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プロローグ

それは突然起きた出来事

「一体何が・・・起きたっていうの・・・?」

 アセレアはその光景に絶望していた。眼下には今まで友と呼んでいた者や敬拝していた指揮官の亡骸が無数に転がっており、うめき声すらも聞こえない。その数マイル先には敵軍である異形の軍団が迫っていた。

「とにかくこの状況を・・・本陣に伝えないと・・・先程の魔法についても含めて・・・」

 アセレアは自身の体を確認する。今まで愛用していた魔力鎧はその役目を終え、無残にも残った破片のみを一部に残している。武器である魔力槍も先程の攻撃を受け跡形もない。また先程の攻撃以降、右腕と左脚の感覚がなく、慎ましい胸のあたりにも痛みがある。だが奇跡的にも背中の羽には感覚があり、いつものように動かすことにより浮かび上がることができた。

「急いで・・・急いで伝えないと・・・」

 天使兵のアセレアは、段々と冷えていく身体に鞭をうち、本陣へと飛び立った。


“異形の軍団のただ一回の魔法攻撃により、前衛部隊が全滅した”


 前衛部隊へと伝令へ赴こうと急いでいた伝令兵が「一の砦」へ逃げ帰り伝えられたその報告の後、貴族出身の司令官は気づかないうちに居なくなったために「一の砦」では軍としての統率が取れなくなっていた。

「これはいったい・・・」

 満身創痍のアセレアは誰もいない指令所を後にし、辺りを見渡し呆然としていた。

 そこには出撃前までの規律と秩序はなく、我先にと「二の砦」へ続く道へと飛びだっていく兵達や、馬に跨り逃げる兵達の喧騒があった。そんな時である。聞きなれた少女の声が聞こえた。

「アセレア姉さま・・・?姉さま!!!!」

 アセレアの振り向いた先には、まだ幼い顔立ちの革鎧に弓を携えた少女が驚きの表情とともに立っていた。

「セル・・・ティ・・・」

 アセレアは見知った顔を見た安堵感からか、そこで意識を手放した。


「・・・ここは・・・?っつつ!」

 アセレアが意識を取り戻した時、視界には見慣れぬ天幕の天井が見えた。そして体を起こそうとしたアセレアは、思うように体が動かず簡易ベッドから落ちてしまった。

「姉様!!動いてはいけません!!!」

 セルティが駆け寄ってきて慌てて簡易ベッドの上にアセレアの体を戻す。アセレアは痛みで乱れた息を整えつつ、セルティに言葉をかける。

「ありがとうセルティ。あなたに再び会えたことに感謝を。ところで今の状況は?」

 セルティは表情を曇らせつつも、はっきりとした声で答えた。

「前衛部隊についての報告を受けた司令官殿がいつの間にか居なくなり、副司令官殿が"一の砦"の"放棄"を決定なさいました。この砦には私たち以外はいないと思われます。」

 その言葉を半ば悟っていたアセレアは、その後のことを踏まえてセルティに言葉をかける。

「わかったわ。ではあなたも早く二の砦へ行きなさい。そろそろ”アレ”が発動するわ。」

「いやです。姉様も一緒に!」

 そんなセルティの頬を、アセレアは唯一動く左手で撫でる。

「動けない私は見捨てられた存在なのよ。だからあなただけでも急いでこの砦から離れなさい。これは命令よ。」

 セルティを撫でるアセレアの手に雫が幾つも落ちる。

「でも・・・でも・・・・・」

 アセレアは上半身を無理やり起こし、左手のみだがセルティを抱きしめる。そしてセルティの耳元に向かって囁く。

「ありがとうセルティ。孤独だった私に妹ができたみたいで・・・だから生きて・・・私の分まで・・・」

 そしてとても短い呪文を唱える。その呪文の意味を知るセルティは目を見開き叫ぶが、その声がアセレアに届くことはなかった。こうしてセルティは砦郊外へと転送された。


砦放棄時発動型禁忌魔法。


 アセレアが”アレ”と呼んでいたものである。この魔法が唱えられると、発動地点の周辺数マイルが”消滅”されるとされている。”されている”という言葉が表すように、今まで発動したことはない。発動の条件は”砦司令官または副司令官により砦が放棄”され、”砦内に敵軍が侵攻する”ことが条件である。

 アセレアが感じる異形の軍団の魔力は砦のすぐ近くまで達しているため、この魔法が発動するのも時間の問題だった。

「セルティ・・・大丈夫かしら・・・」

 先程自分で転移した妹分の魔力を探したが、異形の軍団の魔力が強くて探知することができない。魔力が十分あれば自身も転移して脱出することも考えたが、残りの魔力から考えて無理であったため、妹分だけでも転送したのだった。

「父様、母様、今からそちらへ。」

 そう呟くと、簡易ベッドに横になり目を瞑った。ほどなくして視界が白くなり、アセレアは自身の生が終わったと感じた。


 しばらく後に声をかけられるまでは。

仕事の合間にもそもそ作成する予定

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