天使と少女の出会い
薬草採取に来ていた少女セリーはいつも来ている森に違和感を感じていた。
いつもは自分以外には誰も訪れることのない、この森に、何者かの気配があるのだった。
通称"口無しの森"。はるか昔、この土地で起きた戦により命を落とした兵達の骸を、森の中心付近の長老杉の根本に埋葬したらしい。それからしばらくした後、アンデットが出没するという噂がたってからはこの森に人の手が入ることはない。
少女セリーはそんな"口無しの森"に唯一踏み入る人族である。彼女には昨年まで両親がおり、貧しいながらも慎ましい生活を送っていた。ところが昨年の流行病の際に幼いセリーを残して逝ってしまった。それからというもの、セリーは近くの"神殿"の炊き出しと、森の中で採った薬草を卸すことにより
どうにか生活をすることができている。
そんなセリーは付近を警戒しつつも、森の中心近くへと歩みを進める。今日は中心近くに群生している"熱冷草"をどうにかして手に入れなければならない。自分の生活のためにも。
しばらく歩みを進めたセリーは無事に目的地へとたどり着く。そして"熱冷草"の群生体の中心に、見慣れないものを見かけ、息を飲んだ。
「羽・・・まさかハーピー??けど・・・」
ハーピーは魔物のうちでも、獰猛な部類に入る。群れを成して村落を滅ぼすこともあるほどだ。だが目の前の羽はハーピーの派手な色とは異なり純白である。セリーは羽が動かないことを確認し、意を決して羽の根本を覗き込み、息をのんだ。
「うそ・・・」
セリーの目の前には、白い羽を生やした銀髪の人族が横たわっていた。服装はボロボロになり、体のあちこちから出血しているようだが、とても美しい顔立ちをしている。
「羽が生えている人族・・・鳥人族かしら・・・?息はしてるみたいだけど・・・」
セリーは鳥人族を実際に見たことはないが、セリーは魔物に襲われてこの森に不時着した鳥人族と結論付け、とりあえず声をかけることとした。
「もし!もし!大丈夫ですか!!!」
その声に反応したのか、うっすらと目を開けた人族が、かすれる声をあげた。
「セ・・・ル・・・テ・・・・・・・・・」
「よかった。生きてらっしゃるのね。とりあえず私の家に運びますね。」
それからセリーは、再び意識を失った羽の生えた人族を自分の家へ引きずっていった。
「ん・・・・」
白い羽を生やした銀髪の人族、アセレアは花の香りに包まれた日の光を感じ、意識を取り戻した。
「ここは・・・天国かしら・・・?」
どうやら自分は花の植木に囲まれたベッドの上に寝かされているようだ。
「・・・っつつつ」
上半身を起こそうとしたが痛みで起こすことができない。
「ふふ、またセルティに怒られてしまうわね。」
そんなことを思いつつ、再び全身をベッドに委ねた。自分の体へ目を向けると、先の戦いの際に負った傷に合わせて布が巻かれている。服は下着以外は身に着けていないが、部屋の脇の暖炉に火が入っているため、寒く感じなかった。
ふとベットの脇を見ると、誰かが寝息を立てている。
「・・・え・・・?」
アセレアは寝息を立てている主を見て驚愕した。それは彼女の世界でははるか昔に滅ぼされた人族だったからだ。
「んー?あ!よかった!気が付いたのね!」
アセレアがベッドで動いたからであろう、ベッド脇の少女が目を覚まし、アセレアに声をかけてきた。
「私はセリー!この近くの森であなた倒れていたのよ?鳥人族のお姉さん!」
セリーの言葉にアセレアは戸惑っていた。自分は確か砦内の天幕で最期の時を待っていたはずだった。それがなぜか森の中に居たことになっており、しかも滅んだはずの人族に救われたらしいからだ。
「あれ、言葉がわからないのかな?私はセリーよ!セリー!」
返事がないアセレアが言葉がわからないと勘違いしたセリーが手振り身振りも交えながら話かけてくる。とりあえずアセレアはこの人族の少女セリーから、情報を聞き出すこととした。
「セリーさん、ありがとう。私はアセレアよ。」
「アセレアさんね!よかった言葉が通じて!あぁ私はセリーでいいわよ!」
「ではセリー、この手当もあなたが?」
アセレアが体に当てられる布に視線を移しながら尋ねる。」
「そう!けど本当のお医者様じゃないから、ちゃんとみてもらったほうがいいけど、お金ないし・・・」
セリーはしゅんとしながらそう答える。しゅんとなったセリーを見ると、どこかセルティの面影が重なって見える。
「そんなことはないわ。おかげ様で随分と楽になったもの。」
そう言いつつ、アセレアは左手でセリーの頬を撫でる。最期にセルティにしたように。するとセリーは首元まで真っ赤になりながら、うれしそうに微笑んだ。
アセレアとセリーはこうして出会った。
次は未定だけど今週中かな?




