第7話 女神か罠か
「お前はッ……王の側近のッ!」
「何故ここにいるんですか!」
二人して詰め寄っても、エリスは動じる気配を見せない。
それどころか、何となく俺達を見下してないかこいつ?俺より背低いのに。
「さっき言っただろう。私の仕える王が君たちに与えた試練が難しいものだった。だから私が助っ人として参上したと。」
「王が差し向けてきたのか?」
「いや、私個人での判断だ。王には休暇をとると言ってある。少し体も動かしたかった事だしな。」
そう言って軽いストレッチを始めた彼女を俺達は疑念の眼でじっと睨んだ。
こいつは何がしたいんだ?本当に助けたいだけか?気まぐれか?裏があるのか?
疑問は絶えない。が、今まさに窮地に陥っていた俺達にとっては同時に希望の女神でもある。
罠実際問題もう俺達詰んじゃってるし、どうにせよこいつに頼るしかもう道は残されていないのだ。
藁にもすがるというヤツである。
「ちなみにだが、お前のレベルは一体いくつなんだ?」
「フッ、驚くなかれ。」
不敵な笑みを浮かべた賢者様は、サッと懐に手を突っ込み、彼女のジョブカードを取り出した。
すると、俺はある事に気付く。
「お前のカード、金色じゃないか!」
「ふふ、ジョブカードはレベルによって背景の色が変わっていくのだ。そして、この金色のジョブカードを持てる者は……」
そこまで言ったエリスは、ジョブカードをぐいっと俺の方に押し付けてくる。
俺はカードに書かれているエリスのレベルを確認した。そこには
「れ、レベル800だとぉぉぉぉぉッ!?」
「しっ、声がデカい!」
彼女は着ていた黒のマントのフードを深く被ると、俺達の手を掴んで人気の無い路地裏へと誘導する。
「私はこれでも国王の側近であり、国一番の知恵者だ!それなりに顔も広いからバレると色々と面倒なのだ!分かったか!」
「はーい。」
でもこいつ、何故そこまで危険を冒して俺達を手伝おうとするのだろうか。怪しすぎる。
「ぶっちゃけ、何が目的なの?」
「え?君たちのレベル上げを手伝ってやる事だが?」
「嘘臭ぇ!!」
まあいい。分からない事を詮索してもしょうがない。
もしかすると、本当に手伝いにきてくれたのかもしれない。うん、きっとそうだ。
「じゃ、じゃあ早速レベル上げをしていきたいんだが、お前の経験上一番手っ取り早いと思うやり方って何かあるか?」
「こ、この賢者エリスをお前扱いとな…まあ良い。私の経験上で最も効率の良いレベル上げ方法はな。」
ビシッ。とエリスは思い切り「そこ」を指で差した。
「あ、あれはッ!」
「まさか、最も効率の良いレベル上げって…!」
「そう……クエストだ!」
彼女が指差したのは、俺達が先程まで居た冒険者組合だった。
冒険者組合の中は、常に活気で満ち溢れている。何せ、酒場と組合受付所とクエスト掲示板が混同して存在しているのだから。
こうやって入口から中を見回すと、改めて異世界に来たんだなあという事を感じさせる。
酒を酌み交わす荒くれ者達、ギルドの勧誘に勤しむ冒険者達、美人の受付嬢……
まさにファンタジーの世界だ!素晴らしい!
思わずあははははははははと哄笑したくなるのをこらえて、エリスと弟と共にクエスト掲示板へ急いだ。
クエスト掲示板には、クエスト内容と報酬が書かれ、危険度を表す印が押された羊皮紙の数々が所狭しと張られてた。どれもこれも俺の心をくすぐる様なモノばかりである。
「竜退治に巨大スライム討伐…どれも面白そうなのばかりじゃないか!」
「そうだね、兄さん!」
弟は基本イエスマンだ。たまには反論してくれた方が嬉しい時もある。
「駄目だ。そういった討伐クエストは報酬は確かに良い。だが周回性に欠ける。」
エリスに言われハッと気付く。
そうだ、あと一週間以内にレベル100にしないといけないんだ。
そしたらもう、楽しんでる暇なんて無いじゃないか!
「じゃあ一番効率の良いクエストってのはどれだ?」
「うむ。これだ。」
エリスがその羊皮紙を掲示板から剥ぎ取り、高々と掲げる。
『東への旅』難易度:☆☆☆☆☆☆☆☆
「東への…旅?」
「そうだ。ちょっと待っていてくれ。」
そう言ったエリスは踵を返して受付嬢の所まで行ったのだが……
どことなく不安だ。気のせいかもしれないが。
「俺は危ない気がするんだ。本能って奴かもな。」
「確かに危なさそうだね、兄さん!」
弟は基本イエスマンだ。たまには反論してくれた方が嬉しい時もある。