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天使と少女の旅事情

ようやくアセレアとセリーの旅らしい旅が始まります。

 セリーと合流してから数日後、旅の支度を整えたアセレアとセリーは、ニクトの町の城門を後にした。

「人が多いところの方が、何かアセレアお姉ちゃんの世界の手がかりがあるかもよ?」

 そう提案してきたセリーの案により、帝都へ続く街道を選んだ2人は街道を南に進んでいく。時折商人の荷馬車とその護衛がすれ違うが、物珍しい視線を向けられる以外に問題は起きていない。

 ニクトから帝都までは馬車なら3日はかかる。大体の旅人は商人の荷馬車に相乗りさせてもらったり、資金に余裕があれば馬を調達し移動する。だがアセレアとセリーにはそこまでの資金を調達できなかったため、今回は徒歩を選んだ。幸い今通っている街道沿いには宿場が点在しているらしく、徒歩での移動でも問題はないそうだ。



 街道を歩き始めて2日目、アセレアが横に付き添うセリーに、右手に持つ戦斧槍を見せながら口を開く。

「こんなに平和ならコレは必要なかったかしら?」

「まだ町に近いから要らないかもしれないけど、この先は必要だよ!」

 驚いた表情のセリーはそう言うと、この世界の旅事情について説明を始めた。セリーが言うには、この世界の旅は危険なものらしい。アセレアの世界ではせいぜい野獣がごく稀に出てくる程度であったし、空を飛べたため重武装することなく最低限の装備で旅をすることができた。だがこの世界では、野獣に加え旅人を狙った盗賊や魔物が存在するらしい。

「魔物が・・・ですか・・・?」

 アセレアが眉をひそめる。

「そうだけど、何か気になった?」

「ええ。この道は街道として利用される重要な道よね?なぜ討伐に動かないのかしら?」

アセレアの問いにセリーが答える。

「出るといってもあくまで未開の地が殆どみたい。だから討伐のために軍が動くとしても、魔物が出てから日が過ぎた後がほとんどみたいだよ。それに・・・」

 言葉途中でセリーが言いよどむ。何か言いにくいことでもあるのだろうと察したアセレアは、微笑みかけつつセリーに声をかける。

「それに?」

 しばらく黙っていたセリーだったが、俯きながらぽつぽつと言葉を続けた。

「軍はもっぱら他国との小競り合いとかに手一杯だし・・・」

 セリーは自身を含むこの世界の人族が、アセレアの持つ"人族に対する認識"通りであることに気にしていた。言い終えたセリーはアセレアの顔を見ると、悲しそうな顔をしつつ謝罪する。

「ごめんね、アセレアお姉ちゃん。」

 そんなセリーに、アセレアは微笑みを崩さず再び問いかける。

「なんでセリーが謝るんです?」

「だって・・・」

 セリーもなぜ謝ったか理由は分らなかった。ただ謝らなければならないという気持ちのみがセリーの中にはあったのだ。アセレアはそんなセリーの優しさを少しくすぐったく感じながら、セリーの頭を撫でつつ話を締めくくった。

「みんな、セリーみたいに優しい心の持ち主であればよかったのにね。」



 その日の夕方、アセレアとセリーは宿場町にたどり着いた。規模は小さいながらも商店が建ち並び、道端に広げられたテーブルでは男達が酒をあおっている。宿場町のはずれにある小さな宿の前に着くと、アセレアは迷いなく宿の扉を開いた。

「嬢ちゃん達、ふたりかい?」

 暇そうにカウンターで帳簿をめくっていた宿の主人が、アセレアとセリーの姿を一瞥すると声をかける。

「ええ、部屋は空いているかしら?」

 主人は帳簿をめくりなおし空き部屋を確認すると、アセレアに告げる。

「一部屋なら空いてるぞ。ベッドは1つしかないが、それでいいなら銅貨7枚だ。」

 アセレアはセリーが頷くを確認すると、宿の主人を見るとうなずく。

「ではそこで。お支払いは先でいいかしら?」

「ああ、前金で頼む。そこの廊下の突き当たりだ。」

 宿の主人の指さす先を確認すると、アセレアは主人に注文をつける。

「それと、できたらお湯をいただけないかしら?身体を拭いたいの。」

 アセレアの注文を聞いた宿の主人は一度カウンターの奥に行く。そして水の音がした後、手に大き目の木桶を持ちカウンターに現れる。

「ほら。この一杯はサービスしてやるよ。これ以上は別料金だ。」

 そういうと、手の空くセリーに木桶を渡す。アセレアは主人のサービスに礼を述べると、セリーを引き連れて割り当てられた部屋へと向かった。

 二人の割り当てられた部屋は、シングルベッドにサイドテーブルだけのシンプルな造りで、主人が述べたとおり少し手狭であった。アセレアはセリーからお湯の入った木桶を受け取りつつ声をかける。

「少し狭いけど、我慢してねセリー。」

セリーは首を振ると、にっこりとした表情をアセレアに向ける。

「屋根の下で休めるし、お姉ちゃんと一緒に寝れるし大満足だよ!」



 身体を拭き終わったセリーがアセレアの白い羽に包まれつつ寝息をたて始めた後も、アセレアは1人眠らずにいた。顔を真っ赤にした半裸のセリーの背中を拭いている時よりも、禍々しい魔力を持つ集団が宿場町に近づいていたからだ。セリーの話では魔物は滅多に現れないと聞いていたが、アセレアにはその禍々しい魔力を発する正体について身に覚えがあった。

それから数刻もたたぬうちに甲高い警鐘の音が宿場町に響く。

「魔狼だ!魔狼の群れが近づいているぞ!」

警鐘を叩きつつ必死に叫ぶ男の声。徐々に大きくなる宿場町の喧騒。騒ぎで目を覚ましたセリーを横目に、アセレアは1人呟く。

「やはり魔狼でしたか。」


アセレアがかつて自身の世界で対峙した異形の軍勢。その軍勢の尖兵であった魔物と、この世界に来て初めて対峙したのであった。

イヴの日に出張とかまじ笑えない・・・いやあああ

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