不良探偵
この物語は並木 智代が解決した事件の一つを淡々と描いたストーリーです。過度な期待はしないで下さい。後、これを読んだら必ず感想・評価を付けやがって下さい。
私、並木 智代は都内の進学校に通う素行の悪い不良生徒だ。
理由は、授業をサボる、直ぐ暴力を振るう、である。
その私が昼休みに机に伏していると、隣の席に座っている顔が一寸イケていて女子にモテそうな男子生徒が声を掛けてきた。
「智代智代智代」
中山 裕樹。こいつとは家が隣同士で幼稚園からずっと一緒の学校だった幼馴染みだ。
「連呼すんなよ。何か用か?」
「飯行こうよ」
「奢ってくれるのか?」
「奢らないよ!てか何で僕が智代に奢らなくちゃいけないんだよ!?」
「さあ」
「さあ、じゃないよ!兎に角行くよ!」
言って裕樹は席を立って教室を出掛けて戻ってきた。
「行こうよ」
「ああ」
私は重い体を起こして席を立つと、裕樹と共に教室を出て食堂に向かって歩き出した。
その直後、私たちのクラスである3−Dの教室から「中山くん」と一人の女子生徒が出て来て駆けてきた。
学級委員長の小沢 有紀絵だ。私が居ては話しづらいだろう。
「先行ってるな」
言って私は一足先に行って突き当たりを曲がり、二人の様子を垣間見る。
「あの、お弁当如何ですか?」
そう言って小沢 有紀絵は布に包まれた弁当箱を差し出した。
「くれるの?」
裕樹は弁当箱に手を伸ばして取った。
「有り──」
小沢 有紀絵は、裕樹に礼を言わせる間も与えず去って行った。
私は一人残された裕樹に近付いた。
「お前、何ちゃっかり貰ってんだよ?」
「あ、居たの?まあ良いや。僕、弁当貰ったから食堂行けないや。智代、一人で行ってきて」
私は徐に弁当箱へ手を伸ばして奪い取った。
「悪いけどこれは私が貰っとく。お前は食堂に行って一人で食ってろ」
「何でだよ!?つーか僕の弁当返せよ!」
言って奪取を試みる裕樹。
私は取られない様にヒョイヒョイと動かす。
「一寸あんた、困ってるでしょ。返してあげなさい」
その声と共に後ろから弁当箱を奪われた。
振り向くと、つり目の少女が居た。
こいつは小沢 有紀檸。有紀絵の双子の妹でE組の学級委員長だ。
「はい」
有紀檸は裕樹に弁当箱を渡した。
「有り難う」
「てめえ何返してんだよ?」
私は有紀檸の胸倉を掴むとそう言った。
有紀檸は怯えもせず堂々と答える。
「別に良いじゃない。あんたのじゃないんだし」
「裕樹のでも無いぞ」
私は有紀檸を解放してそう言った。
「え、そうなの?」
「否、僕のだよ。僕が委員長から貰ったんだよ」
「はあ、お姉ちゃんに先を越されちゃったか」
言って有紀檸は布に包まれた弁当箱を見せた。
「羨ましいぞ裕樹。お前だけ弁当貰えて。私なんか誰もくれないし」
「しょうがない。これあげるわ。裕樹の為に作ってきたんだけど、もう貰っちゃってるしね」
有紀檸が私に弁当箱を差し出す。
「同性から貰ったって嬉しくも何とも無い」
「じゃあ良いわよ。あげないから」
言って有紀檸はE組の教室へ戻って行った。
「食堂行ってくるな」
そう言い残して私は食堂に移動した。
券売機に金を入れ、500円のカツ丼を購入して窓口まで持って行く。
カツ丼を受け取り、空いている席を探してそこに座る。
私は割り箸を取ってカツ丼を食べた。
一人で食うと美味しくない。
そう思いながらカツ丼を平らげ、食器を返して教室に戻る。
「お帰り、智代」
シカトしよう。
私は裕樹の言葉を無視して席に着いた。
裕樹は頭に疑問符を浮かべた。
「智代、何か嫌な事でも遭った?」
「遭ったも何も、お前と一緒に飯が食えなかった。それが嫌な事だ」
「ゴメン、明日からはちゃんと一緒に食べるよ」
私は小指を突き立てた。
「ん、何?好きな人でも出来た?」
私は裕樹の顔面を殴った。
ガスン!
