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結・夏たり

はい、どうもこんばんは。なんとかここまでたどり着きました。4話です。

今回で『かたりてかたる』完結です。ただ、書き上がってから改めて考えると、だいぶ駆け足になってしまったなーと。さすがに4話構成は無理があったかな……。

と、そんな感じですが最後まで楽しんで頂ければ幸いです。

「ねえ、ノブ」


 そう言いながら笑いかけてくるラティル。

 なぜか身体が動かない。冷や汗が背中を伝う。

 どうしたんだ、僕。『どうしたの?』、そう問い返すだけ。今まで通りだ。

 それだけのことなのに。笑顔が中途半端に強ばった僕の身体は、どうしても言うことを聞いてくれない。


「ありがとう」


 世界が、スローモーションの加工を施されたようにゆっくりと進む。

 笑顔を絶やすことなく僕の方へ歩み寄ってくるラティル。

 異常に鼓動が早くなる。


「ノブが手伝ってくれなかったら間に合わなかった」


 少し背伸びをして、僕の首に両手を回そうとするラティル。

 身体は動かない。しかし、動悸は高まり続ける。


「ノブ――」


 ラティルの両手が僕の首に回る。

 脳がカンカンと警鐘を鳴らす。嫌な汗が止まらない。


――動け。動け動け動け!!


 そんな僕の思いも虚しく、

世界の速度が戻った。


「大好き!」


 ラティルは僕の首に手を回し、そのまま抱きついてくる。

 その瞬間、僕の身体は拘束が解けたように動き出す。しかし、急なことに足を踏ん張ることができない。


「うわあっ!?」


「きゃあっ!」


 二人でそのまま床に倒れ込んでしまった。


「い、てて……」


 前にもこんなことなったなぁ……。

 そんなことを考えながら上体を起こすと、僕に抱きついたままのラティルと目が合った。


「…………アハハハッ!」


「アハハハハハッ!」


 二人でほぼ同時に笑い転げる。

 さっきまでの嫌な予感も、身体の硬直も嘘のように晴れやかな気持ちだった。


「アハハハ……もう、しっかり受け止めてよね、ノブ」


「ごめん、突然のことだったからさ……」


「軟弱だなー、ノブは」


「そ、そんなことないよ!」


 軽口を叩きあいながら立ち上がる。

 背中から倒れてしまったため不安だったが、ラティルの左手の花束は無事だったようだ。

 ひとまず安心しながら、声をかける。


「そういえばさ、夜明けまでに完成させなきゃいけないならもう時間がないんじゃない? 早く渡しに行ってあげなよ」


 すると、ラティルは一瞬キョトンとした顔をした後、花束に目を落とした。


「あぁ……この花束は誰かに贈るものじゃないんだ」


「え……?」


「この花束を完成させること、それが私の最後の役目だったんだ。……って言っても意味わからないよね。ノブには感謝してもしきれない。だから、全部教えてあげる。この花束のことも、私のことも」


*


「信じられないかもしれないけどね、私もう百年以上も生きてるんだよ。ううん、生きているわけじゃないのかな。ただ、この学校ができてからの百二十年間、私はずっと存在してきた」


 ラティルの告白はそんな言葉から始まった。

 にわかには信じ難い。でも……


「ふふ、信じられないって顔だね」


「そんなこと……!」


「ノブは優しいね。信じても信じなくても構わない。私はノブに伝えたいんだ。もし、本当に信じてくれるなら……ありがとう」


「………………」


 その言葉を聞いて、どんな荒唐無稽な話でも最後まで聞こう。そして、信じよう。僕はそう決心した。


「話を戻すね。この学校ができた時からずっと存在してきた私は、ここに通う皆を見守り続けてきた。皆は幸せそうだった。でも、中には辛いこと悲しいこともあったし、心が真っ黒になっちゃうほど悲痛な年もあった」


 その言葉を聞いて、僕には思い当たる節があった。


「それって……」


「そう、このスイートピー達。この花はね、皆との……皆の思い出なんだ」


「そう、だったんだ……」


「私はその思い出を最後に持っていたかった。だから、思い出を集めて花束を作ることにしたの」


 ラティルの言葉が頭に引っかかる。

 最後って……なんだ?


