起・語り
はじめまして、江戸と申します。
本当は夏のホラー大賞にでも、と思って書き始めたら気づけば8月が終わりかけ。時の流れは恐ろしいです。
そんなわけで9割勢いで書いたこの作品、4話完結の予定です。長い話を書く根性は私にはありませぬ……
あ、あと怖くないです。私が怖いの苦手なので←
というわけで、そんなグダグダな話ですが楽しんで頂ければ幸いです。
「……で、その足音の聞こえる方を振り向くと、そこには白髪を振り乱した老婆がいて………………お前の目玉を寄越せえええ!!」
「うわあ!?」
「あはは、どうよ? 怖かったっしょ? 陸也なんて叫び声上げてたし」
楓華が怪談のオチに大声を出し、それに驚いた陸也が声を上げる。僕も驚いてビクッとする。……楓華と陸也両方の声に。
「ち、ちげーし、お前の声がデカいから驚いただけだ。だいたい楓華、お前もさっき俺の話の時に散々凪紗に抱き着いてたじゃねえか。お前の方が怖がってんじゃん」
言い訳をする陸也が話を逸らすように楓華に反撃をする 。いや、あれは驚いてもいたけど、本気で怖がっていた声色だった気がする。
「う……あれはしょうがないでしょ! 小道具使うなんて反則よ! ねえ凪紗?」
「え? ……あぁ、まあね。確かにあれは怖かったね、凄く」
突然楓華に話しかけられた凪紗が、同意しながら、思い出したようにブルッと震える。実際、陸也の怪談はかなりの完成度で、僕ら三人は終始その怪談に翻弄されていた。
「『あれは』って何よ、あたしの渾身の怪談は怖くなかったみたいに」
「あ、いやいや! そういう意味じゃなくて……楓華の怪談も怖かったよ?」
「むー! ついでみたいな言い方して」
「ははは、どうやら俺の勝ちのようだな」
「うるさいバカ陸也! そもそも怪談に勝ち負けなんてないわよ!」
勝ち誇る陸也に楓華が噛み付く。なんというか……いつも通りだ。
「……おい、さっきから黙り込んでどうした、昇。次はお前の番だぞ」
楓華の番が終わってから喋っていない僕を不信がったのか、陸也が話しかけてくる。
「あぁ、うん」
「なんだ? お前もしかして緊張してる?」
「まあ、ちょっとね」
やっぱり陸也は人の機微を読むのが上手い。
僕は、一番最後という自分の順番がついに回ってきて、緊張していた。僕が用意してきたこの怪談、皆にウケるだろうか。
「はは、そんな固くなんなって。俺達の仲だし、今更だろ?」
「うん……」
「何も心配することなんてないって。それに、こんなことは最初で最後なわけだし」
「うん……そうだね」
そう、最後なのだ。正真正銘の最後。この後は絶対にない。
余計に緊張する……が、それで逆に落ち着いた気持ちになった。
左手首に巻いた腕時計を確認する。高校の入学祝いに父親がくれたものだ。
午前一時四十八分。なかなか丁度いい時間だ。
「じゃあ、最後は僕の番だね。……ええと、この話ここ、連理高校を舞台にした話なんだ……」
***
話は少し遡る。
七月二十日。僕らが通う連理高校は、一昨日終業式が終わり、夏休みに入っていた。
特に何をするでもなくクーラーの効いた部屋でのんびりと過ごしていると、陸也からメールが来た。
どうやら一斉送信で楓華と凪紗にも送られているようだ。この三人とはなんだかんだ小学校からの付き合いで、高校に入学して奇跡的に四人とも同じクラスになれた。
『今度校舎でなんかやろうぜ! 最後の記念にさ』
いつも通り、陸也らしい唐突かつ簡素な誘いだ。そんな強引だが優しい友人の様子に思わず口元が緩む。
最後の記念、というが別に僕らが卒業するというわけではない。僕らはこの四月に入学したばかりの一年生だ。
では、何が最後なのかというと、今ある校舎をこの夏から建て直すのだ。学校の創立百何十年とかの記念らしい。
八月から工事が始まるため、今ある校舎に入れるのは今月までというわけだ。
『えー、パーティーだったら終業式の日に十分もうやったじゃない』
楓華が返信を返してくる。そう、もう終業式の日にクラス全員が集まった最後の教室でパーティーを行ったのだ。なぜ陸也はまたわざわざ何かをしようとしているんだろう。
『いや、あれはクラス全員だったじゃん。この四人、身内だけで何か思い出を作りたいって思ってさ』
なるほど、そういうことか。確かに、少人数でのみ共有する思い出っていうのも楽しそうだ。
『私は賛成だな。なんだか面白そう』
あ、凪紗からの返信が来た。凪紗も僕も賛成となると、楓華も乗ってくれるだろう。
うん、いつも通りだ。
「『いいね、僕も賛成だな』っと。」
メールに返信を返す。
すぐにまたメールが届いた。今度は楓華からだ。
『まあ、二人が賛成してるのに断る理由もないかな。いいよ、あたしも参加する』
予想通り、楓華も賛成する。たぶん、楓華自身も面白そうと思ってくれているんだろう。口調は嫌々といった感じだが、返信がとても早かった。
