天使と藍色の外套
アセレアの急降下により、アセレアとセリーはニクトの町に潜入(?)しました。
グロリア帝国地方都市ニクト。これといった特産品などはないが、その歴史は古くグロリア帝国初期の段階よりこの地に存在する町である。町の周囲を城壁が囲み、全部で3つの城門がそれぞれ別の街道に存在する交通の要所であった。人族の国の都市であるため人口の9割以上を人族が占めている。
そんなニクトの町の裏路地の一角で、アセレアはセリーに目線をあわせるため腰を落とし、心配そうな眼差しを向ける。
「セリー、決して無茶しないでね?約束よ?」
「大丈夫!わたしに任せてちょうだい!」
そう言うとセリーは1人裏路地を後にした。
アセレアにより検問を"飛び越えて"町に入った二人はまず、アセレアのその目立つ白い羽を隠すため、外套を入手することにした。本来であればアセレア本人が直接探しにいくのだが、それでは購入する前に捕まってしまう。そこでセリーが単身で探しに出掛けたのだ。
「それにしても・・・」
セリーを見送ったアセレアは、路地際の壁をしげしげと見る。ろくに補修もされていないその壁は力を強くかければ崩れてしまいそうなほどボロボロである。
「この地には土魔法がないのかしら・・・?」
アセレアのいた国では魔法が発達していたため、壁の修繕などは報告をあげればすぐに行われた。橋もデザインさえ拘らなければその日の内に完成する。
「誰かに聞きたいけど、誰に聞けばいいのかしら?」
セリーの魔力が近くまで来たことを感じとり、路地の観察を止めてアセレアは彼女が来るであろう方向に向き直った。
「本当はもっといいのが良かったんだけど・・・」
セリーはそう言うと、色ムラのある藍色の薄汚れた外套をアセレアに手渡した。サイズは若干大きめであるが、裾を引きずるような長さではない。セリーの持っていた路銀の量を考慮し、古着屋の見切り品籠に入っていた安物の外套を選んでもらってきたのだ。
「いいのよセリー、気にしな・・・い・・・で・・・?」
そう言いながら外套を羽織ろうとしたアセレアだったが、うまく羽織れないことに眉をひそめる。人族用の外套には背中の羽を通す穴もなければ、納める余裕もなかったのだ。
「んー・・・」
一瞬考えたアセレアは、セリーが顔を真っ赤にしているのを気にもとめず、自身が着ていた服を脱いでいった。
「では、まずは食事にしましょうか。」
人通りの多い道を藍色の外套を纏ったアセレアが進む。
「はい・・・ですがアセレアさんはちょっと待ってて!私が買ってくるから!」
アセレアが苦笑しながら頷いたのを見ると、セリーは屋台街へと駆けていった。アセレアは服を脱ぎ稼働域が広がった自身の羽を、下着姿の身体に巻き付けるようにすることにより、外套内に無理矢理納めていた。そのため、腕をあげると羽が外套から出てしまうだけではなく、下着姿のアセレアが見えてしまう。
アセレアはセリーが十分に離れたことを確認し、顔を歪めた。無理矢理納めた羽の根元には通常ではかからない負荷が生じている。だがセリーを心配させないためにも辛い顔は見せられない。
やがて大きな黒パンを抱えて戻ってきたセリーの前には、いつもの柔らかい表情のアセレアが立っていた。
「それにしても、セリーの大切なお金を使いすぎてしまいましたね。申し訳ありません・・・」
アセレアは口に入っていた黒パンを飲み込むと、セリーにそう告げた。
「そんなこと気にしないで!アセレアさんと私はずっと一緒にいる・・・そう、家族なんだもん!だからいいの!」
セリーはそう言うと、手を動かすことができないアセレアの口に、千切った黒パンを詰め込む。端から見れば仲のいい姉妹の食事風景に見えるだろう。種族も違う、ついこの前初めて出会った自分のことを家族と言ってくれたセリーのやさしさに、口の中だけではなく胸もいっぱいになった。
「しかし、これからのことを考えるにしても、お金をどうにかしなければなりませんね。」
気を落ち着かせ、詰め込まれすぎた口の中の黒パンをようやく飲み込む終えたアセレアがそう言うと、自身も黒パンを飲み込み終えたセリーが提案する。
「じゃあ、掲示板を見に行きましょ!」
掲示板に仕事????この世界の流儀が分からないアセレアの頭の中には何のことか理解できなかった。
とりあえず今日はここまで。
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