鈴の音は、ゆっくりとだが確実に彼らの側にまで来ていたのだった。
連日更新を逃してしまいましたが
どうにか続きが完成しました!!
少しずつ手直しをしていくつもりではありますが今回はこんな感じです。
真夜の夢でみる風景は
物語の進展に必要な物になっていくので覚えておいて頂けると助かります。
というわけで!
次回はとうとう真夜とRi:Nの初対面!
気になる司の行方は!
物語が大きく動き出す予定です!
それでは…次回もお楽しみに!
#2017/06/09 改行部分の変更 台詞の追加をしました。




