承・片利
どうもこんばんは。というわけで2話です。
サブタイトルの片利は造語です。片方のみの利益、みたいな感じで字面通りで。
読み方はかたり、言葉遊びですね。はい。
じゃあそんなわけで、楽しんで頂ければ幸いです。
この話はここ、連理高校を舞台にした話なんだ……
ある夏の日の深夜、丁度僕らと同じように二人の生徒が学校に侵入した。
二人の名前はLさんとN君。二人はある目的があって深夜の学校に入ってきた。
その目的は花束の回収。Lさんが、大切な人に贈ろうと用意した花束を学校に忘れてきてしまったという。都合があって、明日取りに行くのでは間に合わない。だから、深夜に回収に来た。
N君は、Lさんに事情を聞いて付き添ってくれていた……
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「あ……れ…………?」
目を覚ますと、僕の部屋ではない天井。やけに高い。それに背中が冷たい……。
「って、ここ教室じゃないか」
並んだ机、前にある黒板、陸也がボールをぶつけて半壊状態の放送スピーカー。完璧に、僕らが学んでいる教室だ。いつの間にか寝てしまっていたのだろうか。
ただ、窓から見える景色は真っ暗だった。
「今何時なんだろ……」
何気なく見た教室の掛け時計の短針は、二の付近に鎮座していた。
「二時十三分?おかしいな、外は真っ暗なのに」
てっきり下校時間ギリギリの七時前かと思ったのだけど。
首を捻りながら携帯を開いて……僕は衝撃に見舞われた。
「ご、午前二時!?」
なぜそんな時間まで学校で寝ていたんだ僕は。
それに、見回りの警備員の人はどうしたのだろう。こんな時間まで寝ていたら、下校時間の時に起こされると思ったのだが。
「……とにかく、お母さんに連絡して帰ろう」
そう思い立って再び携帯を開いたが、
「圏外!?」
携帯の不調かと思い何度か試したが、電波が通じることはなかった。
「まったく、なんなんだろう今日は……まあ、外に出れば連絡も出来るかな。早く帰ろ」
とりあえず校舎の外に出ることを決めた僕が、教室の扉を開けて廊下に踏み出すと……
左側から、白い塊が飛び込んできた。
「うわあっ!?」
「きゃあっ!」
突然のことに、避けることも踏ん張ることも出来なかった僕は、そのまま、ぶつかってきた白い塊と一緒に倒れ込んでしまった。
「い、てて……」
なんなんだ一体。
そう思いながら、上半身を起こして、ぶつかってきたまま僕に半分のしかかる形でいる白い塊に目を向けると。
「女の子……?」
うつ伏せになっていて見えないが、それは純白のワンピースを着た女の子だった。
そして何より、髪の毛が金色だった。それも染めたような人工的な色ではなく、惚れ惚れするほど綺麗なプラチナブロンドだった。
外国人の子だろうか。
「ねえ君、大丈夫?」
「ぅうん……」
その子の背中を軽く揺すりながら尋ねると、そんな声が聞こえてきた。どうやら無事らしい。
と、その子は突然ピョコンっと立ち上がり、
「あー、びっくりした! いきなり人が出てくるんだもん!」
快活な笑みを満面に浮かべながら、床に座り込んだままの僕に右手を差し伸べてきた。
どうやら日本語が話せるらしい。
「あ……あぁ、ありがとう」
手を握り、しかし出来るだけそちらには力を掛けないようにして立ち上がる。
しかし、こうして立って並ぶとはっきりとした身長差を感じる。だいたい頭二つ分といったところだ。
年齢は十二、三歳程だと思う。さすがに楓華や凪沙と、つまり僕と同い年には見えない。
「ねえ君、なんて名前なの?」
「ん、私?私はラティル。あなたは?」
「僕は昇。多々良昇だよ。」
「ノ……ノボ……んん?」
僕の名前を発音しようとして苦戦するラティル。
「あ、言いづらいなら適当に言いやすい呼び方で良いよ」
「えっと、ノ……ノ、ブ……ノブ!」
「わかった、ノブでいいよ。よろしくね、ラティル」
「うん! よろしく、ノブ」
これが不思議な金髪の少女、ラティルとの出会いだった。
*
「で、ラティルはなんでこんな時間にここにいるの? うちの生徒……じゃないよね、さすがに」
「えっと、お花を集めに……」
「花? どういうこと?」
うちの華道部ってそんなに有名だったっけ……いや園芸部の方か……?
