第16話 正しい馬車の乗り方
三ヶ月の時を経て、遂に酒饅頭復活です!
今までずっと更新せずにいて、本当に申し訳ございませんでしたッ!
「お体の具合はどうでしょう、ご主人様ッ!」
「ん。まあまあだが少し揺れるな。」
「振動を極限まで減らしますッ!おいエルダー(馬の名前)ッ!」
「あと、もう少し危険なルートはあるかな。こんな草原ばかりじゃ気が乗らない。」
「立ち入り禁止の封鎖ルートに突入します!おいエルダァァッ!!」
このド派手な馬車(「竜殺し」というらしい)の御者、マルドラとやらは無我夢中で馬を怒鳴りつけている。馬も可哀想だ。
俺達一行は、レベル800の大賢者エリス様の後を追ってこの馬車に搭乗した訳なのだが。
「おいおい賢者さんよ。こんなんじゃレベルも上がらねぇぜ?。」
隣に座る金髪ツインテ―ルの大賢者に訴えかける。そういやこいつ、未だにツンもデレも見せてないけど大丈夫か?金はあるけど、全部自らの実力で得たものっぽいし、お嬢様属性の欠片も見当たらない。
いずれ金髪ツインテ―ルの座を退く事になるぞ!銀髪or白髪のショートカットとかになっちまうぞ!表情に出さないのが災いしてダイタン属性付与されるぞ!或いは天然か!
そんな俺の危惧を余所に、エリスはニコニコしながらこちらを見る。
「任せておけ。ちゃんと策くらい練っている。」
「なら良いんだがな……」
と、突然馬車がガタンと揺れた。随分大きな振動だ。
「どうした御者。」
「いえ!今のは私のも分かりません!馬車の底からです!」
マルドラが悲痛な声を上げる。
「底に何かへばりついているのか?」
「街を出てまだ少ししか経ってねぇぞ!?」
弟イチヤは顎に手を当て思考のポーズを数秒とった後、ポンと手を叩く。
「分かったよ兄さん!」
「お!分かったか!」
「うん、これは……キャラ回収だよ!」
静寂が冷え切った馬車内を支配する。
「キャラ回収とは何だ?新手の魔法か?」
「あー…いや、そのだな……」
弟も全くメタい発言ばかりしてくれるものだ。
にしても回収出来るようなキャラって……
そこで俺は一つの可能性に気付く。
と、また馬車がガタンと揺れた。
まあ、これはチャンスなのかもしれない。俺が役職『闇騎士』を練習する為の。
俺は皆を差し置いて、そっと馬車の床を睨む。
(影よ…従順なる下僕よ…主人である俺に仕えるが良い……!)
誤解しないでくれ。俺は別に†堕天使†だのと心を病んではいない。
ただ、こういった役職発動の時には、雰囲気が一番重要だと思ったのである。
それなりになりきれば、能力の方も応えてくれるはず。何せ、ここは剣と魔法のファンタジーワールドだからな。
(その忌み嫌われた禁断の力、今を以って俺に見せつけてみろ!)
カッと眼を見開くオプション付きである。あいててて。痛い痛い。
しかし、俺の諦めにもとれる感情とは裏腹に、馬車の床に投影されていた俺の影は、ヌルリと動き始めた。
「おおっ!」
そしてそのまま、影はその両腕を大きく広げ、ガッと対象の首筋を掴む。
「ちょ、やめっ、コホッ、カハァッ!」
慌てて自分の影を蹴り、両腕を俺の首から無理矢理外した。
どうして俺は未だに役職が制御出来ないんだろ。ここくらいになると、自然に体が覚えるとかそういうんじゃないのか?。
八つ当たりに近い感情で影をげしげしと蹴ったら、蹴り返されるし。まあ影だから仕方ないのかもしれないけどさ。ちゃんと独立出来るんだけど。
「き、君はそういう趣味なんだな…うん、良いと思うぞ…人それぞれだからな……」
「俺の性癖が上書きされていく…!?」
気を取り直してわんもあ。左手を片目に添えて「クッ…また疼きやがった……!」と我ながらかなり痛々しい名演技を披露。そう、これは演技であって決して本心から来たものではない。そう、決して。
するとやはり俺の影はヌルヌルリと蠢き、馬車の窓から抜け出していった。きっとあのまま馬車の底へとヌルヌルリするのだろう。これはしばらく待つ事となりそうだ。
という俺の期待を見事に裏切って。
「きゃっ!何この黒いの!ちょっ、やめて、いやああっ!」
声が聞こえた。
それも、聞き覚えのある声が。
「くっ、狭いから攻撃ができない…ひゃっ!そこは駄目ぇっ!」
「……俺のゴミ役職は一体馬車の底で何をしていやがるんだと思う?」
「兄さん、多分それ描写したらRが3つ上がっちゃうヤツだよ。」
とりあえず、俺は全身に込めていた力をそっと抜いて、影の野郎を一旦引っ込めた。
影だけ楽しんでいてその主である俺が何も楽しめないこの世界はどうかしていると思った。
すると影を自分の足元に戻した瞬間、再び馬車が大きくガタンゴトンと揺れた。馬車の底にへばりついていた何かが確実に剥がれ落ちた感覚がする。
「おいマルドラ!ちょっと馬車を止めてくれ!」
「心得ました!。おいエルダァァァァッ!!」
ビシバシとしなる鋭い鞭の音に続き、馬車は急停車する。エルダーの扱いがかなり酷い気がするのは果たして俺だけなのだろうか。
馬車が止まると俺達三人は急いで馬車を飛び出し、へばりついていた何かを確認した。いや、しようとした。と言った方が正しかったのかもしれない。
それは、馬車の底を覗き込もうとしたその時だった。
俺の視界が刹那の内に、深紅色に染め上げられる。
「……え?」
考える間も無くその直後、鈍い音と共に俺の体は宙に浮かび上がった。
「貰ったぜ、あんたの命!」
沈みゆく朦朧とした意識の中で俺が最後に目にしたのは、鮮やかな血が映える、巨大な両手斧の刃。
俺の命がその斧によって刈り取られる直前、遂に俺の意識はブラックアウトした。
心機一転してもっと頑張りますので、応援よろしくお願いします!




