【プロローグ】
わたしは、この世界が悪意に満ちたものだと思っている。
だがこんな偏見に満ちた考えをしているのは、ひとえに巡り合わせということもあろう。ただ少なくとも、わたしにとっての人生の巡り会わせが悪かったのは事実だと思う。もっと年齢を重ねてきた人たちからすれば、わたしの人生観などというものはちっぽけなものなのかもしれないが、わたしが生きてきた十六年間というものは、とても悪意に満ちた――世の中そのものを偏った見方で見てしまうような体験であったことも間違いない。
わたしはその人生の中で、価値観を共有する友人を失い、その惨事の尻拭いをし、全てを終わらせる役目を引き受けた。いや、引き受けたというのは正確ではない。わたししかいなかったのだから。それを話したところで誰が理解を示してくれるわけでもないし、それを終わらせようと願うならそれしかなかったのだ。
だから、わたしは被害者であり、可哀想な人間なのだ。
……などと言うと、まず多く人の反感を買うだろうからそんなことは言わない。
ただそんな考えが浮かぶのも仕方ないという部分もあろう。なぜなら、半分は不可抗力だからだ。価値観を共有する友人を失い、その惨事の尻拭いができる人間というのはわたし以外に存在しなかったのだ。だから半分は被害者。だけど、もう半分はというと自分のせいというのも疑いようのない事実だ。
そう、わたしは愚かな人間だった。
あの一件があった後、その惨事の尻拭いをできる人間がわたしだけであろうとなかろうと――ただ、わたしは逃げればよかったのである。責任感がどうこうという問題ではなく。
責任というものは、それが解決できる見込みのある場合のみに適用されるものだと思う。たとえ、その問題をその人物が解決することができないのなら、それは放棄してもいいのだ。……まあこの考えが間違いだと思うなら、わたしのことを罵ってくれても構わない。わたしは、この世界が悪意に満ちたものだと思っている次第なので。
ただ――話を戻すが――わたしは自分からそれを解決することを引き受けてしまった。誰に頼まれたわけでもない。それを途中で放棄してしまってもよかった。なのに自分の責になるようなことを進んで引き受けて、今更になってこんな反省をしている。
だが、後悔はしていないつもりだ。あの時の自分だけは嘘にしたくないのだ。
もともと、わたしは責任感の強い人間だったのかもしれない。ただ、わたしにとっての倫理観というものは著しく欠けていたのは疑いようもないことだろう。
わたしは人を殺した。
そこにいかなる事情が介在しようとも、その事実だけは変えることはできない。
たぶん、わたしはこの世の中で異常者というものに分類されるのだろう。それは自己診断でしかないが、なんとなく人間社会における価値観がちょっとズレているということは認めなければならない。それが元からだったのか、もしくは誰かがそうさせてしまったのか――わたしは後者だと思うのだけど、それはちょっと被害者意識が強すぎだろうか?
まあいい。
わたしは、勝手にわたし自身の物語を語らせてもらおう。
これは、わたしという愚かな存在――坂下夕莉が破滅していくまでの物語。