そんなことを考える僕。一体どういうことだろう。
「私、花束を持ってたんだけど、そのお花がこの学校の建物に散らばっちゃって……。それを集め直してるの」
「うーん?」
詳しい話を聞いたが、さっぱりわからない。どうして学校中に花が散らばるんだ。
だが、実際に彼女は、花束を入れるあのビニールでコーティングされた逆円錐状の紙を左手に持っていて、その中には十数本の花が入っていた。
「よくわからないけど……それで、花はあと何本足りないの?」
「うん? あー、えっとねー……あと百七本!」
「ひゃ!?」
百七、って。
随分と気合いの入った花束だ。誰に贈るのだろうか。
「ねえ、それを集めるのって明日、というか今日日が昇ってからじゃダメなの?」
「ダメ! それじゃ間に合わない!」
「そう……。ちなみにラティル、それ集め始めたのいつ?」
「たぶん、一時間くらい前からだよ」
一時間かけて約十一分の一。しかも夜明けでは間に合わないらしい。
「ねえラティル、言いづらいけど、これ終わらないよ。終わらないなら夜遅くは危険だし、一旦帰った方が良いよ」
「うぅ、やっぱり終わらないよね……」
そう言ったラティルは、悲しげに十一分の一のボリュームの花束を見つめる。
「でも、ダメなの。日が昇るまでに集めなきゃ」
……………………。
「……じゃあわかった、僕も手伝ってあげる。一緒にやれば終わらせられるかも」
僕に得はない。むしろ、早く帰らないとまずいだろう。
でも、今目の前で悲しんでいる少女を無視して帰るなんて、僕にはできなかった。
「いいの!?」
「うん、困ってる女の子を放っておけないよ」
「ありがとう、ノブ! 大好き!」
一転、顔を輝かせて僕に飛びついてくる。今度は足を踏ん張っていたため、受け止められた。
「おっと、じゃあ早速始めようか。時間に余裕がないのは変わりないからね」
「うん、行こうノブ! まずはこの教室!」
そう言って、さっき僕が出てきたばかりの教室に入っていくラティル。
花なんて落ちてたっけな。
さっきまでいた教室を思い起こしながら、僕はラティルの後に続いて教室に入っていった。
*
「あ! お花あった!」
教室に入るとすぐ、ラティルのそんな声が聞こえてきた。
「おぉ、おめでとう。どこにあった?」
「ほら、あそこの時計のところ」
確かに、よく見ると教室の掛け時計と壁の間に黄色い花が挟まっているのが見えた。
「ノブ、あれ取ってくれない?」
「ん? あぁ、わかった」
黒板の、更に上に掛かった時計だ。ラティルの背丈では届かなくても無理はない。
「よっ、と」
手を伸ばして、折らないように慎重にしながら花を回収する。
手に取ったその黄色い花は、中央部分が黒くなっていて、花びらはまるで蝶々のような形をした花だった。
どこかで見たことがある。名前は思い出せない。
「それね、スイートピーっていうの」
花を眺めていたら、ラティルが名前を教えてくれた。確かにそんな名前を聞いたことがある気がする。
「へぇ、綺麗な花だね」
そう言いながらラティルに花を手渡す。
「ふふ、ありがとう」
まるで自分が褒められたように照れくさげに喜びながら花を受け取るラティル。
「よし、この教室にもまだお花はあるはずだよ! 隈なく探そう!」
ラティルは、クルリと背を向けてすぐに花探しに戻りながらそう言った。
僕も、ロッカーの陰、黒板の脇など教室の隅々まで探す。
***
その後、教室からさらに三本の花を見つけた僕らは、残りの花を求めて夜の学校を探索するのであった。
出たー安易に主人公を異空間に飛ばす作者奴ー
ごめんなさい。
まあ冗談(?)はさておき、真ヒロインラティルちゃんの登場です。
なぜか異空間に飛ばされる主人公。なぜか現れる謎のヒロイン。なぜか学校中に散らばる花。なぜかそれを集めなくてはいけない。
フリーホラーゲーム的展開をイメージして書きました。
決してフリーホラーゲームをdisってるわけではないです。むしろ大好きです。皆さんもやりましょう(宣伝)
というわけで物語がちょっとだけ進んだ2話。転で急展開して結で無理矢理締める。そんな無茶苦茶な話になる予定です←
では!