転・花足り
というわけで3話、転の回です。
サブタイトルの意味はそのまんまです。今回起きることが丸分かりですね。ナンテコッタイ。
あと、今回時間がすっ飛びまくります。ひとえに作者の力不足です。
楽しんで頂ければ幸いです。
その後学校中を探し回ったLさんとN君は、夜が明ける直前にやっと、音楽室で花束を見つける。なんとか間に合った。そう安堵するLさん。そして、Lさんは協力してくれたN君に言った……
***
「それにしても、スイートピーって色んな色があるんだね」
学校中を駆け回って順調に花を回収しながら、ラティルに話しかける。
現在時刻は午前四時半。作業を始めてからだいたい二時間だ。たぶん半分程は回収できたと思う。
「……うん、そうだね。品種の改良が進んでるから」
基本は黄色や青、ピンク色に中央に黒い模様が入ったもので、中には黄色と青の中間色、青みがかったピンク、黒い模様が比較的小さいものなど色々な種類があった。
「へぇ……ってうわあ!」
「どうしたのいきなり!?」
思わず声をあげてしまった。声に驚いたラティルが寄ってくる。
僕が見つけたのは、
「この花、真っ黒だよ!?」
黒一色のスイートピーだった。
「あー……たまにこういうのが出来るんだよ。なんとなく可哀想だけどね」
それを見たラティルは一瞬目を伏せ、そう教えてくれた。その動作は、まるで何かを祈っているようだった。
「そう……これも、回収するの?」
「うん、これも大切な一輪だから」
そう言って黒いスイートピーを受け取るラティル。
なんだか元気がないように見える。
「よし、じゃあこの教室で二階も終わったね! 次の三階が最後、この調子なら日が昇るまでに集め終わるよ。さあ、行こう!」
落ち込んでいるラティルを励ますために、精一杯明るく次の階へ先導する。
「……わかった! 頑張ろう、ノブ」
「うん、その意気だね」
顔を上げて力強く頷くラティル。やっぱり、ラティルは明るいのが似合う。
最後の階、三階を目指して僕ら二人は階段を駆け上がった。
*
「ほら、次はこの教室だよ」
階段を上がって三階に着いた僕が指さした先は、生物室。うちの校舎の三階は特別教室が集まっている。生物室もその中の一つだった。
教室に入るとすぐに、翼を大きく広げた鷹の剥製が目に飛び込んでくる。僕は、その完成度と深夜という時間が相まって、今にもこの剥製に命が宿って飛び立ってしまうのではないかという錯覚に襲われた。
「特別教室は教室の一つ一つが大きいから、今までよりも注意して探さないとね」
早速探索に取り掛かりながら、ラティルにそう呼びかける。
「………………」
しかし、返事がない。どうかしたのだろうか。
「ラティル、聞こえたなら返事をしてうわあっ!?」
そう愚痴をこぼしながら振り向くと、目の前に人体模型の顔があった。身体の半分がむき出しの筋肉に覆われたその不気味な姿に、僕は思わず悲鳴をあげる。
「アハハ! ノブひっかかったー!」
心底嬉しそうな声と共に、人体模型の陰からラティルが顔を出す。
「すごい大声だったよ。こっちがちょっとびっくりしちゃったくらい!」
「ふざけないでよー……」
僕には負け惜しみのようにそう呟くことしかできなかった。
「……ってあれ?」
「ん? どうしたのノブ?」
「いや……これ、スイートピーじゃないかな」
「え、ホント!?」
僕が人体模型の首の辺りを示すと、すぐにラティルはこちらに回ってきた。
人体模型の通常の肉体の部分と筋肉の部分、その接合部の僅かな隙間にスイートピーがささっていた。
「なんていうか……悪趣味だなぁ」
そう言いながらスイートピーを引き抜く。
「あ……」
そのスイートピーを見たラティルが小さく声を漏らす。
何かあったかと僕も手に持ったそれを見て、そして気づいた。このスイートピーも、黒一色だった。
再び顔を曇らせるラティル。
「黒いスイートピーには何があるの?」
ラティルが悲しんでいる、その理由がどうしても気になって尋ねる。会って数時間しか経っていない少女だが、彼女の暗い表情を見るのはどうしても嫌だった。
