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天使と魔狼

アセレアとセリーの初めての宿の夜だったのですが・・・

「魔狼!?早く逃げなきゃお姉ちゃん!!」

 セリーはアセレアの腕にしがみつきガクガクと震える。その表情は青ざめ、今にも泣き出しそうな顔である。アセレアはそんなセリーを優しく抱きしめ、頭を撫でながら落ち着かせる。

「セリー落ち着いて。大丈夫だからまずは身支度を整えましょう。ね?」

 アセレアの言葉にセリーは頷くと、震える手で懸命に身支度を始めた。アセレアはいつも通りの手付きで身支度を整えると、セリーの準備が終わるまで戦斧槍の調子を確認する。本来は槍術が得意なアセレアであったが、街道を進む合間に素振りなどを繰り返していたため、扱える者が居ないために売れ残っていたこの戦斧槍の癖を掴みつつあった。

 石突きの部分につく鎌状の刃を確認し終える時には、セリーも準備を終えていた。アセレアはまだ震えているセリーの右手を空いた左手で握ると、セリーの目線に姿勢を屈めると優しく微笑みかける。

「いいですかセリー。私から離れないで下さいね?私が必ず守ります。」

 セリーは震えながらも頷き、アセレアの手を力強く握り返す。そんなセリーの手を引きながら、アセレアは宿の外へと向かった。


「だからここは魔狼に囲まれているんだ!一気に突破するしかない!」

「おい!誰か木材は余ってないか!?何でもいい!!」

「だから弓使いの俺が先頭でどうするってんだよ!?少しは頭を使え!!」

 宿の外は町の規模に似合わない喧騒に包まれていた。護衛を引き連れていた商人達は、合同で隊列を組み一点突破を狙っているようだ。そんな商人達に雇われた護衛達は、隊列の組み方や編成で揉めている。

 この宿場町の住人たちは家の窓に板を張ったり、家具でバリケードを築いている。どうやら各々の家の中に立て籠ろうと模索しているようだ。

 そんな喧騒を前にしたアセレアとセリーの背後から、声がかけられる。

「嬢ちゃん達もさっさと逃げるか立て籠る先を見つけな!!」

 アセレアが振り返ると、先程まで居た宿の主人が荷物を抱えて立っていた。

「ええ。貴方はどうなさるのです?」

 アセレアに聞かれた主人は顔を背けつつ、その問いに答える。

「俺は馬車に乗せて貰える手筈なんだ。見捨てるような形になるが悪く思うなよ?」

 主人はそう言い残すと、並ぶ馬車に向かっていった。そして主人が馬車に乗り込むのとほぼ同時に、護衛達を先頭に馬車の一団が宿場町から出発していった。そして時を置かずに辺りから人影は消え、アセレアとセリーだけが取り残されていた。

「アセレアお姉ちゃん。私達はどうする・・・?」

 セリーは震える手でアセレアの手を握りながら、辺りを見回している。アセレアはそんなセリーの手を優しく握り返す。

「あの馬車達の後を追います。もしかしたら魔狼を撃退してくれるかもしれないですしね。」

 アセレアはそう言うと、セリーの手を引いて宿場町を後にした。


 それからどれぐらいの時が経ったであろう。辺りは吸い込まれそうな暗闇に包まれている。右手に感じる優しい温もりだけがセリーの支えだった。だがその温もりの主が急に立ち止まった時、セリーは直感的に事態が悪化したことを悟り、右手の温もりをさらに強く握った。


「駄目でしたか・・・」

 アセレアは先程まで感じていた魔力が消え、数の減った禍々しい魔狼の魔力が再び近づき始めたことを感じ取り立ち止まった。どうやら先行していた一団は突破に失敗したらしい。このままではアセレアとセリーの元にたどり着くのも時間の問題である。魔狼の脚の速さを考えると、空を飛んでの回避も確実とは言えず、迎え撃つにしてもこの開けた街道の真ん中ではセリーを守るには分が悪い。そう瞬時に考えると、背を守れる場所への移動することを決断する。

