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天使の初帝都

セルティは一命をとりとめました

 セルティを助けて2日ほど経ったころ、アセレア一行は元来た宿場町へと戻り始めた。幸い今のところ追手の魔力は感じられていない。セルティもセリーの手を借りてではあるが歩くことができた。服もセルティの予備の服と、かつてアセレアが着ていた藍色の外套を着ている。

 だが唯一不自然な点があるとすれば、外套から見え隠れする身体の至る所に拷問を受けた際の傷が見え隠れしているところであろう。幸いにも傷からの出血は止まっているが、その綺麗な肌に刻まれた傷跡は心の傷と共に残ってしまうかもしれない。そんなセルティを気遣い、セリーが声をかける。

「セルティお姉ちゃん、もっと身体を預けてくれていいよ?」

 セルティはその言葉に躊躇する。

「ありがとうセリーさん、けどその呼び方はどうかと・・・。」

「私より前にアセレアお姉ちゃんの妹になっていたんでよ?それって私にとってはお姉ちゃんだよ!そういうセルティお姉ちゃんもその呼び方はだめ!"さん"はなんか他人行儀だよ!セリーでいいよ!セリーで!」

 そんなセリーの迫力に戸惑うセルティであったが、やがて顔を赤らめながら小さな声を漏らす。

「・・・セ・・・セリー・・・ちゃん?」

 セリーは満足気に頷くと、セルティに満面の笑みを向ける。

「なぁに?セルティお姉ちゃん!」

 そんな2人のやり取りを横から眺めつつ、アセレアはセルティに微笑む。

「ふふ。良かったわねセルティ。可愛い妹ができて。」

「姉様!?からかわないでください!!」

 顔をさらに真っ赤にしながらそう言うセルティであったが、その表情にはどことなく嬉しさがにじみ出ている。

 その後の道中でも、セルティとセリーは仲良く話をしていた。その様子を背に、2人を先導するアセレアは、無事2人が打ち解けることができたことに胸を撫で下ろす。

「それでね、アセレアお姉ちゃんの羽の中で寝ると・・・。」

「姉様の羽の中で!?ぜひ今度私も・・・。」

 その会話の端々を耳にしたアセレアは1人苦笑し、行く先へと視線を戻した。



 セルティを助けて4日後、アセレア一行は元の宿場町へと戻ってきた。

「まだ追手が来る可能性もあります。一休みしたらすぐに出ましょう。」

 アセレアの影に隠れながらそう言うセルティの提案にセリーが反対する。

「だめだよ!セルティお姉ちゃんの傷の手当てをきちんとしないと!このままだと傷もきちんと癒えないよ?」

「ですがこの地はまだ敵の勢力内です。少しでも離れないと!」

 アセレアはそんな2人の間に入り、懐にしまっていたなけなしの路銀が入った巾着をセリーに渡す。

「セリー、食料と、できたら薬を調達してきて。」

「うん!ちょっと待っててね!」

 セリーはアセレアから巾着を受け取ると、露店が立ち並ぶ通りへと駆けていった。

「姉様・・・」

「大丈夫よセルティ。今のところ追手の魔力は感じられないわ。それにどっちにしろ、食料を調達しないとこの先もたないわ。」

 そういうとアセレアは、人混みに混じっていくセリーの背中を見送った。



 しばらくした後、セリーは両手に荷物を抱えてアセレア達の下へと戻ってきた。

「とりあえず、しばらく分の食料は買えたんだけど、薬はどれも高くて・・・。」

 申し訳なさそうに荷物とほぼ空に巾着袋を手渡してくるセリーに、アセレアは優しく微笑む。

「ありがとうセリー。さぁ2人共、とりあえず食事にしましょう。」

 そういうとアセレアは、2人を連れて街の外れへと歩みだいた。

「・・・本当に人族の文明が繁栄しているのですね。」

 街を行きかう人々を眺めながら、セルティは言葉を漏らす。

「うん。他にも人族の町があるし、それに他の種族の国や町もあるよ。・・・その、エルフの国っていうのもあるし・・・。」

 セリーのその答えに、セルティは一瞬顔を曇らせる。迫害されていたかつての世界での出来事が脳裏を過ぎったのだ。だが心配そうな視線を向けてくるアセレアと目が合うと、表情を戻して話題を変えた。

