第七話
「我々が行う復讐は二つです。一つは、我々“いい人”を選ばなかった主人公に対してです。我々はこれから、力ずくで愛しい人を奪うことで、復讐を果たすのです! そして、もう一つの復讐。それは……」
ガンモドキさんは復讐に関する具体的な内容について話を始めた。
「それは、“作者”に対しての復讐です。我々はこの『ぶっくおふ』の中に“作者”がいるという情報を手に入れました。まだ詳しい場所はわかっていませんが、これから“作者”の居場所を必ずや突き止めます。“作者”の行為は絶対に許せません。必ずや復讐してやりましょう!!」
「おおーー!!」
「そうだそうだ! 復讐だ!!」
「ガンモドキさん素敵!!」
会場に集まった人々の熱気がさらに上がった。みな、ガンモドキさんの演説に対してすごく共感していたのだ。
「みなさんの気持ちはわかりました。私と同じ気持ちでいてくれて、すごくうれしいです」
ガンモドキさんは少し照れた様に笑い、両手を上げ下げして人々の熱気を冷ましてから、少し静かな口調で再び話を始めた。
「……さて、本題はこれからです。今日みなさんにわざわざ集まってもらったのには理由があります。それは、“順番”を決めるためです」
順番? はて、何の順番だろうか? 僕は疑問に思いながら、ガンモドキさんの話に耳を傾けていた。
「最終的にはここにいる皆さん全員の復讐を果たすつもりです。しかし、ちゃんと順番を決めないと、途中で不平不満が起きる原因になるかもしれません。ですので、ぜひともこの場で、公平に順番を決めたいのです。……ということで、まずは立候補を募りたいと思います。我こそは一番に復讐を果たしたいと言う方は、挙手をお願い致します」
「…………」
「…………」
「…………」
やはり、僕達はいい人の集まりだった。誰一人、手を上げようとしない。いい人であるが故に、自分よりも他の人を優先しようと反射的に考えてしまうのだ。演説をしていたガンモドキさんだって、「自分の復讐を一番にやるぞ!」と、わがままを言うことだってできたはず。それなのに、わざわざ全員を会場に集めて、しっかりと手順を踏んで、公平に順番を決めようとした。
いくら『作者の意図』が存在しないからと言って、“物語”の中での性格を変えることは、中々に難しいようだった。僕自身、「自分よりも他の人の幸せを優先したい。そのためなら、多少自分が犠牲になってもかまわない」、そんな風に考えていた。
「それじゃ、くじ引きにしましょうか……ね?」
結局、くじ引きで順番を決めることになった。はたして、こんなお人よし集団に復讐など成し遂げることができるのだろうか? 僕はそんな一抹の不安を抱えながら、くじを引いた。