Pistol
目の前に一丁のピストルがある。弾倉がレンコンのような形をした、所謂リボルバーと言われるやつだ。もちろん日本では民間人にとってなじみのあるものでは無いが、この際、その点は気にすることではない。さて、これで何ができるだろうか?
ピストルと言えば真っ先に思い浮かぶのは犯罪行為だ。もっとも人によりけりだろうが…。ともかく話を戻そう。
どうだろうか?マスクとサングラス姿で、どこか、お店か銀行にでも行くんだ。そして、ポケットからさりげなくピストルを取出して従業員に突き付ける。静かな口調で、こう言うんだ。
「あるだけの金をよこせ!」
いや、待てよ。最近じゃ、どこでもすぐに押せる警報機が有るだろうし、逃げるときにカラーボールを投げつけられるかもしれない。はたまた、金を全部小銭なんかで用意されたら、腰を痛めるどころか一銭も持って逃げれないかもしれないな。仮に、仮にだが大金を手に入れて、現場から上手く逃げられたとしよう。そのあとが問題だな。のうのうと逃げ延びるなんて簡単ではないだろう。事件として瞬く間にニュースになるだろうし、身元が割れたらすぐさま手配されてしまうだろう。それに銀行だったら紙幣の番号も控えているだろうから、使うのも容易ではないな。
それでは別なことを考えよう。そうだ、職場の威張り腐っている上司や嫌味な同僚をバッタバッタと打ち倒してやろうか。驚愕の表情を浮かべる彼らの顔面に銃弾を撃ち込んでやるのだ!いや、だがな、そうなれば殺人罪で一生ブタ箱にぶち込まれることになるわけだ。当然の話だがな。だが、そこまでする価値が有るかと言われれば、まだ仕事を辞める方がましだな。
う~む。それならば悪事をして、のうのうと生きている連中を倒して行くというのはどうだろうか。そう、まさしく正義の私刑執行人だ。これなら罪に問われても世間では英雄だ。だが、ちょっと待てよ。そういうやつらをどう探せばいいのだろか。まさか、募集を掛けるわけにもいくまい。それにそういう連中は権力を盾にして、こちらの目論見を事前に取り押さえてしまうかもしれない。うむこれも問題だな。
いっそのこと、これで自殺でもしてしまうか。こんな、くだらないことばかり考えるくらいなら死んでしまった方がましだ。では、どうやろうか?こめかみに弾を撃ち込もうか。待った。確か、この場合条件によっては弾が逸れて大怪我するだけで死なないことが有るらしい。それでは口に咥えて撃つか。だが、その方法では、たいそう部屋が汚れてしまうらしいがな。
おっと、ここで気がついたのだが、そもそもここにあるのはピストル本体だけだ。銃弾が一発もない。これでは鈍器か物置にしかならないな。
「残念だ…」