第5話 気の遠くなるような話
「二人とも、早くそれぞれの役職に慣れてほしいのお。」
国王は弟を見ながらニコニコと話している。俺はアウトオブ眼中の様だ。早々に切られちゃったのかな。
「では、いつまでもこの城にいるのも何だしそろそろ城下町に降りてみたまえ。そして冒険者組合で冒険者登録後、ジョブカードを貰うと良い。」
「ジョブカード?」
「うむ。簡単にいうと己の身分を保証するものだな。無ければ良きも悪きも流浪の身として一蹴されてしまう。冒険者組合でカード登録をする、と自らの強さの基準であるレベルを確認したりと色々お得な機能付きのものを貰えるからちょうど良いだろう。」
「おお!異世界っぽい!。」
失言?気にしない気にしない。
「しかしこちらとて、君達を強引に召喚してしまう程に今、忙しい時期なのじゃ。」
「と、いうと?」
「『勇者』と『魔王』の再臨まで、残り三ヵ月を切ったのじゃ。」
役職を持つ者の復活の時期が全く同時の二役職。
その時期が訪れた暁には、二つの勢力に分かれて大戦争が巻き起こってしまうらしい。
その戦争は「勇魔大戦」と呼ばれ、世界中に多くの犠牲が出るそうだ。
つまり、世界の終末まで残り三ヵ月を切ったとも言える訳だな。はっはっは!
笑えねぇよ!
「その影響もあり、この国の周辺にも様々な裏の組織が既に暗躍を始めている。我らはその鎮圧でいっぱいいっぱいなのじゃ。」
「は、はあ。」
「それは大変そうですね。」
「だから、君達にも頑張ってもらわねばなるまい。頑張ってくれるかの?」
「「はい!」」
二人で息を合わせて言う。流石兄弟。
「元気でよろしい!。では、今から一週間後までにそれぞれのレベルを100まで上げてくるのじゃ!」
「「はい!」」
二人で息を合わせて言う。流石兄弟。
「行け!女神の御加護が在らん事を!」
国王を筆頭とした城中の人々の歓声に呑まれながら、俺と弟は意気揚々とスタート地点のグランデイル城を後にしたのであった。
「いよいよだね、兄さん!」
「おう!行くぞ、我が弟よ!」
俺達の背中を押すようにして追い風が吹き抜ける。気持ちのいい風だ。
さあ行こう!まだ見ぬ世界へ!俺達の冒険は、これからだ!
「…ん?」
城を降り、秘密の抜け口から城下町へと繰り出した俺ははてと首をかしげた。
「どうしたの?兄さん。」
「ああイチヤ、実は少し気になる事があってだな……」
「そう?」
「うぬ。とりあえずさっきの国王との会話を思い出してみてくれ。」
「分かった!」
『……だから、君達にも頑張ってもらわねばなるまい。頑張ってくれるかの?』
『はい!』
『元気でよろしい!。では、今から一週間後までにそれぞれのレベルを100まで上げてくるのじゃ!』
回想終了。
「……どうだ?何かおかしい所はあったか?」
「ううん?別に?」
「大いにあるわッ!」
よく見てほしい。国王の発言にある数字を!
そう、100である!
レベルを100まで上げるのじゃ!とか滅茶苦茶な事をあのおっさんはサラリと言ってのけていたのである!!
それも一週間以内とかほざいてやがるのである!おいおいおい!
「無理だろ!!」
「大丈夫だよ、兄さん。」
「その心は?。」
「だって兄さんだもん!。」
「駄目だこりゃ。」
今更追記とかいうのもなんだが、見ての通り弟はブラコン(重症)だ。
まだ小学生だし可愛げがあって良いのだが、たまに怖くなる。それがまさに今だ。
「ああ…とりあえず冒険者組合行こうか。もしかしたらレベル100の基準が案外低いかもしれないしな。」
で、組合にやってきました!まずはそこらで酒飲んで暇そうにしてる冒険者のおじさんに話を聞いてみましょう!
突然ですが質問です!貴方にとってのレベル100とは?
「ははは!レベルが100だったらこんな所にいねぇよ!」(Lv.13♂)
「なんつぅか、あれだな、雲の上って奴?」(Lv.20♂)
「あたいらには気の遠くなるような話さ。いつか会ってみたいもんだね」(Lv.23♀)
「バケモンだろ。」(Lv.21♂)
「ぴゅーん、ばぁん!どぉん!みたいな。」(Lv.4♀)
……どうやら、一筋縄ではいかないようだ。
俺は隣で期待に目を輝かせている弟を一瞥し、盛大にため息をついた。
さぁて、いきなり詰んじまったよ?どうする?どうにも出来ねぇよ!
身体中から溢れ出るこれは…まさか…「やる気」……!?
と思いきや、ただの汗でした。暑いですね。