「ねえ、ラティル。さっきも言っていたけど、『最後』って」


「知ってる、ノブ? 明日……ううん、もう今日だね。今日日が昇ったら校舎の建て替え工事が始まるの。その時に私は、消える。」


「……っ!」


「だから、消える時には皆の思い出を持っていたいって思った。……絶対に間に合わないって、半分諦めてた。ノブ、本当にありがとう。皆の思い出を抱いて消えられて、私は幸せ」


「え、い……や、待って」


 あまりに突然のことに、声を発せられない。

 うわ言を呟きながらラティルに手を伸ばす。


「ごめん、ノブ。もうすぐ時間切れみたい」


 申し訳なさそうな、困ったような声色でそう告げられる。僕はラティルの顔を見られない。見たら、泣いてしまいそうだった。


 と、伸ばした僕の手がラティルの両手に優しく包みこまれる。そしてその手が離れると、僕の手の平には一輪の花が乗っていた。


「これは……?」


「それはね、私が見つけた最後の一輪。百二十一本目――貴方達の花」


 僕の手の中にあるのは、他と同じ形をしたスイートピー。しかし、他の百二十本とは決定的に違う点があった。薄い黄色をしたその花は、半透明に透けていた。


「ノブ、貴方達の花はまだ完成していない。その花は美しい黄色にもなるし、真っ黒く染まってしまうかもしれない。でもね、私は確信してるの。貴方達ならきっと、その花を彩ってくれるって」


 そう言ったラティルは僕に手を伸ばし両の頬にそっと触れた。


「だから……ね。泣かないで」


 僕の目からはとめどなく涙が溢れていた。思わず、彼女の身体を抱きしめる。


「嫌だ。消えないで、ラティル。僕は君に消えてほしくない!これからもずっと僕らを見守っていてほしい……!」


「ごめんね、ノブ。私にそれはできない。……でもね、私思うんだ。私は実際に生きている存在じゃない。だから、ノブが私を覚えていてくれる限り私は存在し続けるんだって」


「ラティル…………」


 抱きしめていたラティルの感覚が、ふっとなくなる。

 顔を上げると、ラティルは宙に浮いていた。朝日の光を浴びたその身体が、徐々に透き通っていく。


「その花が何色になるかは貴方達次第。最高の一輪を、咲かせてね!」


「うん、約束するよ。絶対に綺麗な色をつけてみせる」


 僕の決意を聞いたラティルは、ふわっと微笑んで別れの言葉を口にする。


「……ありがとう、ノブ。そして、さようなら」


「うん、ラティル。…………またね」


 それを聞いたラティルは、驚いたように一度大きく目を開き泣き笑いのような表情を浮かべた。と、同時にラティルの姿が完全に消える。

 声にはなっていなかったが、彼女の最後の言葉が僕にははっきりと聞こえていた。


――またね、ノブ。


 僕は右手にある半透明のスイートピーを、決して落とさないように強く、しかし潰してしまわないように注意を払って握り締めた。

 すると、突然急速に意識が薄れ始め――



***



 …………………………………………

 ……………………………………

 ……………………………………………………??


「う…………ん……?」


「お! 昇、目が覚めたか!」


「え、ホント!?」


「よかった!」


 声が聞こえる。よく知った声、陸也達だ。

 頭がはっきりとしてきて、目を開くと目の前に陸也の頭が見えた。よく見回すと、どうやら僕は陸也に背負われているらしい。右側から楓華が、左側から凪沙が心配そうにこちらを見上げてくる。


