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天使への拷問

アセレアは襲われて捕まってしまったようです

 ニクトの町の神殿の地下にある牢獄に声がこだまする。

「貴様の目的は何だ!さっさと吐け!異教徒め!」

 手首から吊るされたアセレアに、かつて彼女が伸した若い神官が、棍棒を振るう。アセレアの纏っていた藍色の外套は剥ぎ取られており、振るわれた棍棒がアセレアの素肌に生傷を増やしていく。

「鳥人族でもなく、かといって人族でもない!どうせ混血だろう!お前は存在自体が異端なのだ!ほら、なんか言ったらどうだ!」

 棍棒が再度アセレアの胴に振るわれる。その打撃を受けたアセレアは、口にたまっていた血を吐き捨てると、生気のない目で男を見つつ口を開く。

「そう、私は勘違いしていたわ・・・」

「ほう、何をだね?自らの過ちをかね?」

 いよいよ懇願が聞けるのかと、神官は再び振り下ろそうとしていた腕を止める。だがアセレアの口から出た言葉は彼の望むものではなかった。

「人族は争いを好み、他種族を拒絶し、強者には媚びへつらい、弱者には容赦しない。そして信仰の心でさえ自分達の利とする。あの子の優しさでそんなことはないって思っていた。だけど、それは勘違いだった。」

 若い神官が激昂する。

「だったらどうする!」

 そして手に持つ棍棒をアセレアに打ち付けようとする。だがその棍棒はアセレアの身体にたどり着く前に砕け散った。突然の出来事に神官は驚愕の表情を浮かべる。アセレアは表情を変えずに手枷を引きちぎると、その残骸を放り投げ口を開く。

「さぁ、貴方が信じる神に求めなさい。貴方が御神の元へたどり着けるように。」

 アセレアの神官は震え、声を出せないでいた。そんな神官の返答を待たずに、アセレアは一方的に告げた。

「天使兵アセレア、参ります。」



「はっはっは!いやはや、貴殿の策に見事に掛かりましたな!」

 セリーの町の司祭は目の前のグラスに注がれた酒を煽る。

「しかしおかげで出費がかさみました。店を複数貸しきりにし、人を雇って監視させていたのですからな。」

 ニクトの町の司祭も同じく酒を煽りながら答える。

「まぁ今回の出費は私が受け持つのでご安心を。なぁに、ちょっと神のお告げを出せばすぐに集まりますよ。」

 セリーの町の司祭はそういうと、そのでっぷり太った腹を叩いた。

「なるほど、そういうことでしたの。」

 2人の会話をドアの向こうの別な声が遮る。

「誰だ!?」

 ニクトの町の司祭が鋭く声を発すると同時にドアが開く。そこには血まみれのアセレアの姿があった。

「貴様!なぜここにいる!貴様は地下にいるは・・・」

 セリーの町の司祭がそこまで言ったところで言葉を発せなくなる。アセレアが引きずってきた、かつて神官であった肉塊が目に入ったからだ。首があらぬ方向に捻れ、明らかに事切れているのが分かる。

「・・・貴様、自分のしたことが分かっているのか?」

 ニクトの町の司祭が絞り出すように声を出す。

「ええ、存じているつもりです。なので単刀直入に伺います。此度の私とセリーの出来事について、他に詳細を知っていらっしゃるかたはおりますか?」

 アセレアの問いに2人は沈黙する。アセレアはその2人めがけ、引きずってきた肉塊を放り投げた。堪らずニクトの町の司祭が声を上げる。

「他には知っている者はおらぬ!先程指名手配も解いたから、追われることはもうない!だから命だけは・・・!」

 アセレアは満足するように頷く。

「それを聞いて安心しました。セリーの身に何か事が起きてはいけませんからね。」

 そしてアセレアは入ってきたドアへと向かう。アセレアとしてはこれ以上追われる身にならなければそれでよかったし、目の前の2人が改心してくれることを願っていた。だがそんなアセレアの淡い希望はすぐに打ち砕かれる。

「この売女があああああああ」

「死ねええええええ」

 アセレアが後ろを向いたことで奇襲できると思った司祭2人が近場の物を手に取り、アセレア目掛け飛びかかってくる。アセレアは深いため息をつくと、身体の向きを変える。そしてセリーの町の司祭のほうへ急接近すると、彼の身体を踏み台にし後ろにつく。

「やはり、改心しては頂けませんでしたか。・・・」

 そういうとアセレアは目の前の頭をつかみ、腕に魔力を込め捻る。すると首は少しの抵抗の後、本来は回らぬ方向まで捻れる。

「さて、最後に祈る時間が必要ですか?」

 目の前で事切れた肉体から手を離すと、アセレアはニクトの町の司祭へと向き直る。

「この悪魔め・・・!」

 ニクトの町の司祭は声を震わせながら声を上げる。アセレアは心外そうな顔をして彼に告げた。

「いいえ、私は天使です。天使族の兵士、アセレアです。」

 そういうと彼女は目の前でへたりこむ男へと歩みを進めた。



「アセレアさん遅いな~」

 掲示板の前で、セリーはそう呟く。彼女は自身の仕事を終えて、アセレアとの約束通り掲示板の前に来ていた。だがいくら待ってもアセレアが訪れる気配がない。

「もしかして私、また一人ぼっちになっちゃうのかな・・・?」

 辺りも暗くなりはじめ、人通りもまばらになっていく。セリーは掲示板の根元に座り込むと、膝を抱えて顔を埋めた。

 それからどれぐらいの時が経ったであろう。辺りは暗闇に包まれ、セリーはヒタヒタと聞こえてくる音に気付いた。セリーが恐る恐る声を上げる。

「アセレアさん・・・?」

 その声を聞いた音の主が、音を加速させセリーに近づく。そしてセリーを覆うように抱きつくと声を上げた。

「すっかり待たせてしまいましたねセリー。」

 セリーは待ち望んだ声の主の顔を見ようと顔をあげ、小さく悲鳴を上げた。

 そこには血だらけで生気のない目をしたアセレアの姿があった。

今日はもう一話行けるかな

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