天使の急降下
アセレアとセリーは町にたどり着きそうです。
日が登り始めた頃、アセレアとセリーは夜営地を引き払い街道を町へと進んだ。町へは昼までには到着するであろうとのセリーの見立てに、アセレアは安心していた。自身はまだしも、慣れない夜営をしたセリーをきちんと休ませてあげたい。その一心であった。
街道を進む内に、町を取り囲む城壁と城門が見えてきた。セリーの住んでいた町にそれらはない。これらが存在する町は古くからの歴史があり、地方都市として栄えていると、セリーがアセレアに述べた。だがその城壁と城門がさらに近づいた時、急にセリーの足が止まった。何やら顔が青白い。
「どうしたのセリー?」
アセレアは急に止まったセリーに驚き、顔色を見てただ事ではないことを察する。
「だめ、検問をしているわ・・・」
セリーいわく、この世界では普段城門の前に列が出来上がることは滅多に無いそうだ。だが今日はすでに列が長々と続いている。アセレアも目を凝らして列の先頭を注視する。どうやら衛兵が1人1人の人相を改め、馬車のに積まれた大きな荷の中まで確認しているように見える。まるで誰かを探しているかのように・・・。
「私たち、神に反抗したんだもの、逃げられないのよ・・・」
そう言いつつ、セリーは目に涙を浮かべながら、反抗した神に謝罪の祈りを奉げ続けた。
セリーを落ち着かせるため、アセレアはセリーを近くの切り株に座らせ、セリーに確認した。
「セリー、あの町の次の町までは、どれぐらい距離があるのかしら?」
アセレアの問いにセリーは首を横に振りながら答える。
「分からない。私も行ったことがないし・・・」
その言葉を聞き、アセレアは思案する。この町を諦め、次の町を目指そうか。だが残りの水や食料が少ないこの状態では言葉通りの命懸けになるだろう。だからといってあの門を気づかれずに通り抜けることは多分不可能だ。残された手段はひとつしかない。
「ではセリー、少し我慢してくださいね。」
「・・・へ?ちょ、ちょっと、アセレアさん!?」
声をかけられたと同時に抱き抱えられ、セリーは目を白黒させる。そんなことはお構い無しにアセレアはセリーにこう告げた。
「怖かったら目を瞑っていても構いませんよ。ただし余り大きな声は出さないでくださいね?」
そしてアセレアは背中の羽を羽ばたかせると、大空へ飛び立った。アセレアは空から町に侵入することにしたのである。
一気に上空まで到達したアセレアは眼科に広がる光景を確認する。彼女の腕の中でセリーは目を見開き少し震えている。そしてアセレアは比較的人がいない場所に狙いをつけると、太陽を背に急降下していった。天使兵の飛行術の基礎である高高度からの急降下。これが行えなければ戦場にすら出られない。本来は急降下中に攻撃魔法や魔法武器などをタイミングよく使用し、最下点で発動後に反転急上昇するのだが、今回は勿論行わなかった。
「よし!うまくいきましたね。セリー、大丈夫ですか?」
急降下の折に抱きついてきたセリーにアセレアは声をかける。
「もうおわった?もうおわったの?もう大丈夫?」
アセレアの胸に顔を埋めガクガク震えるセリーの声を聞き、アセレアは少々やり過ぎてしまったことを後悔した。
その後セリーの落ち着かせることに苦労したアセレアは、こうして無事に最初の目的の町"ニクト"にたどり着いたのであった。