天使の祝福
アセレアはセリーに聞きたいことがあるみたいですね
「そういえばセリー、私も1つの聞いてもいいかしら?」
アセレアの年齢を聞き、その返答に目を点にしているセリーにアセレアは尋ねる。アセレアの声に、セリーが我を取り戻す。
「私にわかる範囲なら・・・」
セリーの言葉にアセレアは微笑みながら頷くと、セリーに問いかけた。
「この世界には"魔法"はあるのかしら?」
セリーは慌てて首を横に振りながら答える。
「”魔法”なんて、神話や童話の世界だけの話ですよ。使える人なんて今まで見たことも聞いたこともありません。」
そして質問の意図に気づいたセリーが、恐る恐るアセレアに尋ねる。
「その・・・アセレアさんは使えるのですか?”魔法”を・・・?」
その問いにアセレアは真顔で頷く。
「ええ。といっても、私は近接戦闘用の補助魔法を一通りと、遠距離戦闘用の魔法と治癒魔法の初歩的なものぐらいかしら。この町に入る際に空を飛んだでしょう?あれも魔法の力を借りたものなの。」
アセレアが述べた”近接戦闘用の魔法"とは、神殿から脱出する際に使用したものである。神官がアセレアに振り下ろした棍棒が彼女の身体に到達する前に砕け散ったのは、自身の身体に纏った”防御魔法”に当たったためであり、またその後に神官と司祭2人の首を殺めるまで捩じりきれたのも、自身の腕にかけていた”身体強化魔法”のおかげであった。だが、未だにアセレア自身納得がいっていないのは、羽に魔力を込めて飛んだ場合と違い、自身の魔力の消費が”通常通り”であったことである。そしてセリーの言葉を聞き、アセレアには疑問点がまた増えてしまった。
「けれどもセリー、貴女にも魔力の力を感じるわよ?他の人族より少し多いぐらいの魔力を。」
「私に・・・魔力・・・?」
アエレアは頷いた。セリーだけではなく、他の人族も魔力を秘めていることをアセレアは感じ取っていた。だからこそセリーはともかく、人族の中でも魔法が使える人がいるはずだと思っていたのだ。だがセリーの話ではこの世界には魔法は存在していない。存在していない魔法のために魔力が存在する。完全に矛盾していた。考え込むアセレアにセリーが申し訳なさそうに声をかける。
「アセレアさん、その、魔法ってどういうものなんですか?おまじないとかとは違うんですよね?」
セリーの言葉にアセレアは考えを中断する。
「そうね。実際に見せてあげたほうがいいかもしれないわね。」
そういうとアセレアは自分の飲みかけのコップをセリーの前に置く。そしてコップの中の水に意識を集中する。
「このコップがどうしたんです・・・・え・・・・えええ!?」
セリーの目の前で、コップ中の水から一本の水の花が花を咲かせる。
「私は水関係の魔法は簡単なものしか使えないけれど、もっと極めれば水が無くても水を出せたり、その水を凍らせて飛ばすとかもできるわ。」
「はぁ・・・すごいですね・・・本当に神話や童話の中のことが使えるのですね・・・。すごい・・・。」
目の前に咲く花に見惚れつつセリーは言葉を漏らす。アセレアが意識の集中を解くと、水の花は形を崩しコップの中に戻る。セリーは落胆の声を漏らした。そんなセリーにアセレアは微笑みながら声をかける。
「これくらいだったらまた見せてあげるわ。それにセリーも魔法が使えるようになれば自分でも・・・。」
「私に使えますかね・・・?勉強も何もしていないのに・・・」
「確かに使う魔法が高度になるほど努力が必要よ。だけど魔法自体の使える使えないとは別問題よ。”きっかけ”みたいなものが必要なだけだから。」
セリーの表情が明るくなるが、アセレアの最後の言葉に引っかかる。
「”きっかけ”・・・・?」
「だけど、セリーはもう条件は満たしているはずだから、あとは練習だけね。」
何か特別な出来事でもあったっけ?とセリーは首をかしげる。アセレアは最期に残っていたパンのかけらを食べ終えるとセリーに言った。
「私の種族では『師とするものから”祝福”を授かると魔法を使えるようになる』とされているわ。人族に対しても有効かは分らないけど、昨晩"祝福"は授けたからあとは練習次第だと思うわよ。」
セリーは驚きを隠せない。
「いつの間にそんなことを!?!?」
セリーのその言葉に、アセレアはセリーが”祝福”とは何かを知らないことに気づき、彼女が思い出せるようにヒントを与える。
「あらぁ?昨晩求めてきたのはセリーじゃない。」
その言葉にセリーは、アセレアを昨晩行った行為を思い出し、顔を赤らめてポツリとつぶやく。
「まさか”祝福”って・・・」
呟いたはずの言葉をしっかり聞いていたアセレアは、セリーは笑みを浮かべながら告げた。
「そう、貴女が求めてきた接吻。つまりキスよ。」
「アセレアさんには、私のほかにも”祝福”を与えた人はいるんですか・・・?」
寝床として貸してもらった軒先の下で、白い羽とアセレアの体に包まれたセリーはアセレアに聞く。
「・・・1人だけいたわ。セルティといってね。ちょうどセリーぐらいの背丈の子よ。」
アセレアは星空を見上げつつ、自身の本来の世界に残してきた最後の最後まで姉のように慕ってくれた妹分の姿を思い出す。
「・・・そのセルティさんは、アセレアさんにとってどんな方だったんですか・・・?」
「・・・そうね。セルティは妹みたいなものだったわ。彼女も私のことを”姉様”って呼んでいたし、きっと姉のように思ってくれていたと思うわ。最後までね・・・。」
アセレアの気持ちを察したのであろう。アセレアに包まれていたセリーが身体をアセレアのほうに向けると勇気をだして口を開く。
「あの・・・私も・・・アセレアさんのこと、姉のように思っています・・・。だから・・・そんなにさみしい顔をしないで・・・アセレア・・・お姉ちゃん・・・?」
アセレアはセリーの優しさで目が熱くなるのを隠すようにセリーを抱きしめる。抱きしめられたセリーはアセレアの温もりに身体を預けた。
急な仕様変更を前に天使アセレアが舞い降りたのだった!
とかなんないかなー