「セリー、少し街道を反れますよ。」

 そう言うとアセレアはセリーの返答を聞かずに、街道脇の岩場へと向かっていった。


 丁度大きな岩がそびえ立つ場所へたどり着いたアセレアはセリーの手を離す。急に手を離されたセリーすがるように声をあげる。

「お姉ちゃん!?」

 アセレアはそんなセリーに微笑む。

「いいですかセリー。ここで魔狼を迎え撃ちます。こっちへ向かってくるのは少数ですの問題はありません。ですが万が一があった場合、必ず活路を開きますので貴女は逃げるのですよ?」

 アセレアの言葉にセリーは泣きながら答える。

「いや!絶対にいや!最後までお姉ちゃんと一緒にいる!」

 このやり取りにアセレアは思わず吹き出してしまう。

「ふふ。貴女もそう言うのですね。あの子のように。」

 そう言うとアセレアはセリーに背を向ける。そこへタイミングを図ったかのように3頭の魔狼がアセレア達の前に姿を現した。アセレアは深く深呼吸をすると、目の前の魔狼を睨み付け、戦斧槍を構えながら声を発する。

「私のセリーには傷1つつけさせません!さあ、参りなさい!!」

 その声に呼応したかの如く、3頭の内の1頭の魔狼がアセレアに向かって走り出した。


 魔狼。

 サイズは普通の狼の3倍はあり、尾が2本生えている。丁度額にあたる箇所には結晶状の石が埋め込まれたように存在しており、アセレアが感じ取っていた禍々しい魔力はこの額の石に蓄えられている。魔狼は魔法は使わないが、魔力を纏わせた牙と強靭な顎は脅威であった。

 アセレアはこの世界の魔狼とは初めて遭遇したのだが、その見覚えある姿から、どうやら自分のいた世界と同じ魔物であることに違和感を覚える。

 (違う世界なのに、同じ魔力を持つ、同じ魔物なのね・・・)

 だが目の前に対峙する魔狼3頭の内の1頭が走り出したのを見ると思考を中断し、手早く自身の身体に防御魔法と身体強化魔法を施す。さらに構える戦斧槍に意識を集中させると、戦斧槍に紋様が浮かび上がり、戦斧槍が風を纏った。その様子を確認したアセレアは、戦斧槍を振り上げると向かってくる魔狼に対して穂先の戦斧を叩きつけた。

 魔狼からすれば、少女が扱える程度の攻撃など気にもしていなかったのであろう。回避することもなく、アセレアの喉に魔力を纏った牙を突き立てようと口を開く。だがアセレアの攻撃を受けた魔狼は、その牙がアセレアの喉に届く前に戦斧槍の斧に叩き潰され絶命した。

 その様子を見ていた2頭の魔狼は、先行した1頭が倒されるのを確認すると、2頭同時に走り出す。それぞれアセレアの左右から挟み込むように広がり、左右からほぼ同時にアセレアめがけ牙を剥いた。

 アセレアは背中の羽に魔力を向けると、その場から飛び立つ。そしてアセレアの立っていた位置に向かって、石突き部分の鎌を薙いだ。丁度そこにはアセレアを狙って飛びかかり、空振りに終わった2頭の魔狼が空中で交錯している。アセレアの攻撃は片方の魔狼を両断し、もう片方の魔狼の尾の一本を刈り取った。

 尾を1本失った魔狼は、鎌により両断された魔狼を確認すると元来た方向へと走り出し、闇へと消えていった。


「セリー。もう終わったわよ?」

 アセレアは一仕事終えたかのように背伸びをしつつ、背後で目を瞑り神に救いを求めるセリーに声をかける。声をかけられたセリーが顔を上げると、そこにはいつものアセレアの微笑みがあった。

「アセレア・・・お姉ちゃん?お姉ちゃん!!!」

 セリーはアセレアが無事なことを視認すると、アセレアに飛びつきまた泣き出した。アセレアは魔狼の魔力が遠ざかるのを確認しながら、セリーが泣き止むまで震えるその身体を抱きしめ続けた。

そういえば、アセレアのビジュアルは文中にでてきたけど、セリーはまだだね・・・!

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