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第15話 賢者の人心掌握術

 「では君達、準備は良いかな?」


「無論。バッチリです。」


「装備新調グッジョブ!」


 俺の体をついさっきまで守っていた外出用ジャージは積荷の奥へ押し込み、今では真新しい鉄の鎧が我が身を包んでいる。無駄にイカしたデザインだった。まるでどこぞの国の騎士団のような紋章にカラーリングである。

 更に、弟イチヤとおそろでもある。あいつは頬を赤らめて「ペアルック…ハァ…ハァ…」とか喘いでるがなんだか怖いのであえて突っ込まないようにする。

 俺たちとエリスは、互いに目配せし合うと、ここの停留所から出ている馬車の中でも特に派手な色合いの、まるでサーカスといった感じの馬車に乗り込んだ。

 毒々しい緑と紫。見るものの神経を刺激し、威嚇効果もおまけで付いてくる赤とオレンジ、ピンク。

 きわめつけはサイドに描かれたド派手な装飾文字。生憎俺たちはこの世界の文字事情をよく知らないが、賢者エリスによるとどうやら「竜殺し」と書いてあるそうだ。

 といってもそのままの意味では無く、この世界でいうことわざのようなもので、「無謀な輩」という意味らしい。

 ……大丈夫だろうか。この馬車。

 なんか引っ張る馬も変な装飾に変なペイントが為されていた。馬の目は悲しそうに垂れていた。


 「え、ちょ、これがエリスの言っていたルート……」


「じゃないね。これは流石に。」


「えっ、じゃあなんで……」


「乗れば分かるさ。」


「泥船ッ!」


 気分はウサギに騙されたタヌキどんだ。

 親指をビッと突き出す笑顔の賢者さんは、勢いで俺を馬車の奥へ押し込もうとする。


 「イ、イチヤ!」

 

 「初めてのペアルックは三年前…クリスマスの夜に赤と緑のストライプセーターだったよね……」


 「イチヤ!?」


 と、がやがや俺達が騒いでいると突如、馬車が大きくガタンと揺れる。

 その後衣服を擦るような音が聞こえ、この派手馬車の御者らしき男が姿を現した。

 うわっ。

 それが俺の第一印象である。

 派手馬車に似合う程派手な道化服。本人はお洒落だと思って着こなしているようだが、黄金と漆黒の燕尾服に真っ赤なマント。更に大きな赤羽が付いた大きな羽つき帽は皮肉にも滑稽としかいいようがなかった。少なくともここの停留所では。


 「ほう!客か!」


 御者が言葉を発す。意識しているのかは分からないが、なかなかのイケボだった。顔の方はまあまあイケメンといった方だろうか。艶っぽい黒髪がキザにセットされている。


 「おお、御者か。この馬車は、相応の金を払えば好きな所へ連れていってくれる旅馬車かい?」


 エリスの懐にはいったい、どれ程の余裕があるのだろうか。


 「金…か。確かに道行く人々は皆、金で解決しようとしたり金に惑わされたりするというがな……」


 そこで彼はびしっとポーズを取った。


 「この俺、マルドラ・アルタイル・エドガー・ド・ベルクタス様は、そんなちゃちなモンにゃあ騙されねぇのさ!」


「そうか。では、済まなかったな。」


 言うなりエリスは踵を返し、すたすたと歩き始めた。

 するとその御者、マルドラ(以下略)は途端に慌てて馬車を降り、エリスの前へ回り込む。


 「えっ、ちょ、ままま待てって……」


「生憎、私には君を雇う手段が金しか無くてな。いくらでも積むつもりだったが、金が駄目というなら仕方が無い。こうなれば別の所へ行くしかないのだ。では。」


「あ、いや、その、今のはノリでやっただけで別に乗せてやらんとかそういうのじゃないんで、あの、ちょ待って!」


「ん、乗せてくれるのか?」


「はい!それは勿論!むしろ大歓迎です!」


 御者の手は自然と揉み手になっていた。

 これが賢者の力であり、そして金の力でもある。


 「では、乗せてもらおうか。三人入れるかな?」


「ええ!当馬車では広さと派手さをウリにしておりますので!」


 もみもみもみもみ。


 「ん。では金だが……」


「前払いが良いです!出来ればですけど!出来ればですけど!」


 もみもみもみもみ。


 「じゃあとりあえず、これくらい渡しておけば良いかな。」


 どさっ。乞食へと成り下がった哀れな御者マルドラの手に収まりきらない程の大きくずっしりとした金貨袋が載せられる。


 「はうあっ……!」


 マルドラが声にならない声を出す。

 その後、彼がエリスに跪き永遠とわの忠誠を誓ったのは言うまでもあるまい。


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