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天使と少女の路地裏での夜

アセレアとセリーは無事再会しましたが、アセレアの様子がおかしいようです。

「・・・アセレアさん、いったい何が・・・」

 セリーの問いにアセレアは口にのみ笑みを浮かべる。

「私の事はどうでもいいの。貴女さえ無事ならそれでいいの。」

「えっ・・・?」

 セリーには全く理解できなかった。だが先ずは彼女の血塗られた格好どうにかしなければならない。そう思ったセリーはアセレアの手を握り走り出した。


「これは・・・」

 路地裏の物陰で、セリーはアセレアの血を井戸水で濡らした自身の予備の服で拭う。アセレアは傷だらけで、背中の羽の一部も赤く染まっている。

「アセレアさん、いったい何があったの?」

 セリーに血を拭われていたアセレアはその言葉に身を固くし、頑なに答えることを拒否する。セリーそんなアセレアを諭すように言葉をかける。

「どんな現実でもいいの。私はアセレアさんに何があったか知りたいの。」

 一瞬アセレアの目に生気が戻るが、またその生気を失ってしまう。

「ですが・・・」

 本当はすぐにでも打ち明けたかった。だがアセレアはセリーの同族を殺めたのだ。そんな現実をすんなり言えるわけがなかった。きっとセリーから軽蔑されるだろう。それだけならいい。もしかしたらアセレアが殺めた男たちのように、種族の復讐のために襲い掛かってくるかもしれない。

 そんな迷いを打ち消すかの如く、セリーは畳みかけるようにアセレアに言葉を投げかける。

「いいから言って!」

 そう言われたアセレアは、ポツリポツリと自分の身に起きた全てのことを吐き出した。


  仕事に向かったら罠であったこと。

  地下で吊るされ殴られ続けたこと。

  殴った相手と、事を操る者たちを殺めたこと。


「そんなことが・・・」

 いつのまにか、セリーの手が止まっていた。

「ええ・・・」

 アセレアは空に浮かぶ星々を見つめながら、言葉を続ける。

「私は過去にこう教わりました。『人族は争いを好み、他種族を拒絶し、強者には媚びへつらい、弱者には容赦しない。そして信仰の心でさえ自分達の利とする』と。だけどセリー。あなたは違った。」

「えっ・・・?」

「貴女は、傷つく私を救ってくださいました。私のためを思い、貴重なお金で外套や食べ物も買ってくださいました。今もこうして私を清めてくださっています。なのに貴女には裏がありません。純粋に私を思ってくださっています。」

 アセレアはさらに言葉を続ける。

「それで私は分らなくなりました。私が教わったような、私が殺めた彼らのような人たちが人族の本性なのか。セリー、貴女の様な方が人族の本性なのか。」

「・・・」

 セリーは答えに困っていた。確かに人族にはアセレアの言ったような一面もある。だが、全ての人族がそうではないはずだ。そう彼女自身そう思いたかった。だがセリーは”そうではない”と言える自信がなかった。そんなセリーの心情を察したのか、アセレアはセリーの言葉を待たずに告げる。

「ただ、今後も今回のようなことが起きるでしょう。ですからセリー、貴女とはここまでです。」

「えっ・・・・?どういうこと・・・・?」

「これ以上私と一緒にいない方が貴女のためです。貴女のために私が傷付くのは構いません。ですがセリー、貴女が傷付くのはよくありません。私に人族の新たな姿を見せてくれた、そんなあなたを失いたくないのです。」

 理由にしては滅茶苦茶で、完全に我儘であるとアセレアは自覚していた。だがアセレアの本心をそのまま言葉にした結果であったし、きっと優しい子であるセリーならば、私の我儘を聞いてくれるだろう。そう思っていたため、セリーからでた言葉はアセレアにとって予想外のものだった。

「ばか!!!!」

 セリーは顔を真っ赤にし、半分泣き声交じりの声で言葉を続けた。

「アセレアさんは馬鹿よ!どうしていつもそうやって自分だけで背負い込もうとしようとするの!?それに約束したじゃない!ずっと一緒に居てくれるって!あれは嘘だったの!?私の唯一の望みをそうやって断ち切るの!?」

 セリーとの約束を忘れるはずはなかった。だが自分はセリーの同族を殺めたのだ。セリーが気にしないはずがない。そう思いつつアセレアは震える声でセリーに問いかける。

「ですが、私はあなたの同族を殺めたのですよ?」

 苦笑したセリーはアセレアの頭を抱き、自身の胸に押し付ける。そして彼女の胸に埋まる大切な人に精一杯の優しさで答える。

「アセレアさん、もう無理しないで。1人で全てを抱え込まないで。私も足手まといにならないように頑張る。だから。私を・・・1人にしないで・・・」

「セリー・・・。セリー・・・・・・」

 アセレアもセリーの背中に手を回し、2人抱き合ったまま、そのまましばらく時を過ごした。二人の泣き声だけが夜空に響いていた。


「セリー、貴女には救われてばかりですね。」

セリーの胸から頭を上げたアセレアの目には生気が戻っていた。そして謙遜するセリーにアセレアが言葉を続ける。

「セリー?私にできることがあれば何でも言ってくださいね?」

その言葉を聞いたセリーは嬉しそうな表情で悩むと、一つのお願いをアセレアに言う。

「それじゃあ、また一緒に寝てほしいな。」

セリーの可愛らしいお願いに、アセレアは意外そうな顔をしてセリーに告げる。

「あら、そんなことでいいのですか?それぐらいでしたらいつでもしてあげますのに。」

「むっ、そんなことって!じゃあキスでもしてもらおうかな!」

せっかくのお願いを”そんなこと”扱いされたセリーは頬を膨らませた後に、意地悪そうな顔をアセレアに向ける。セリーにとっては勿論冗談のつもりだった。だからアセレアの顔が自分に近づいて来た時にはとても焦り、目を瞑ってしまっていた。

 セリーの顔に自身の顔を近づけたアセレアは、その唇をセリーの唇へ重ねる。短いキスを終えたアセレアがセリーの顔を見ると、目を瞑ったまま固まり、赤くなったセリーの顔があった。



翌朝、路地裏の物陰に、アセレアの羽に包まれ眠るセリーと彼女を抱いて眠るアセレアの姿があった。滅多に人が通らない路地裏の物陰であったため、幸せそうな二人の表情は他人に見られることはなかった。

今日はここまで!

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