「それで、帝都という場所に向かっているのには、何か理由があるのでしょうか?」

 その問いにアセレアが答える。

「一応この国で一番人が集まるところみたいだから、何か元の世界に関する手がかりがあるんじゃないかと思っているのだけれども・・・。」

 その言葉にセルティは眉をひそえる。

「ですが、この世界の人族の人々は、魔法を使いませんよね?そんな所に行ってもあの転移魔法について何か分るとは思えないのですが・・・。」

「セルティ。焦ってもいい結果は出ないわ。元々何か宛てがあるわけでもないですし、まずは行ってみましょう?」

 そう言うとアセレアは、セリーが買ってきた荷物から、昼食となる乾パンを取り出し、セルティに差し出した。



 数日後、アセレア一行はグロリア帝国の帝都アーシアを見下ろせる丘まで辿り着いた。丘の上からの光景に、アセレアがぽつりと呟く。

「なかなか大きな城塞都市ね。」

「私も初めて見たけど大きいね!」

 セリーは初めての帝都ということもあり、若干浮ついているようであった。そんなセリーとは裏腹に、セルティが不安げな表情を浮かべる。

「あの軍勢の本拠地なのですよね?大丈夫なのでしょうか・・・?」

 アセレアはセルティの頭を一撫ですると、セリーに手を引かれながら丘を下って行った。



 帝都アーシアの城門まで辿り着いたアセレア達は、特に見咎められることなくその大きな門をくぐることができた。セルティは目立たないように外套を深く被っていたが、そもそも門をくぐる通行人が多すぎるため、小柄なセルティが門番の視界に入ることはなかった。

 城門をくぐり抜けた3人の目の前には、まるで森の木々のように建てられた商店や露店と、その合間を行きかう忙しない人々の光景が広がっていた。

「とりあえず・・・掲示板を探してみましょうか?多分大きな通り沿いにあると思いますし。」

 アセレアの提案にセリーとセルティは頷くと、人の流れに乗りつつ大通りを進んでいった。

 しばらく大通りを進むと、それまでは商店や露店が主であった街並みが、鍛冶や機械の音が響く街並みへと変わっていった。通りをさらに進むと、やがて目的としていた掲示板を見つけることができた。

「掲示板の大きさも、依頼の量も桁違いだね・・・」

 セリーが思わずそう漏らした掲示板は、セリーの町の掲示板の3倍はあるであろう大きさであり、すでに昼時を過ぎたにも関わらずクエストボードが数多く掛けられていた。

「2人はあちらから見てきてくれる?」

 アセレアはそう言うと、掲示板の左端へと進む。

「行こう!セルティお姉ちゃん!」

「ちょっとセリーちゃん!そんなに引っ張らないでも・・・!」

 セリーはセルティの手を引きながら、掲示板の右端へと向かっていった。そしてそれぞれが掲示板の端から依頼を見ていき、やがて掲示板の中央で合流する。

「こちらはよさそうな依頼はなかったのですが、姉様は何か見つけました?」

「いえ、こちらにもいいものは見当たらなかったわ。それにしてもこの掲示板は力仕事や採取の依頼が随分多いようだけれども・・・?」

 そんな会話をたまたま聞いていた職人風な男が、アセレア達に声をかける。

「なんだい嬢ちゃん達、仕事を探しているのかい?」

「ええ。そうですわ。」

 そのアセレアの返答を聞き、職人風の男が今まで通ってきた道とは別の道を指し示す。

「なら商人街の掲示板へ行ってみな。この道を行けば兵舎前を抜けて商人街へ抜けれるぜ。嬢ちゃん達みたいなのがここで仕事を探しているということは、この街は初めてなんだろう?」

「商人街・・・ですか?」

 眼の前の掲示板ではなく商人街に行けという真意が分からず、アセレアが思わず聞き返す。

「この帝都アーシアでは、商人街とここ鍛冶屋街、そして兵舎前の3箇所に掲示板がある。ここは主に鍛冶に関する依頼、主に鉱石の採取や力仕事が主なものだからな。嬢ちゃん達向けのは商人街の依頼だな。」

 そう言うと、職人風の男は掲示板のクエストボードを1枚手に取り、手を振ってその場を離れていった。

 アセレアは軽く礼をすると、セリーとセルティを連れ、先程の男の指し示した道へと進んでいった。


意外と忙しい今日この頃

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