『おぉ、皆サンキューな。で、何をやるかなんだが、普通にパーティーをしてもつまらないし、せっかく夏だから怪談をしようかと思うんだけどどうよ?』
陸也から計画が提案される。
夏休みの、他に誰もいない夜の校舎で怪談。フィクションではよくあるネタだが、実際にはなかなかできない。でもだからこそ、特別なイベントという感じがして心が惹かれる。
『うん、いいと思うよ。こんな時じゃないとできそうもないしね。そんなこと』
『おー、いいじゃない! 夏といえば怪談よねやっぱり』
二人からほぼ同時にメールが来る。イベントを前に二人もテンションが上がっているようだ。
『僕もいいと思うな。で、いつそれやろうか?』
僕も返信を返す。その日の予定を空けておかなきゃ。
『あー……いつがいい?』
陸也もさすがにそこまでは考えていなかったらしい。僕らに意見を聞いてくる。
『あ、あたしいいこと思いついた! 七月三十一日の深夜、というか八月一日の午前二時! なんてどうよ?』
楓華が案を言う。
さっきも言った通り、工事は八月から始まるため、楓華の言う時にやれば、正真正銘の、今の校舎での『最後』になるだろう。
『おぉ、それいいな!』
『いいね、更に特別、って感じがする』
『僕はその案賛成だな、予定も丁度空いているし』
僕ら三人のメールが入り乱れる。皆異存はないようだ。
『よし、じゃあ七月三十一日の午後十一時に正門前集合な。それまでに怪談考えとけよ!』
そう陸也が締めくくって、僕らの怪談会が決定した。
「……さて、と」
そうと決まったなら、飛び切りの怪談を用意しなくてはならない。
と言っても、僕はその手の話に詳しくない。せっかくの記念だ。それに相応しいクオリティのものを持っていきたい。
であれば、やはりあの人に頼るしかないだろう。
僕はさっきまで座っていたベッドから立ち上がり、部屋から出て、隣のドアを叩いた。
「昴兄、起きてる?」
現在時刻は十三時すぎ。夜型の兄だが、さすがに起きているだろう。
うぃー、という日本語としての意味をなさない、間延びした返事が返される。ちゃんと起きていたらしい。
「入るよ。今大丈夫?」
「おうよ。いきなりどうした弟よ」
僕がドアを開きながら尋ねると、兄はPCの画面から目を離さずそんな答えを返した。
「……いい加減、働くなり勉強するなりしたらどうなのさ」
何度も繰り返した問を兄に投げかける。
「愚問だな弟よ。俺が生きる世界はここにある。割とマジで」
かけていたヘッドホンを片耳だけずらした兄は、最後だけ素に戻りながらそう答えた。
兄がこの世界に篭もりきりになってから、かれこれ2年になる。その間、兄は起きている時は常にPCに向かっている。
「で、どうした弟? 今更そんな話をするために来たわけじゃないだろう?」
相も変わらずキーボードを叩き続けながら尋ねてくる。
「『そんなこと』って……。まあそうなんだけどさ。今度陸也達と怪談会をやることになったんだけどさ、昴兄、なんかいい感じの怪談知らない?」
そう聞くと、兄はピタッとキーボードを叩く手を止めてこちらに身体を向けてきた。
「……え、っと、前に昴兄の部屋に入った時、幽霊関係の本がいくつか落ちていたから。そういうのに詳しいかな、って思って……」
兄と顔を合わせて会話をするのはいつぶりだろうか。わけもなく緊張してしまった。
「………………はぁ」
兄は少しの間黙った後ため息を一つついて、またPCの方に向き直ってしまった。
そのため息は僕に対して、というより自分自身に向けたもののように感じた。
兄は、一度うるさそうに左耳に付けたままのヘッドホンを離して、すぐに戻した後黙り込んでしまった。
……収穫はなしかな。
その後も兄が何かを話してくれる気配がなかったので、そろそろ兄の部屋から出ようかと検討し始めた時。
「弟、確か俺と同じ高校だったよな?」
「え? う、うん、そうだよ。昴兄が卒業したのと同じ、連理高」
兄の部屋の片隅に無造作に置かれた卒業証書を見ながら答える。
「だったら一つ、知ってる怪談というか七不思議というかがあるんだが……聞くか?」
「……うん! お願い!」
***
その後兄から聞いた話は、連理高校の七不思議の一つらしかったが、他では全く聞いたことがないもので不思議な話だった。が、同時に十分怪談として使える話でもあった。
そして、くじ引きの結果最後の順番になった僕は、午前二時を目前にし、兄から貰ったとっておきの怪談を語り出したのだった。
そんなこんなで1話でした。
お兄さんの昴は1話が一通り書き終わったあとで突然頭に思い浮かび、急遽出番を与えたキャラクターです。行き当たりばったりですね。なんかごめんなさい。
では、誤字脱字指摘、感想など書いてもらえたら私が喜びます。