第六話
『ぶっくおふ』
ここは終焉をむかえた“物語”の登場人物達が集う世界。
この世界では、人は赤ん坊の姿で生まれない。それぞれの“物語”の最期の状態で生まれるのだ。しかも、“物語”の中での能力や財力も引き継がれる。だから、“物語”の中でお金持ちだった人はその財産を持ったまま、『ぶっくおふ』での生活が始まるのだ。当然、“物語”の記憶もある。
僕も“物語”の最期をむかえた瞬間、20歳の学生という状態でこの『ぶっくおふ』に生まれた。そして、“物語”の悲しい思いでも、ちゃんと心に残っている。
一方、『ぶっくおふ』とは別に“物語”と呼ばれる世界が存在する。“物語”とは“作者”が創った世界であり、僕ら登場人物が本当の意味で生まれた世界だ。
そんな“物語”の中には、ある制限が存在する。“物語”の登場人物達は、ちゃんと自分の意思というものを持っているのだが、それとは別にもう一つの意識に支配されているのだ。
例えば何か嫌なことがあったとき、登場人物達はそれをしたくないと思っても、もう一つの意識に体をのっとられて自分の望まない行動を取ってしまうことがあるのだ。それは、『作者の意図』と呼ばれている一種の制限であり、登場人物達は“物語”の中にいる限り、けしてその呪縛から逃れることができない。”物語”の中で決められた役割から逃れることを、”作者”は決して許さないのだ。
自分の役割の通りに行動するということが、”物語”を進める上で重要なことくらい、わかっている。それでも、やりたくもないことをやったり、言いたくもないことを言うのは、辛いんだ。大好きだったのに、全てを敵に回してでも奪い去りたかったのに、あの時『作者の意図』に支配された僕の体は、彼女を追いかけることができなかった……。
『作者の意図』、それは『運命』と置き換えてもらってもかまわない。とにかく、自分ではないほかの誰かが決めた結末に、僕ら登場人物はずっと、縛られ続けてきたのだ。
しかし、それももう終わりだ。『ぶっくおふ』には、『作者の意図』は存在しない。自分の思った通りに行動できる。こんなに幸せなことはないんだ。だから僕達は“やさしい人であれ”という『作者の意図』から抜け出して、わがまままで最低な自己主張やろうになってやるんだ!
僕はいつの間にかガンモドキさんの熱い演説に感化されたらしく、手に汗握りながらそんなことを考えていた。