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第9話 旅の準備

 正直な所、異世界に行けばチート無双と楽園ハーレムが当たり前だと思っていた。

 いや、だって大抵の携帯小説は何やかんや言いつつも結局途中からハーレムにならない?

 ……まあ少しはそうじゃないのもあるけどさ。

 え?その少しが俺達のパターンなの?

 ちょ、それじゃ困るよ!?異世界来た意味無いじゃんかっ!!

 せめてチート無双だけでも…と思ったが、どうやらチート異能は弟に与えられたようだ。

 俺の異能――この世界では「役職ロール」というらしい。――は、『闇騎士ダークナイト』という随分イカす名前のものだがそれも名前だけ。

 実際の所トリッキー過ぎて扱いにくく、テンプレ異能にその座を奪われてしまうというなんとも悲しいものであった。

 俺的には「闇を操る」という能力は色々使えそうな気もするが、それがいけないらしい。

 中途半端な役はパーティのバランスを崩す為、せいぜい空きスロットに余裕があれば組み込まれる程度だそうだ。

 いや、確かにそういうのは何となく分かる。バランスが良いのはは丁度足りない所にぴったりハマるよ。



 だが!



 今は話が別だ。何故かだと?俺がその取り残される役だからだよ!

 まあ、自分の役職の力をまだ試してもいないからそこまで言えんのだが。

 しかし今回のクエストではきっと、いや必ず力を使う事があるだろう。



 「その前に、果たして一週間で大陸間を往復出来るのか。」


「まあまともに行こうとすれば数か月はかかるだろう。」


「ほらもう、何でいっつも詰むんだよ!?」


「安心しろ。まともに行けば。だ。」


「……何?移動魔法使っちゃうの?賢者さん?」


「いや、公共の交通手段にも色々ある。今回はとっておきのを君達に紹介しよう。」


「おお……」


 流石レベル800賢者さん。伊達じゃないぜ。

 きっとここまで来るのに多大な苦難を乗り越え努力してきたんだろう。


 「…と、その前に君達の装備品も整えなければいけないな。」


「まさか自腹とかそんな鬼畜生な事言いませんよね賢者様ッ!」


「安心せい。今回は私が特別に払おう。」


「流石賢者様ッ!」


 さり気なく抱き着こうとして避けられる。ちっ、案外ガードは硬いな。



 「でも、どこのお店で買うんですか。」


 弟に言われそういえばと思い出す。


 ここはグランデイル王国で一番賑わう王都。

 当然、店も色々な店があり、冒険者の装備品を売っている店だけに絞り込んでも結構出てくるので、この世界での常識やお金の事情をあまり理解できていない俺達にとっては意外とキツいお買い物なのであった。


 「そうだな、今回は私が払うし、私のお勧めの店へ行ってみるか。」


 王の側近でそこそこ高名な賢者のエリスがお忍びで行くくらいなら、余程の高級ブランドとやらに違いない。

 欲を言うなら装備はシリーズ一式で揃えたい所だ。でもそこまでエリスの財布に余裕があるのか。

 俺は突然、親のすねをかじって生きるごく潰しになった気分となる。

 まあ前の現世ではいつもそんな気分で欝々と電子機器を弄繰り回していたのだから今更別にどうといった事ではないのだが。

 俺達は大人しくエリスの後を追った。




 「……あの。」


「……………」


 俺は今、腕を組んで目の前に立つ、名も知らぬ筋骨隆々のおっさんと対話しようとしていた。


 しかしこのリアルコミュ力の数値が0を振り切っている俺にどうしろと?と言いたくなる。

 更に追い打ちをかけると。、こんな時の切り札で伝家の宝刀の弟イチヤは今、俺の隣にいない。

 落ち着け俺!よく見ろ!このおっさん、ゲームでいっつもお世話になってる鍛冶屋のNPCとそっくりじゃないか!

 黒く焼けた肌、異様な付き方をした筋肉はきっと、鍛冶場での副産物だろう。

 そういう見方をすると、突然おっさんに俺は親しみと懐かしさを覚えた。


 「よう!兄弟!元気かい?」


「……あ?」


「ひいいっ。」


 でも、それと話せるかどうかってのは別だよね。ははっ。


 そう、俺は今、賢者エリス御用達の防具屋、「ショップ・ヒルデ」の店頭に突っ立っている。

 弟とエリスは店内。

 一人ずつ相性の良い、つまり共鳴をしている防具を探すとかなんとかで現在は弟のターン。俺は待機だ。

 まあ弟に先を譲るのは兄としても当然の所業であり、決してムズムズとかしてない。うん。

 それにしてもこの店、エリス御用達というだけありそれなりに豪華だったり大手だったりするのだろうかと思っていたが、どうにも胡散臭い所だ。


 所謂、「隠しショップ」といったやつなのだろう。何せ路地裏に入口あったし。


 ちなみにこのまっちょなおっさんとも路地裏で会った。二人きりとか気まずい。


 もう一度、話しかけてみるか。

 俺は一握りの勇気を振り絞る事にした。





 と、その刹那。「すぴゅっ」と変な音がした。





 そして、目の前で厳つい顔をしていたおっさんの首が、その胴体からゆっくりと離れ落ちた。

 俺の目の前の視界は、噴き出す鮮血で覆い尽くされた。




「…………え?」




感想、是非!

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