「……スイートピーはね……悲しいことがあると黒くなるんだよ」
顔を俯かせた彼女が、小さな声でそう言う。
正直、僕には言っている意味がよくわからなかったが、話を聞くことでラティルが少しでも楽になればと思い黙っていた。
「どんな時でも、悲しいことが全くないことは少ない。だから、スイートピーの中央には黒い模様が浮かぶの。でも、このスイートピーは……悲しすぎたみたい。辛すぎたみたい」
「………………」
「ってゴメンね、こんなこと言ってもノブは意味わかんないよね。今言ったことは忘れて」
「ううん、僕は気にしないよ。真っ黒になっちゃうほどなんて、相当辛かったんだろうね。だったら、尚更僕らが優しく扱ってあげなきゃ」
「うん、そう……だね」
「どう、少しは楽になった?」
「……もう大丈夫。ありがとう、ノブ」
そう言って顔を上げたラティルは、どこか吹っ切れたように見えた。僕が役に立てたのなら嬉しい。
*
その後、生物室の探索を終えた僕らは三階にある他の特別教室でも花を探して回った。その中で、数本黒いスイートピーが見つかった。しかし、ラティルはもうさっきの様に、悲しげになることはなかった。
そして……。
「ここが最後の教室だね」
「うん……」
僕らは、最後の教室、音楽室の前にいた。
「残りの花は何本?」
「えっと、二本」
「……じゃあ、ここで終わりで合ってそうかな」
現在時刻は午前五時二十分。まだ窓の外の景色は暗い。間に合ったようだ。
そして、音楽室に入った僕らは今まで通り花を探して教室中を探し回る。
………………。
「「あ、あった!」」
二人の声が同時に響く。
これでラティルの散らばってしまった花束が、再び完成した。
***
『ねえ、N君』
LさんがN君に話しかける。
N君は、無事に花束を回収できたことを自分のことのように喜んだ。そんなN君につられて、Lさんもニッコリと笑う。
顔に満面の笑みを浮かべたLさんはN君の元に歩み寄り……
『ありがとう。そして、さようなら』
次の瞬間、その場には血だらけのLさん、棒立ちのN君の身体、そして床にN君の頭が転がっていた。
何が起きたのかわからない。そんな表情をしているN君の顔。その表情が変わることは、もうない。
『あぁN君。やっぱり貴方の身体は綺麗』
Lさんは床に落ちたN君の頭を優しく拾い上げる。右手にN君の頭、左手に花束を持ったLさんは、司令塔を失った時のままの姿勢で愚直に立ち続けるN君の身体の前に立ち、かつてN君の頭が乗っていたその首に、左手の花束を突き刺した。
『ねえ見てN君、貴方にはこの花が似合うと思っていたの! ほら、やっぱり素敵! この花達は、貴方の血を吸って永遠に咲き誇るの。素晴らしいと思わない?』
Lさんの声が音楽室に響きわたる。しかし、その声に応えるものは何もない。
興奮したように話し続ける少女。物言うことがなくなった少年の頭と身体。そして少年の血を吸って咲き誇る花々。
彼らの夜が明けることはなかった。
*
その後、この高校の音楽室では毎年八月一日の深夜、頭のあるべき場所に満開の花束をつけたN君の身体が、自分の頭とLさんを探してさまよい歩いているという…………
***
最後に見つけた二輪の花を花束に戻す。ついに完成した花束を見て、僕は思わず笑顔になる。
「よかったね、ラティル。花束が元に戻って」
そうラティルに声をかける。
ラティルは左手に持った花束をそっと抱き寄せ、力強く頷いた。その顔は、今まで見た中で一番の笑顔だった。
「ねえ、ノブ」
満面の笑みで僕に声をかけてくるラティル。
とても喜ばしいこと。そのはずなのに。
一筋の冷や汗が、僕の背中を伝った。
えーと、最後の怪談のパート、正直調子乗りました。書いているうちに楽しくなっていって……
絶対語っている昇君こんなテンションじゃないと思います。ごめんなさい
そんなこんなでなんか3話終了です。
次はラスト。無理矢理締めます←
では!