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天使と衛兵の戦い

誰かがタレこみを神殿にしたそうです。

 最初に異変に気付いたのはアセレアだった。数日前より二人の日課となった薬草採取から戻る途中、セリーの家のあたりから、普段は感じない魔力が複数存在していることに気付いたのだ。

 "口無しの森"にアンデッドが存在するかもしれないというセリーの話から、薬草採取の際には魔力の探知と気配の探知を余念なく行ってきたが、まさかセリーの家から魔力を感じるとは予想だにしていなかった。

「セリー、ひとつお聞きしたいのだけれど。」

 アセレアが訪ねると、前を歩いていたセリーが振り向く。

「どうしたの?アセレアさん?」

「今日家に誰か訪ねてくる予定はあるのかしら?」

 急なアセレアの質問に、セリーは首をかしげる。

「特に無いけれど・・・また虫の知らせ?」

 アセレアの急すぎる言動をセリーはクスクス笑いながら返す。

「まぁそんなところかしら。」

 アセレアも微笑み返したが、内心は緊張していた。個々の魔力自体は低いが、数人分の数が集まっている。1人の少女の家に赴くにはおかしい数だ。きっとよくないことが起きるとアセレアの兵士としての勘が告げていた。


 セリーの家が見える森の切れ目に差し掛かったときだった。

「セリーよ!今すぐ戸を開けよ!」

 若い神官がセリーの家の前で大声をあげる。彼の背後には数名の衛兵が槍やクロスボウを携え整列していた。

「一体なんなのよあれは。アセレアさんはちょっと待っててね?約束よ?」

 セリーはアセレアにそう声をかけ、先に駆け出す。アセレアはペースをあげつつも、見つからないように木の陰に身を隠し、セリーの行動を見つめていた。

 セリーと若い神官は二言三言言葉を交わしているが、段々とヒートアップしているようだ。そしてセリーが何か喚いた後に事態は急展した。

 若い神官が手をかざすと、彼の背後にいた衛兵がセリーを囲む。そして1人の兵士がクロスボウでセリーの後頭部を強打した。地に崩れ落ちるセリーを目にしたアセレアは、セリーとの約束を破り森から駆け出した。


「お前が異教徒だな?背に羽を持つ異形の者よ!衛兵!捕らえろ!」

 森よりあらわれたアセレアを見るなり、若い神官はそう言った。それと同時に、衛兵がアセレアを取り囲む。

「私が貴殿達に何かした覚えはないのだけれども、人違いではありませんこと?」

 アセレアは若い神官を睨みつつそう発した。しかし若い神官は汚物を見るかのごとく眼差しでアセレアを睨み返す。

「ふん!何をデタラメを!異形の者など存在自体が異端だ!それを招き入れた者も同罪よ!魔女裁判でしっかり裁いて火炙りにしてやるわ!衛兵!さっさと捕らえろ!この際瀕死にして構わん!」

 若い神官の言葉を受け、衛兵の1人が槍をアセレアに突き出す。しかし突き出した先にはすでにアセレアの姿がなく目を白黒させる。

「私だけならともかく、同族のセリーまでもとは、人族が野蛮というのは本当なのですね・・・・」

 隙だらけの包囲網を抜け、抜き様に衛兵の腰に下げられた短剣を手にしたアセレアが1人呟く。そして若い神官と衛兵達のほうへ向き直ると、短剣を構えた。


「分かりました。天使兵アセレア、お相手いたしましょう。」


「天使兵だと?おそれ多くも天使様を名乗るとはあああぁぁ!!ふざけるなよ異教徒があああぁぁ!!」

 短剣を抜き取られた衛兵が、叫びながらアセレアに槍を連続で繰り出す。しかしその突きはアセレアを捉えることは出来ない。

「正直すぎる筋ですわね」

 連続突きは最小限の動作ですべて避けると、短剣の柄を相手の首元へ叩き込む。叩き込まれた衛兵はその場にくずれ込む。

「くそっ!ヤツは武術を使えるぞ!焦らず囲んで同時にやるんだ!」

 いつの間にか衛兵の指揮官ポジションについた若い神官の言葉を受け、残った衛兵4人が皆同時に攻撃を繰り出す。確かにアセレアが地上での動きのみしかできないのであれば、まだ攻撃が当たったかも知れないだろう。

 だがアセレアの背中には羽がある。魔力はセリーの献身のおかげもあり回復している。アセレアは魔力の方向を背中へ向け羽が動くことを確認すると、再び視線を衛兵達へと向け。


 ぼやけた視界の中で、セリーは舞うように衛兵達を倒していくアセレアの姿を見た気がした。それまでセリーに向けてくれていた柔らかみのある顔とは違い、冷たくもどこか楽しんでいるような横顔。恐い。セリーはそう感じた。だが口から微かに漏れた言葉は、考えとは違うものであった。

「すごく綺麗・・・」

 そしてセリーの視界の中に写っていた舞は、やがて終わりを迎えた。


「ふぅ、こんなところかしら。」

 アセレアは気絶した若い神官と衛兵達を見つつ呟いた。万全ではないものの、身体は調子を取り戻しつつある。だが今まではもっと軽く身体が動いていたはずだ。何か身体に枷をかけられたような感覚がする。何よりも魔力の消費が激しい。羽に魔力を込め浮かび上がるだけで魔力が急激に消費されていることが実感できた。試していないが、他の魔法にも影響が出ているかもしれない。

 そんなことを考えていたアセレアだったが、倒れているセリーの姿を見るとそれまでの思考を捨てて慌てて駆け寄っていった。

「セリー!セリー!」

「アセ・・アさん・・・?ど・・・う・・・て・・・?」

「しゃべってはダメよ!」

 焦点が合っていないセリーの目を見たアセレアは彼女を抱き抱えると、セリーの家へと急いだ。


 人族は非常に弱い種族であり、1つの外傷、1つの病により命を落とす場合もある。はるか昔に教わっていたアセレアは意識のないセリーを前にして、焦りを顔に滲ませた。

「取り敢えず処置したけれど・・・」

 本来ならばこのまま安静にすべきであろう。だが先程の若い神官達が再び襲ってきた時に、セリーを守りきる自信が今のアセレアにはなかった。

 やがてアセレアは意を決し、身支度を整えるとセリーを抱き抱え、セリーの家を後にした。

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