「何で殴るんすか!?」
「蝿が止まってたんだ」
「あ、そ」
裕樹は机から教科書を取り出した。
私は席を立って教室を出る。
「あれ、何処行くの?もう授業始まるよ」
「フケる。そんな気分じゃねえんだ」
「ふうん。もしかして、僕と一緒に食えなかったから拗ねてるの?」
私はその問いを黙殺して屋上に向かった。
ドアを開けると、土砂降りだった。
私はドアを閉めて階段を降り、空き教室に移動した。
中には誰も居なかった。それはそうか。
私は適当に席に座り、目を瞑って眠った。
そして次に目を開けると、外は夜が近付いていた。
早く帰らないとな。
私は立ち上がり、教室の前まで移動した。
中に誰か居る。
私はソッとドアを開け、中を垣間見た。
中には裕樹が居た。
私は思いっ切りドアを開け放って中に入った。
「居たのか、裕樹」
返事が無い。
私は裕樹の席まで行って座っている彼の肩を軽く叩いた。
椅子から倒れ落ちる裕樹。
焦った私は裕樹を揺さぶった。
「おい、どうしたんだよ!?しかっりしろ裕樹!」
だが起きる様子は無い。
私は裕樹の呼吸と脈を確認した。
呼吸はしていなかった。
脈も無かった。
「マジかよ・・・」
クソッ、どうすりゃ良いんだよ!?
取り敢えず私は裕樹を担いで一階の保健室に駆け込んだ。
「あら、こんな時間にどうしました?」
保健室に居た白衣を着た医務教師がそう訊ねる。
「此奴、呼吸してねえんだ!脈も無え!」
「何ですって!?」
医務教師は裕樹を預かると、ベッドに寝かせて119番をした。
「○○高校です。生徒が倒れたました。大至急お願いします」
そう言って医務教師は電話を切った。
それから暫くして、救急隊員が到着した。しかし、既に手遅れの為に手の施しようが無かった。
「えーと、それじゃあ今、警察の方呼びますので、暫く此処で待機していて下さい」
「警察って、事件性があるんですか!?」
「いえ、それは何とも言えません」
救急隊員はそう言うと、携帯を取り出して110番した。
「それでは我々はこれで戻ります」
「ご苦労様です」
医務教師はそう言って頭を下げた。
保健室を跡にする救急隊員。
私は体の力が抜け、床に膝を着いた。
裕樹が死んだ?嘘だ!先刻はあんなに元気だったのに!
私は涙を流し、床を叩いた。
「ねえ、もう遅いし、帰った方が良いんじゃない?」
医務教師は私の前でしゃがむとそう言った。
私は医務教師の言葉を黙殺して保健室を飛び出した。
「邪魔だ!」
私は正面から歩いてきたスーツ姿の男を横に退けて廊下を駆け抜ける。
教室に着き、中に入って鞄を取り、教室を出て昇降口に向かう。
靴を履き替え、校舎を出て校門まで駆ける。
校門を抜け、自宅まで駆けた。
途中、コンビニの前に居座っている他校の不良っぽい数人の生徒を見掛けた。
その傍らで怯えて動けないお婆さんが一人佇んでいた。
私は他校の不良っぽい数人の生徒に近付き「邪魔だてめえら!」と怒鳴りつけた。
「何だオメエ・・・って、女かよ」
他校の不良っぽい生徒の一人が言うと、全員が笑い出した。
ムカついた私は、その中の一人に不意打ちを食らわしていた。
「何すんだテメエ!?」
と他校の不良っぽい生徒が一斉に立ち上がり、私を取り囲んだ。
「オメエ、俺たちに喧嘩売ってんのか?」
「ああ、売ってる」
「女だからって、容赦しねえからな!」
不良達は襲い掛かった。
「ふんっ」
私はしゃがんで全員に足払いを掛けた。
宙に舞う不良達。
その間に私は回し蹴りで不良達を八方に吹っ飛ばす。
「くっ・・・何者だあいつ・・・ただ者じゃねえぞ・・・」
と捨て台詞を吐いて不良達は逃げて行った。
私はお婆さんの方に顔を向けると、その場を離れた。
翌朝、私は警察の取調室に居た。
中央に机。その上にスタンドが載っている。
向かい側には優しそうな刑事。その傍らに怖そうな刑事が突っ立っている。
「お前が此処に呼ばれた理由は解ってるだろうな?」
怖そうな刑事が言った。
私は素っ気ない態度で「さあな」と答える。
「説明しないと解らないか。○○高校で起きた事件の第一発見者だからだ」
「そうか。死因教えてくれないか?」
「そんなもん教えられるか!」
「服毒です。被害者の体内からテトロドトキシンが検出されました」
答えているバカが私の正面に居た。
「何漏らしてんだよお前!?」
怖そうな刑事は優しそうな刑事の頭を叩いた。
「痛。あ、すみません。つい口が滑りました」
「口が滑りました、じゃねえよ!まあ良い」
良いのか・・・。
「あのさ、口を滑らしたついでに死亡推定時刻も教えてくれないか?」
「午後3時頃です」
「だから答えるなっつーの!」
「すみません」
午後3時と言うと、私が未だ空き教室で寝ている頃だな。
「テトロドトキシンがいつ頃服用されたのか解るか?」
「恐らく、お昼だと思われます。司法解剖の結果、胃の中に河豚が入っていました」
河豚・・・もしかして!
