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天使の告白

色々打ち解けたアセレアとセリーの新たな一日が始まりました。

 ニクトの町の夜が明け、人々の1日が始まる。アセレアとセリーは昨晩過ごした路地裏から、通りを抜け、人通りの多い大通りに至っていた。

「そういえば、どうして昨日はあんなに取り乱していたの?アセレアさんらしくもない。」

 セリーが思い出したかのようにアセレアに声をかける。昨晩はアセレアの突然の口付けで聞けずにいたことだった

「どんな諸行をしたにせよ、私は人族の方を殺めたのですよ?憎くはないのですか?」

 天使族は種族間の繋がりが強い種族であった。新たな命が生まれれば皆で喜び、失われれば皆で悲しみ、種族が危機に瀕すれば種族を挙げて運命に抗った。アセレアが戦場に立っていたのも種族を守るためであった。自らがそうでこそ、アセレアは人族にも同様の意識があるのかと思っていた。そうセリーに告げると、セリーはさも当然といった顔でアセレアに告げる。

「んー、人族にはそういう"同族意識"ってないと思うよ?もっと小さい"家族"とかの中にならあったりするけど・・・」

 セリーのその言葉を聞き、アセレアは顔を赤らめ俯いた。セリーはその様子を見て1つの考えに思い当たり、昨晩の仕返しとばかりに聞いてみた。

「もしかしてアセレアさんは、私と一緒に居られないと思ったから、取り乱したってこと?」

 セリーの言葉にアセレアは慌てて口を開く。

「それはちが・・・いいえ、そうかも知れません。私にもよく分からないのです。命を奪うこと事態には慣れていたはずですが・・・。ですが、昨日はセリーの顔が浮かんで・・・その・・・」

 いつもの凛としたアセレアには珍しく、歯切れの悪い返答であった。だがセリーにとってはとても嬉しいものであった。

 そうこう会話をしているうちに、2人は掲示板の前にたどり着いた。

「背中の羽を気にしないでいいんなら、どんな仕事でも大丈夫だね!」

今日からかつてセリーが渡した服を纏っているアセレアにセリーがそう聞く。昨日まで纏っていた藍色の外套は、アセレアが脇に抱えている。

「ええそうねセリー。けど目立たない仕事がいいかもしれないわね。」

 さすがに昨日の今日で目立つことは避けたかったアセレアはセリーにそう注文をつける。そして2人は掲示板からクエストボードを選び、仕事へと向かっていった。


 その頃神殿では、無惨な3人の遺体が発見されていた。だがその死因が"何者かに首を捻り殺される"という常軌を逸したものであったため、その後しばらく犯人探しを行っていた神殿と領主軍の捜査線上にアセレアの名が上がることはなかった。


 その日の仕事を終えたアセレアとセリーは、手元のお金を数えながら、屋台の前のテーブルで、夕食を食べていた。

「それでアセレアさん。今後はどうする?」

 口に含んだパンを飲み込んだセリーがアセレアに問いかける。

「そうね・・・しばらくお金を貯めて、必要なものを揃えて、それからこの町を出ようと思います。」

 今日1日羽を出して過ごしたが、誰にも捕まらずに過ごせているということは、どうやら自分は現状追われてはいないようだった。だが、いつ司祭殺しの罪で再び追われるか分からない。

「じゃあ、私は明日から一回、自分の家に戻ってみるよ。洋服とか、旅に役立ちそうな物とか、持っていけそうなものも色々あるしだろうし、お父さんとお母さんにお別れ言っておきたいし。」

 セリーはスープをすすりながらそう提案する。

「セリーは本当に私に付いてくるのですか?そのまま元の町に残ってもいいのですよ?」

「もちろん!アセレアさんの行くところが私の行くところだよ!それにアセレアさんの一族にもあってみたいし!それでどこにいるの?アセレアさんの一族は?」

 そのセリーの問いにアセレアは食を止めた。真実を告げるべきか迷ったアセレアであったが、"全てを抱え込まないで"と言ってくれた彼女にだけは真実を伝えておきたかった。そしてアセレアは意を決したように告げる。

「セリー、私は鳥人族ではありません。」

 アセレアの告白に、セリーは驚き、手に持つパンをテーブルに置く。

「そうなの!?羽があったからてっきり鳥人族なのかと思ってたよ!じゃあ、なんていう種族なの??」

「私は・・・・天使族。天使族の兵士なの。」

 そしてアセレアは、自分がかつて訓練を詰んだ兵士であったこと。戦場で瀕死の重症を負い、戻った砦でその命を終えようとしたこと。気づいたらこの世界にいたこと。この世界がどうやらアセレアの世界とは違うこと。それら全てをセリーに語った。

「だから私は、元の世界に戻る手段を探しに回ろうと思うの。もちろん、すぐには見つからないかもしれないし、もしかしたら無いのかもしれない。けど私は諦めたくないの。」

 アセレアはそう言葉を締めくくるとセリーの様子を伺った。セリーは最初から最後まで呆然とした様子で聞いていたが、やがて口を開いた。

「そんな・・・私・・・天使様に色々失礼なことを・・・」

 セリーの言葉にアセレアが苦笑する。

「"様"なんてつけないでセリー。私は天使族でも身分が低いものだったのよ。"様"なんてつけられる身分ではないわ。それにこの世界の御神と私には何の関係もないわ。今まで通り、普通に接してちょうだい。」

「けど!私アセレア様に今まで・・・むぐぅ!!!」

反論しようとするセリーの口に、アセレアは自分のパンを押し込んだ。パンが口を塞ぎ反論できないセリーにアセレアが微笑む。やっとパンを食べ終えたセリーが口を開く。

「わかりました。じゃあ・・・アセレア・・・さん。1つだけ教えてください。」

「なにかしら?」

「アセレアさんって、その、私より少し年上ぐらいに思っていたんですが・・・その・・おいくつなんですか・・・?」

 セリーは自分がかつて読み聞かせられた、神話の一説にある"御神より遣われし天使は、その姿を変えず常にこの世を見守ってくださっている"という言葉を思い出し、本当にアセレアが天使なのかを図ろうといたのだ。

セリーの言葉にアセレアは困った顔をすると、曖昧にセリーの質問に答えた。

「そうね・・・天使兵になってから280年は経ったから・・・その前の年と足すと・・・んー・・・」


 アセレアの答えは曖昧であったが、セリーにはもはや返す言葉が思い浮かばなかった。

世間は休日でも、私に休みはありません!

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