「あれ……僕どうして……」


「ん? お前、怪談を話してたらだんだん目の焦点が合わなくなってきてよ、最後には怪談を話し終えたところで倒れたんだ。覚えてないか?」


「うん、ごめん。何も覚えてない。話を始めた記憶はあるんだけど……」


「そうか。まあ何ともなさそうでよかったわ。お前が倒れた時に楓華と凪沙が大騒ぎでよ、大変だったぜ」


「ちょっと! あんたも大慌てだったじゃない! 何自分だけなんともなかったみたいな言い方して!」


 途端に楓華が噛みつく。彼らはいつもどおりのようだった。

 でも、ということは……


「夢、だったのかな……」


「ん? なんか言ったか?」


「い、いやなんでもないよ」


 小さく呟くとすぐに陸也が反応する。しかし、いくら陸也達でもこんな話信じてくれないだろう。


「そういえばさ、昇。怪談を話し終えた辺りからずっと握っているけど、その手どうかしたの?」


「え?」


 左側を歩く凪沙がそう声をかけてくる。

 言われて自分の右手を見ると、確かに握られていた。首を捻りながらその手を開くと、


「わ、綺麗! その花スイートピーでしょ!」


 右側から覗きこんだ楓華が歓声をあげる。

 そう、僕の手の中にあったのは鮮やかな黄色のスイートピーだった。当然半透明に透き通ってはいないが、僕はそれがあの出来事が夢ではなかったことの証明に思えた。


 ありがとう、もう歩けるよ。そう礼を言って陸也の背中から降りる。


「ところでさ、全然覚えてないんだけど僕の話した怪談って、LさんとN君が花束を見つけた後ってどうなってた?」


「うん? 確かLさんがN君の首を切ってそこに見つけた花束を飾るみたいな感じだったぞ」


 陸也がそう教えてくれる。意識がない間の僕は、普通に兄から聞いた怪談を喋ったらしい。


「いやー、あの時の昇は凄かったねー。まさに迫真の演技! って感じ」


「うんうん、昇君の目が虚ろなのも相まって相当不気味だったね」


 楓華と凪沙が口々に感想を言い合う。どんな話し方をしていたんだろう僕は。怖いから詳しくは聞かないでおこう。


「そのオチ、訂正していい? 花束を見つけたLさんはお礼に一輪だけN君にプレゼントして、大切な人に花束を渡すために去っていった……ってのはダメかなぁ」


「えぇー? それじゃ怪談でもなんでもないいい話じゃん」


「あ、もしかしてそのスイートピーが関係あるんじゃない?」


「さあ、それはどうだろうね」


 鋭い指摘をしてくる凪沙に曖昧な返事を返す。


「まあいいんじゃねえの? 俺も人が死ぬよりハッピーエンドの方がいいし。ただ、七不思議は全く関係なくなるけどな」


 そう言って屈託の無い笑顔を見せる陸也。


「ありがとう、陸也」


 彼には何度も救われてきた。いつか陸也を助けられるような人間になりたい。そう願う。

 手の中のスイートピーを見ると、あの時の出来事が蘇ってくるようだった。


「ラティル……」


 僕は君のことを忘れない。だから、これからも僕らのことを見守っていて。


――大丈夫、私は皆の側にいるよ。


 そんな幻聴が、聞こえた。


*


 校門の前に到着した。時刻は午前三時。もうすぐこの校舎の建て替え工事が始まる。


「ねえ、最後に校舎にお礼していこうよ」


 楓華がそう提案する。

 すぐに賛成され、僕らは校舎の方を向いて並んだ。

 皆、思い思いの感謝の気持ちを校舎に向けて発する。僕も、胸の内にある気持ちを、思い切りぶつけた。


「今までありがとう! そしてお疲れ様!!」


 三階の音楽室の辺りで、金色の髪が揺れた気がした。

はい、そんなわけで『かたりてかたる』完結です。

最後なのでちょっと解説というか裏設定を語ろうかな、と。どうでもいい人は飛ばして頂いて構いません。

とは言ってみたものの、言うことは3つだけです。HAHAHA(棒)

ついでに言うと、全部スイートピーについてです。

まず、スイートピーの和名は 麝香連理草(じゃこうれんりそう) です。

次に、スイートピーが属するレンリソウ属の学名はラティルスです。

最後に、スイートピーの花言葉は『優しい思い出』、『別れの言葉』、『私を覚えていて』などです。

なので、花に詳しい方ならオチがわかってしまったかもしれませんね。


では、そういう事でなんとか完結することができました。よかったです。

ありがとうございました。


では!

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