私は席を立って取調室を飛び出した。
「おい、待て!」
怖そうな刑事が追ってくる。
私は捕まらぬ様、必死に逃げた。
そして警視庁から離れた所で漸く撒く事が出来た。
これから行く所は決まっている。学校だ。そこに行けば奴は居る筈。
私は学校まで駆け、校門を抜け、校舎に入って靴を履き替え、廊下を駆け抜けて3−Dの教室へ飛び込んだ。
辺りを見回し、奴を見付けると側に行って「一寸来い」と教室から連れ出す。
「あ、あの、私、何かしましたでしょうか?」
私はそれを黙殺し、階段を上って屋上に出た。
「あの、こんな所にまで連れて来て何の用でしょうか?何か大事な話しでもあるんですか?」
「ああ、今から大事な事を話す。正直に答えてくれ」
そう言うと、有紀絵の頬がカーッと赤くなった。
何か勘違いしている様な気がするが、今は置いておこう。
「あの、未だ心の準備が。てか、私は女の子なんですけど、良いんですか?」
「これから話す事に男も女も関係無いからな」
「そうですか。それで、大事な話しと言うのは?」
「お前さ、昨日、裕樹・・・中山に弁当あげたよな」
「はい、あげました。訊きたいのはその事ですか?」
「ああ。所で、中山は今日来てるか?」
「いいえ、先生には休みだって聞いてますけど」
教師は皆にそう言ってるのか。
「そうか。まあ良い。話しを戻すが、お前、弁当の中に河豚入れたか?」
「・・・・・・」
黙り込んだ。
「私、殺してなんかいません!」
真剣な表情でそう訴える。
「そうか。じゃあ何で死んだ事知ってんだ?お前、先公には休みだと聞いてんだろ?」
「・・・・・・」
「やはりそうか。委員長」
有紀絵は俯いて膝を着いた。
「何で殺したんだ?」
「それは・・・その、中山くんが妹の有紀檸に、酷い事をしたから・・・」
「酷い事?」
「一週間前まで、中山くんと有紀檸は付き合ってたの」
「マジ?」
有紀絵は頷いた。
「だけど中山くん、突然有紀檸の事を振ったの」
「何故?」
「知らないです。それで有紀檸、凄く落ち込んじゃって・・・」
「そうか。けどそんな風には見えなかったぞ」
「有紀檸は、嫌な事が遭っても、表に出さないタイプだから・・・」
「ふうん。殺した理由はそれだけか?」
有紀絵は「うん」と頷いた。
その時、私の中の何かが音を立てて切れ、私は有紀絵を蹴り飛ばそうとした。
「はいはい、暴力は禁止よ」
その声と共に私の足が止められた。
見ると有紀檸が私の足を掴んでいた。
「有紀檸、何で此処に?」
「あんたとお姉ちゃんが屋上に行くのが見えたからよ。でもまさか、こんな事になってるとはね。お姉ちゃん」
有紀絵が顔を上げる。
刹那、有紀檸が有紀絵の頬をビンタして、ピシッと渇いた音が辺りに木霊した。
「あんたバッカじゃないの!?たったそれだけの理由で人を殺してんじゃないわよ!見損なったわ」
私は携帯を取り出すと、警察に電話を掛けてこの事を伝えた。
数分後、警察がやって来て、有紀絵を連れて行った。
私と有紀檸はそれを見送り、向かい合った。
「あんた、知ってる?裕樹が私と別れた理由」
「知らねえ」
「裕樹、他に好きな人がいたのよ」
「ふうん。で、誰?」
「あんたよ。あいつ、あんたが好きだったのよ」
「知ってたのか、お前。実を言うとな、一週間前に告白したんだ」
「え?」
目を大きく開いて驚く有紀檸。
「付き合ってる人が居るからって断られたけど、一発ぶん殴ったらOKしてくれたよ」
「私が振られたのって・・・あんたの所為か!つーか、ぶん殴ったらOKって何よ!?強制じゃん!脅迫じゃん!」
「まあまあ、落ち着け」
「・・・そうね」
有紀檸は深呼吸をして冷静になる。
「じゃ、行くか」
「うん」
私たちは屋上を跡にした。
おしまい